■ BRANDING #05

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■ BRANDING #05

ブランドパーソナリティから見る次世代のマーケティング・リサーチ vol.1

ブランドパーソナリティから見る次世代のマーケティング・リサーチ

今回のブランド対談は、一般社団法人 ブランド戦略研究所 理事長、関西大学の陶山計介教授と、マーケティングリサーチの株式会社ドゥ・ハウス 取締役副社長の高栖祐介氏の対談です。モノが売れない時代と言われ多様化するマーケットに対応するためには、事実をどう捉えるか。次世代のマーケティングから、企業のブランディング構築までを、リサーチ会社の目線で語っていただきました。
次世代のマーケティング・リサーチ
陶山氏:今回ブランド戦略研究所の8月特別研究会にご参加いただいて、何かお気づきになった点はありますか?

高栖氏:ブランディングというと、商品をどうブランディングするかという部分に焦点を合わせることが多いのですが、今回『そのブランドを消費者はなぜ好きになるのか』という「なぜ」の視点からお話させていただきました。

お客様が実際に商品を手に取って買う瞬間というのは、あまり合理的に考えておらず、その商品が「良いか悪いか」というより「好きか嫌いか」で判断されています。それがその商品の持つ性格、つまり「ブランドパーソナリティ」なんですね。

陶山氏:ブランドパーソナリティというのは、その商品やブランドが持っている性質や能力などの特徴のことで、例えばある製品を見た時、消費者がとても親近感を持てるブランドのパーソナリティは、その消費者自身のパーソナリティと同じではないかという一つの仮説です。

ブランドパーソナリティは商品やブランドの便益や価値に対する納得と共感の前提になるものとも言えますね。つまりお客様に納得と共感されるためには、商品やブランドの持つパーソナリティが重要な要素になります。

従来のマーケティングリサーチは、マーケティングや消費者行動に関する何らかの理論や仮説を立て、それにもとづいて調査票を作成し、それから得られる定量的なデータを分析・解析するといった、定量調査が典型的なものですが、それについて少しお話を聞かせていただけますか。

高栖氏:定量をどう捉えるかなのですが、人の話を聞くことの中でも「消費者の声を聞く」にはいくつかのパターンがあります。「聞く」は英語にすると「Ask」と「Hear」と「Listen」の違いがありますが、従来の調査の聞き方は「Ask」が多いんですね。つまり、問い教えてもらう。

アンケート調査にしても、「これについてどう思いますか」とお客様に意見を自由に書いていただいたり、選択肢を用意して選んでいただくというパターンが多いのですが、問うことによってお客様が頭で考え意識的に答えたことが、本当にその人を理解するのに正しい手法なのかということについては、私どもでは「正しく理解できない手法」と考えています。

人の行動は、無意識によって行われることが大半になりますので、意識的に答えることは、誇張してしまったり、思い違いをしていたり、こうなりたいといった願望が入っていたり、また良く見て欲しく見栄を張りたいといった意識も入ってしまいがちになります。

そうした意識の入った調査のデータを分析しても、元々の事実が入っているかどうかが判らない。それを鵜呑みにして商品化するしないの決断をするのは危険だと思います。

陶山氏:私たちもさまざまな定量調査を用いて研究していますが、そこには調査する側の理論や仮説があって、それを検証するために行うことが多いですね。

調査結果の定量データ化を統計学的に解析するというのもひとつにはあると思いますが、最初の調査票のところで、なんらかの調査主体の意識や目的があらかじめ入ってくると、果してそのデータは客観性を持つのかどうなのかということですね。

率直に消費者の声を聞く、その声を受け止めるということが重要で、何らかの意図が入ったりバイアスが掛かってしまうと、本来の購買行動を映し出せなくなってしまいます。

なぜある商品を選んだかということを、実際にお店で商品を手にしている場面ではなくて、WEB上などの調査票の質問項目を見ながら、「あのときはこう思ったのでは」と想像するんです。

その結果を集計して理屈付けしても歪曲されている場合が少なからずあり、事実が見えてこない。つまり正確に消費実態が把握できないということは仰るとおりですね。それでは消費者の「意見」や「意識的な言葉」ではなく、なぜこの商品を選ぶのか、どうして好きなのかの事実を理解するには、どのような調査やリサーチが必要になりますか?

高栖氏:我々の考えで「行動はウソをつかない」というスタンスがありまして、人は口から発する言葉や文字や記号で答えることにはウソをつきやすい。つまりそれらの行為は意識が入っているので、自分が本来思っていないことを答えたり書けたりできるんですが、実際に行動したことにはウソはない、事実しかないと思うんですね。

今朝コーヒーを飲んだということや、昨日スーパーで何かを買ったとか、実際の行動にはウソはないので、そこの着目した調査を実施することが消費者の実態を見誤らないために必要だと思います。

陶山氏:消費者行動にはある種の因果関係があります。つまり消費者はこんなニーズを持っていて、あるいは満足の対象は何で、また失敗のリスクを軽減したいといったさまざまな動機によって行動しますね。その動機を探り、現実の行動を解釈するためには、なんらかの仮説や理論が入ってこざるを得ないかと思いますが。

高栖氏:例えば野菜ぎらいのお子さんに野菜を食べさせたいというニーズがあって、それに対応する商品を作りたいといった場合、まず野菜ぎらいのお子さんを持つお母さんはどういう行動をとっているのかというのをフォーク化させるんですね。

一般的なパーソナルインタビューなどを行う際に、事実・行動ベースで聞いていくのですが、野菜を細かく刻んでハンバーグに入れたり、野菜ジュースにしたり、また野菜はこんなに体に良いんだよと子供に自分で調べさせたり、最近はライブ食といって、子供に自分で収穫させたり調理させたりといったことも出てきます。

そうしたフォーク化された行動の中から課題を見つけ出し、解決するソリューションとしての商品を提供する。ここでいうと、子供と一緒に安全に調理できて野菜ぎらいを克服したいという充足ニーズに応えられる商品を開発するということになります。

陶山氏:生活者の実際の行動から離れたなんらかの理論や仮説に基づいたリサーチよりも、消費者自らが持つ充足すべきニーズによる行動と、そこにある課題を解決しようとする行動に寄り添いながら、満足できない、充足できないことをサポートするための商品開発をする。そのための行動観察ということですね。

高栖氏:ええ、商品開発の一番はじめ、どういう商品を作るかというアイデア出しのところで今消費者がどういった実態なのかを把握するには、アンケート調査より行動観察といった事実を基点にした調査のほうが合っているのではないかと思いますね。

 


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