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■ INNOVATION #05

哲学から見る現代社会の「議論」 vol.1

哲学から見る現代社会の「議論」

今回は経済評論家の岩本沙弓氏と、フランス文学・哲学研究者、慶應義塾大学教授 堀 茂樹氏との対談です。堀茂樹氏の提唱する「オイコスの会」~身近な生活を取り巻くさまざまな問題を深く探り、これからの社会の共生の在り方を考える~ シリーズ企画「現代を考える」第一回目講演を終えたお二人にご対談いただきました。「オイコスの会」
堀氏:「オイコスの会」は、岩本さんのご著書にも書いておられた「知的武装」というコア概念があって、日本の政治文化を深める、高めることに少しでも貢献できればと思い発足しました。

討論会でもありますから互いに学び合うのですが、政治文化といっても、ある政治家や政党を応援するということではなく、根本的な議論や建設的に何かを提言するといった、ポジティブな議論の空間を作ることが、今の日本の公共社会に必要だと思ったのです。

もちろんいろんな討論がマスメディアでも行われているのですが、視点に重層性のない場合が多い。これじゃいけないと思うんですね。たとえば、朝生(朝まで生テレビ)です。いつも決まって、「どうする日本!?」とやっている(笑)
堀氏:「日本人として日本のことを日本のために」ということになっていて、非常に「日本」に密着している。密着してはいけないということじゃないんですが、岩本さんが仰るように外から、つまり国際的視野の中で日本としてどうするかという観点が必要だと思うんです。

パフォーマンスに終始してしまう議論、人を驚かせるようなことを言ってみたり、ケンカのふりしてみたり。こういう終わり方をすることが非常に残念でね。私は長くフランスにいたので思うのですが、フランスでは無数の議論や討論の機会があって日本にはほとんどない。

政治集会でスローガン立てて頑張ろうっていうのは多いですが、それ以前に、消費税にしてもどういう理由で、どういう論拠で、どういう考え方で賛成だ反対だって言ってるのかということなんです。

主張そのもの以上に、その論拠を大切にすれば、自分と違う意見の相手とも面白く議論できるわけで、つまりは面白いんですよ。そういうことが高まっていかないことには、長期的に見て日本の政治は良くなっていかないんじゃないかと思いますね。

岩本氏:議論をするにはまず議論をする材料が必要ですし、そのためにはファクト(事実)がニュートラル(中立の状態)に自分の中にないと議論できませんものね。

堀氏:その通りです。だから事実を事実として共有するというベースが必要です。自分の論議や主張に都合良く脚色したものや歪めた事実ではなくて、むしろ自分が主張したいことに都合の悪い事実ほど尊重すべきなんです。
岩本氏:私も常に調べ物をする際にはまず自分を疑って、ファクトが固まった段階でそこからどう考えるかということをしています。

堀氏:それが結構できないんですよ。都合の良いことだけに飛びついて「ほら見たことか」と悦に入ってみたり、やっぱりそうだったんだと鬱憤晴らしてみたり、自己満足に陥ることが多いんですよ。

岩本氏:ええ、誰でも都合の良いことは心地よいですからね。でもそれでは駄目だなという思考回路になったのは、やっぱりディーラーの経験からだと思います。相場は自分の都合の良い方向などには絶対動いていきませんので。

堀氏:そんなこと考えてたら負けるでしょ?(笑)

岩本氏:負けるんです(笑)

堀氏:そうでしょうね。厳しいわけだ。そんな自分の希望とか期待とかに甘ったれた態度では結局負けてしまう。

岩本氏:ええ。自分は何もできない人間で無能な人間だ、自分の予想など外すのが大前提だ、というアプローチにしないと勝てなかった、ということですね。

堀氏:それは素晴らしい。

岩本氏:先生にそうおっしゃっていただくと恐縮してしまいますが、そんな大層なことではなくて、自分が負けることを前提にして相場に臨まなければ勝てなかった、それだけなんです。ただ、自分と相容れない意見だとしてもそれを客観的に見るような、そういった思考が日本人は苦手としているのかなと思います。

2013/11/19


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