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■ INNOVATION #06

現代社会の象徴「消費税」 vol.1

現代社会の象徴「消費税」

慶応義塾大学教授 堀茂樹氏を中心として活動されている「オイコスの会」。『現代を考える』シリーズとして、各界のゲストを招かれ、知的武装を目指した活動をされています。今回は2014年4月に行われた同会のゲスト、湖東京至氏と岩本沙弓氏との鼎談です。4月から引き上げられた消費税を廻り、その在り方と実態について議論いただきました。取材会場は重要文化財に指定され、創建時の姿をとどめる現役の官公庁建物としては日本最古の京都府庁旧本館・正庁の執務室です。
堀氏:私は当たり障りのない講演が嫌いです。最後に「これから注意深く見守っていかなければならない」なんていう決まり文句で終わるのってありますよね(笑)

なんとなくうんちく広げて「いろいろ知ってますよ」ということを示しただけというような講演。さて、今日は非常に明確な主張のある講演を聴かせていただきました。先生はこうした講演をなさることが多いですか?

湖東氏:どちらかというと事業者の方向けにお話させていただくことが多いです。主婦やサラリーマンの方もおられますが、事業者の方に話すほうが樂ですね。というのも消費税のしくみはなかなか複雑ですから。

年間の売上高の中から仕入額を引いてそれにパーセントを掛ける。そんなことは政府の説明にもお店にも、どこにも書いていないんですよ。なのでそこから説明するのは容易なことじゃないんです。

事業者の方は消費税を納める立場なので、うっすらでもご存知なので話しやすいのですが、しかし消費税は弱者に対して厳しい税金だという点は共通なんです。

この4月の大さわぎ。お祭りさわぎのようですが、これ自体が一種の人為的な物価上昇、インフレを招くための「作業」なんですね。それをいかにも消費税が3%上るものだということを軸に考えさせていますから錯覚を起こすんです。

堀氏:デフレ脱却の「ふり」なんじゃないですか?
湖東氏:ええ。税というものを利用して「人為的に」です。アメリカもそれはいかんと指摘しているんです。税を利用してインフレをおこすと全部の物価が上がることは避けられない。特に公共料金ですね。

そうすると低所得者層の家庭に影響があるからやってはいけない。これがアメリカが消費税・付加価値税を導入しない理由の一つです。さすがだと思いますよ。

元々シャウプ博士(カール・シャウプ/アメリカの経済学者)の考えた付加価値税というものは、法人税の一種で、事業者に課税するものですから、価格に転嫁することを考えていない税金なんです。

税率が上る度にインフレになり物価が上る。これは何としても避けなければいけないというのがアメリカの考え方。そういう位置付けでスタートしていますから、そこでボタンの掛け違いをしているわけです。この次10%に引き上げるとまた同じことがおこります。大変なことですよ。人為的にインフレを作るということは。

岩本氏:今デフレ脱却がよろしいということですが、問題の本質はデフレ脱却だけでは十分なくて、例えば国民の所得を上げることが最大の問題です。それをデフレ脱却という言葉でまとめようとすることに無理があると私は思います。

その本質の部分に触れないで、デフレ脱却するにはどうしよう、それにはインフレをおこせばいい、じゃあどうすればインフレになるだろう・・そうした極めて短絡的な発想ですよね。

堀氏:お金をたくさん刷るとかね(笑)
岩本氏:(笑)インフレにするために消費税を上げて実質的に値上げしようということだと思いますが、それは結果の話。物価さえ上れば良いというわけではなくて、国民所得がどうすれば上がるかという話のはずです。

国民所得について積極的に触れないまま、消費税を上げるということは、ちょっと悪質じゃないですかと思うんです。

堀氏:それじゃ生活は良くならないでしょう。

湖東氏: ならないどころかますます悪くなりますよ。

堀氏:私も非常に納得いかないものを覚えますが、そういう手段に使われていることは、ほとんどの人は思いもしないでしょう。それでお話を伺っていて不思議だと思うのですが、消費税反対の人たちの言う「逆進性だからいけない」という議論ではないですね。

湖東氏:そこがなかなか受け入れられないところなんです。(皆さんがよくおっしゃる消費税によって生じる)逆進性というのは物価としてのインフレですから。

インフレで物価が上ると低所得者層ほど負担が大きくなりますが、これを(物価によるインフレの部分には触れずに消費税による)逆進性とすりかえると「税だから」ということになる。でも「税」じゃないんですね。物価として意識的に上げられたものの逆進性であって、税の逆進性とは所得税や法人税に現れます。

ですから「消費税は逆進性が強い税金だ」という前提は、すべてアメリカ型の小売売上税の段階の話。仮にアメリカが全部に課税すれば、それは逆進性が強くなる。それを避けるためにアメリカでは生鮮食料品もバスもタクシーも電車も、生活必需品には一切課税していないんです。

それは小売売上税だからできるのですが、付加価値税の消費税ではできない。下からずーっと課税するしくみだから無理なんですよ。だからアメリカの小売売上税だと、ペットボトルは非課税といえば全部非課税。単純なんです。
堀氏:売上税方式であれば、「奢侈税」という形で贅沢品に高く課税することもスッキリとできますね。

湖東氏: ええ。アメリカの場合、二つの税率を持つ州は無く、全部単一です。逆に単一だから全てのものに課税すると逆進性が出てくるわけです。ところが日本の消費税は税としてのスタイルを成していませんから、それをストレートにアメリカ型と同じく逆進性と言い切ることはどうなのかと私は思います。

堀氏:それは新しい知見ですね。

湖東氏: 竹下消費税、中曽根売上税、その前に大平一般消費税というのがありましたが、私達はずっと「逆進性」で戦ってきたわけです。「大型間接税」という言葉が流行りましたが、消費税はきれいな間接税ではないと思いますので、今は極力使わないようにしています。

岩本氏:それはなぜですか?

湖東氏:「大型間接税」は間接税のうち、全てのものに課税するものを指しますが、そもそも消費税は間接税と言い切れないからです。

2014/05/22


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