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■ INNOVATION #08

超高齢化時代の『ニッポン』を支える仕事、作業療法士~先進国アメリカから見えてくるもの~vol.1

超高齢化時代の『ニッポン』を支える仕事、作業療法士
~先進国アメリカから見えてくるもの

作業療法士―、「こころ」と「からだ」のリハビリを行う専門家。 交通事故や病気、生まれつきの障害などの理由で体に障害を持つ方に対し、日常の生活動作の訓練や指導を行って社会復帰をサポートする仕事だ。 これまでの業務に加え、今後、超高齢化社会が進む日本において、この作業療法士の役割は果てしなく大きい。 元全米作業療法士協会の会長にお話を伺った。
谷本氏:初めに、何故、この作業療法士というキャリアを選んだのかを伺っていいですか?

Karen Jacobs氏:実は、高校や大学時代に「作業療法」という言葉は聞いたこともなかったんですが、このキャリアに行き着いたのは、実は面白い経緯があるんです。

私は大学で、幼児教育に関する心理学の学位を取得しました。しかし、一方で、日本のような美しい美術工芸が大好きだったんです。それで、アーツ・アンド・クラフツフェアの展示会に出展していたんです。

その時、私の隣に陶芸家が出展していて、その彼女が作業療法を勉強していて、大きな生体構造の本を持っていたんです。

そこで、彼女から色々学び、この作業療法というのが、私の興味ある、薬品、心理学、人々と働くこと、そして、創造力を全て兼ね備えた職業だと気付いたんです。それが私がこの職業を選んだきっかけです。

当時、学士は持っていたので、作業療法の修士課程へ入るためにボストン大学に出願しました。これは一生出来るキャリアだと。しかも、自身のスキルや技術を使って、世界のどこででも働ける素晴らしい仕事だと思いました。

谷本氏:実際になられてみてどうでしたか?思い描いていたものとの違いはありましたか?

Karen Jacobs氏:多分、私が作業療法士について初めて学んだ時、それがなんであるか詳しく分かっていなかったと思うんです。

恐らく多くの生徒たちも、大まかにはわかっていても、実際に学校で学んで、2-3か月のインターンを経るまで分からないんじゃないでしょうか。いえ、もっと時間がかかるかもしれません。実際なってみて、その職業としての魅力は天井知らずでした。

作業療法士は、それぞれの人の人生に沢山の意味をもたらしているのです。作業療法は、それぞれの人が自身の生活や仕事に参加するためのスキルを促進させるお手伝いをするヘルスやウェルネスの専門職だと思うんです。
谷本氏:働いている時にもっとも気を付けていること、大切なことはありますか

Karen Jacobs氏:私が最も大切だと思うのは、クライアント中心になること、根拠に基づいた論文を用い、ベストの方法を提供すること、そして、作業を中心とすること。これら3つが私たちが常に心に留めている非常に重要な見地になります。

クライアント中心というのは、私たちがクライアントに何をするかを告げるのではなく、クライアントやその家族とともにどんなふうになりたいのかというゴールをセッティングすることです。

ベストな訓練にさせるために、根拠に基づいた論文を使うこと。 そして、3つ目、作業中心とは、その人にとって意味のある行動を用いること、つまり、その人が非常に興味を持っていることをすることです。

これらは階層的なものではなく、同時に用いられなければいけません。これら3つを一緒にすることがキーなのです。

谷本氏:それはいかにもアメリカンスタイルですね。というのも日本では、患者は医者や作業療法士がいうことや、作ってきたプログラムにただ従うだけのように思えます。日本人ももっと意思をはっきり彼らに言うべきなのでしょうか

Karen Jacobs氏:私達、作業療法士は、一般的に「患者さん」という言葉の代わりに「クライアント」という言葉を使います。そして、より効果を高めるために、クライアントと私たちは協力をしていくべきなのです。

ただ従うというような関係ではなく、その方が更に効果が高まりますから。モチベーションも変わりますし、結果も良くなる。

勿論、そのためにはご家族の承諾も得る必要があるでしょう。クライアントやご家族が受動的であるより、重要な決定をしていく一つのチームとして協力しあうことが大切だと思うんです。

谷本氏:その通りですね。 そして精神的なケアというのもクライアントだけではなく、ご家族にとっても必要になると思います。

Karen Jacobs氏:メンタルヘルスという側面は本当に大切だと思います。 例えば、ある人が腕を怪我し、リハビリが必要だとしましょう。そこに必要なのは、身体的なリハビリだけではありません。メンタルヘルス、つまり、精神的なものも必要になってくるのです。

怪我した腕が、着替えや子供を抱きかかえること、料理を作ることにどう影響してくるのか、そういったことを考えなければいけないからです。ですから、メンタルヘルスはいつもリハビリテーションに含まれるのです。
谷本氏:ただ、日本では身体的なケアに重点が置かれ、メンタルケアが十分に行われていないように思います。どのようにこの状況を変えて行けばいいのでしょうか。

Karen Jacobs氏:今日本はパラダイムシフトにあるんだと思うんです。その過程において、人を身体面と精神面に分けて考えるのではなく、一つの人間として見ていくということをしなければならないと思います。

谷本氏:話は変わって、このヘルスケアの分野で一番危惧されることや課題などはあるのですか

Karen Jacobs氏:アメリカでは、ヘルスケアシステムは3つの変数によって動かされています。コスト、アクセス、そして、ケアの質です。

コストを重視するならば、ある一定の期間で効果が表れるような、効率的で生産的な方法でベストなサービスを提供していかなければならないでしょう。

そしてもし、当初想定していたところに到達できなかったり、リハビリの成果が頭打ちになってしまったら、その時、在宅の方向に進めるようシステムを変えるという風にしなければなりません。

重要なのは、証拠、根拠にもとづいてやることです。クライアントを見て、その人に可能な限りベストのサービスを与えること。

つまり、もし、彼らが更なるサービスを求めていたら、私達がクライアントの支持者になってあげることなんだと思います。

日本の作業療法士に申し上げたいことは、根拠や証拠に基づいたベストな方法を提供するだけでなく、調査研究し、身体に関する知識を更に進化させていってほしいということです。

決断を下す時に、費用対効果があるかを見極め、違いや結果を出せる知識を発展させていくべきです。それが出来れば、私たちはいかなる国においても健康やリハビリを変えていけると思うんです。

谷本氏:日本と比べ、アメリカの方が恐らく作業療法という分野は進んでいると思うのですが、実際、療法士の数は十分にいるのですか
Karen Jacobs氏:いい質問ですね。アメリカについていえば、最近出された記事によると、作業療法士はベストキャリアの7位にランクインしたんです。この分野は急速に興味を持たれ始めているのが見られます。

リハビリだけを見れば3位なんです。素晴らしいですよね。 そして、その興味ある人たちがこの世界に入りたくて、実際仕事はあるか?あります。

この仕事を見る上で、いくつかの重要な時代のプロセスがあると思うんですね。 一つは人口変化。いわゆるベビーブーマー世代はいまや高齢者を大きく占めるグループになっており、ここにニーズがあります。

この世代の人たちはこれまでと感じ方が違うのが特徴で、より健康に暮らしたいと考えており、作業療法は彼らにライフスタイルの再設計や、より健康に生活できるための変化をデザインするライフスタイルを提案できます。

また、私たちは国から障害を持つ子供たちの為に学校にサービスを提供することを委託されています。アメリカでは、実は作業療法士の多くの人たちが学校で働いているのです。そういう法律が制定されたのです。

皆さんも聞いたことあるでしょうが、2010年3月にオバマ大統領が署名した医療保険制度改革法のことで、オバマケアと呼ばれるものです。これは医療費負担適正化法です。この法律の中で、作業療法士は非常に沢山の機会に恵まれます。特に私が興味を持っているものの一つに「テレヘルス」があります。

谷本氏:「テレヘルス」ですか!これは日本でも非常に需要があるでしょうね。

Karen Jacobs氏:そうなんです。この「テレヘルス」は、技術を使って作業療法のサービスを提供できるものです。 例えばウェブカムやコンピューターを利用し、コミュニケーションを取ることが出来るんです。

そう、直接会わなくても、あなたの家からボストンにいる私とインタビューできるような感じです。その点についていえば、どんなに距離があっても作業療法のサービスを提供することが出来るという事ですよね。

谷本氏:それは本当に素晴らしいですよね。ボストンからサービスが受けられるなんて!

Karen Jacobs氏:私の同僚であるナンシー・ベーカー博士と私で、遠距離でも使えるテレヘルス用のオンライン評価システムを構築したのです。

これまでクリニックに足を運ぶことが出来なかった人でも同じようにサービスが受けられるという、テレヘルスは作業療法士にとって非常に強力なツールです。

例えば、作業療法士がクライアントに家ででき、家族がそれを支えることが出来るプログラムを提供することも出来ます。

そして、ウェブカメラを使って、彼らがきちんとプログラムを出来ているか確認し、正しく指導することも、家族にフィードバックを与えることもできるんです。

谷本氏:まさしく、そういう事が求められているんですよね。
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2014/10/02


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