■ コンサルティング談 #06

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■ コンサルティング談 #06

お客様とともに走り抜く

お客様とともに走り抜く

第6回目のゲスト・岡田憲政さんは、中小企業診断士資格を取得して6年。独立後5年のキャリアで、幅広く活躍中です。どんなことにも臆せずチャレンジし、その中で自身の持論を固めながら、キャリアを着実に広げていく力がインタビューの中からも垣間見えました。会社員時代の経験が独立後にどのように活きたか、また、どのようにして仕事を獲得してきたか、さらには仕事への取組み姿勢などを赤裸々に語っていただきました。
視野の広がりともどかしさ
平井:中小企業診断士を目指されたのはいつですか。

岡田:30歳の頃ですね。大学卒業後、アパレルメーカーのエドウインに就職し、気合いと根性で働いていた自負はありましたが、自分の仕事には論理性が不足していると思い始めました。

同世代の銀行マンや商社マンが輝いて見え、コンプレックスを感じていた頃でもありました。実は、「洋服屋を経営したい」という漠然とした思いからアパレルメーカーに入社したのですが、そう言いながらも、経営の勉強について努力も取組みもしていないことに気づいたのです。

何か勉強することで、これらのモヤモヤが晴れるのではと資格を調べていたとき、中小企業診断士の資格と出会い、勉強することを決意しました。

平井:その頃、独立は視野にありましたか。

岡田:勉強を始めたとき、独立は考えていませんでしたが、父親が自営業ですし、子どもの頃から漠然とその意識はありました。ただ、独立と言ってもやり方はまったくわかりませんし、当時は、会社員としての自分にある程度満足していました。

平井:勉強している間に、考え方が変わりましたか。

岡田:勉強すればするほど知識は増えますが、同時に会社で実践することの難しさを感じるようになりました。マーケティング理論をそのまま振りかざしたところで、「何なの、お前?」というのが関の山ですよね。

勉強して知識がつくほどに、実践したいけれど、実践できないもどかしさを感じるようになりました。視野は広がりましたが、一方で、そこに追いついていない自分がより明らかになったと感じましたね。

ゲスト:岡田憲政氏
中小企業診断士の勉強が与えてくれたチャンス
平井:中小企業診断士資格の勉強がきっかけで、部署を異動されたようですね。

岡田:はい。メーカーなのに、自分は作る側の仕事をしていないことに気づきました。これは、生産管理や運営管理の勉強をしたおかげです。

入社から8年間、営業部門に所属していましたが、製造部門への異動を考え始めました。営業部門に所属している間は、売れ筋がなぜ欠品するのかを理解できませんでしたが、わからないなら自分で製造に携わったほうがいいと思ったのです。

平井:製造部門への異動で、さらに視野が広がりましたか。

岡田:工場に対する苦手意識もまったくありませんし、コンサルティング業務に活きています。商品企画にも携わりましたし、パッケージのデザインも経験しました。製造部門と営業部門の経験で、商品が生まれてから、お客様の手に渡るまでの全工程を見ることができました。

平井:資格の勉強を通じて異動を決意され、さらに勉強内容と仕事内容がリンクしたのは素晴らしいですね。会社での幅広い経験は、独立後の仕事にも活きている部分がたくさんありそうですね。

岡田:はい。会社が実践主義を貫いていましたので、現場で起こった事実でしか語ることを許されない社風でした。そのため、現場の販売員さんと同じ立場で話をしましたし、一緒にティッシュ配りをしたり、「いらっしゃいませ」の呼び掛けを行ったりしていました。コンサルタントになったいま、現場で販売員さんと一緒に動けることは、自身の強みになっていると思います。

平井:会社員時代にもっとも充実感を感じたのは、どのような仕事でしたか。

岡田:7名の営業チームのリーダーを任された時ですね。それまでの仕事のやり方とは異なり、部下のことも考えないといけなくなりました。でも、自分の成長より、部下の成長を感じられたときにとても嬉しく感じたんです。それまでとは違う次元の充実感でしたね。

若いチームが若いなりに頑張って成果を上げていましたし、良い意味で部活のような仲間意識がありました。チームをまとめるのには苦労もありましたが、ここでの経験も、いまの礎になっている気がします。

平井:どのような点が、いまの仕事に活きていますか。

岡田:理屈だけでなく、人間関係に配慮した対応が求められる場面ですね。人間関係の良くない部門があっても、1つひとつの事象に揺れ動かされることなく、自信を持ってアドバイスしています。これは、営業チームの運営経験で自信をつけられたからだと思います。

平井:さまざまな経験が、いまの仕事につながっていますね。でも中小企業診断士試験合格後は、独立か転職かで迷われたそうですね。

岡田:はい。合格するまでは、余計なことを考えずに突き進みましたが、合格後は、どこに向かっていけばよいのかと悩み始めました。独立してやっていける自信はないけれど、会社の業務では充実感を感じられない。そのように考えていると、仕事に対するコミットが減ってしまって、それがとても辛かったです。

「自分のしていることに誇りが持てるのか」と問うたときに、一歩引いて仕事をしている自分には誇りを持てませんし、かと言って、どっぷり仕事に打ち込めるわけでもなかった。いまの自分は、一番中途半端だと思っていました。

平井:そのような中で、独立の背中を押したものは何ですか。

岡田:目の前の仕事に打ち込んでいない自分はカッコ悪い。打ち込めばよいのですが、それもできない。独立は怖いから、転職でもしようかな…。と、そこでふと思ったんです。いつまで青い鳥を探しているんだ、と。

また、父親に独立を相談したところ、あっさり「やりたいことがあるんだろ?やってみればいい」と言われました。どこか止められることを期待した部分もあったのですが、それで独立する決心がつきました。

インタビュアー:平井彩子
会社員時代以上の充実感
平井:独立後は、どのように仕事を獲得していきましたか。

岡田:とにかく、さまざまな人と知り合うことを意識しました。目の前の出会いにしたがってさまざまな場所に顔を出していたら、多くのつながりができました。受講していたコンサル塾の講師の方に、「今度遊びに行っていいですか」とお願いしたところ、偶然お仕事をいただく機会になることもありました。

独立したての頃は、1ヵ月の半分ほどは公的機関のコーディネータの仕事をし、そのほかに専門家派遣や研修講師の仕事もしていました。こうして、とにかく目の前の仕事をこなしているうちにご縁が生まれ、仕事の依頼が来るようになりました。

平井:お忙しい日々を過ごされたと思いますが、どのような点に充実感を感じていましたか。

岡田:会社員時代の経験をそのまま使うと、お客様に喜ばれることを知りました。コンサルティング業務は特別なものではなく、業務経験に裏打ちされた成功・失敗事例を活用すればいいと考えられるようになったのです。中小企業の社長の前に立たせてもらって、そのことが確認できました。

自信を得るには、お客様に喜んでいただく経験を1つずつ積んでいくしかないと思います。そのような経験を得られた出会いに感謝していますし、とても充実しています。

平井:いまはどのような仕事をしていますか。

岡田:事業再生のコンサルティング業務と講師業務が中心です。また、セミナーや専門家派遣でお客様に気に入っていただき、新たな仕事の依頼をいただくこともあります。

平井:ご自身で何か売り込みをされるのですか。

岡田:いえ、自分で営業をしたわけではないんです。私のセミナーを受講された方から、「うちに来てほしい」とご要望をいただいたり、Facebookに出張記録として写真を上げているのですが、それを見た方が、「全国を飛び回って何をしているんですか?」と聞いてくださり、話しているうちに仕事の話につながるケースもありました。

平井:独立後の嬉しいエピソードを聞かせてください。

岡田:活動の中でご縁をいただいて、顧問契約を獲得したことが、一番嬉しかったですね。それまでは、依頼された範囲での機能を果たせばよかったのですが、顧問契約となると、会社としての結果につながったかどうかが問われます。まさに、社長と同じ立場で仕事に取り組めるのが喜びです。

また、従業員の方が頑張って成果を上げると、自分のことのように嬉しく感じられますね。これは新しい充実感です。

平井:とても充実されていますね。

岡田:必要とされることほど嬉しいことはありませんね。会社員時代はどうしても、会社の看板あっての仕事でしたが、いまは自分の看板で必要とされることが嬉しいです。
突破口は目の前の仕事に取り組むこと
平井:今後の目標や計画はありますか。

岡田:実は、目標や計画に意味があるとは思っていないんです。「こうあるべき」と理想像を設定すると、ギャップが明確になって苦しいですよね。計画は大事ですが、それで足を止めているケースも多いのではないでしょうか。

計画は、作ったらいったん片隅に置いて日々走っていかないと、ギャップを埋める作業のきっかけをつかめないと思います。自身も次のステップの出口が見つからない状態ですが、私は夢や目標はおぼろげに描くだけにして、詳細にするつもりはありません。

平井:出口は、走りながら見つけていくということですか。

岡田:はい。いまあるお客様のご要望に徹底的に応え続けることで、カギが1つずつ出てくると思っています。

平井:では現在、そのカギは何だとお思いですか。

岡田:デザイン分野やビジュアルアイデンティティ分野へのかかわりですね。これまでに、会社のロゴ製作やブランドを作る仕事に携わるきっかけが3回ほどありました。

デザイン分野は、感性に左右される部分が大きいですが、だからこそ容易に真似できないことが差別化になると思いました。もちろん、世の中にはクリエイティビティの高い方がたくさんいますので、今後はその方たちとの違いを作っていきたいと思っています。

こうした仕事も、アパレルメーカーで働いていた経験が大きいですね。自分の業界では当たり前のことも、他の業界では特異なことに気づきました。

平井:アパレルという単語が出ましたが、専門性については意識されていますか。

岡田:「この分野では負けない」というものがないと辛いとよく言われますが、私は、専門性があるかどうかを決めるのはお客様だと思っています。目の前のお客様に喜ばれることを愚直に続け、それが自分のやりたいこととマッチしてくると、少しずつ専門性につながってくるのだと思います。

平井:目の前のことに一生懸命に取り組むのは、本当に重要ですね。

岡田:故スティーブ・ジョブズ氏のスタンフォード大学でのスピーチの一節「コネクティング・ドッツ」の動画を見て、とても感銘を受けたんです。

“先を読んで点と点をつなぐことはできません。後から振り返って初めてできるのです。点がやがてつながると信じることで、たとえそれが皆の通る道から外れても、自分の心にしたがう自信が生まれます。だから、点と点が将来、どこかでつながると信じなければならない”という話です。

彼のような偉大な人物でも、自分の未来がどうなるかはわからなかった。振り返って後をつなぐことはできるけれど、先をつなぐことはできない。目の前の仕事に対して、やるべきか、やりたいか、楽しいかと考え、その気持ちに素直にやってきた結果、いまがある。だから、目の前の仕事を徹底的にやることだと彼は言っていたんです。

この動画を見て、自分もこれでいいのだと、勇気をもらいました。いまやっていることの積み重ねが、未来を作る。当たり前のことですが、これからも目の前の仕事に一生懸命に取り組んでいきたいと思っています。
岡田憲政(おかだのりまさ)
中小企業診断士
GSSコンサルティング株式会社 代表取締役

大学卒業後、アパレルメーカーのエドウインで法人営業、営業企画、店舗運営、販売員育成などに従事。その後、エドウイン商事に転籍し、商品企画・開発、生産管理など商品に関するすべての業務に従事。2010年にGSSコンサルティングを開業。ブランド開発、商品企画、店舗運営に関するコンサルティング事業と、自治体・大手企業の従業員向け研修事業を展開中。
平井 彩子
中小企業診断士
平井彩子事務所 代表

独立系ソフトウエア開発会社でプロジェクトマネージャを担当。証券会社向け、ベンチャーキャピタル向けシステム等、金融機関向け業務システムの構築現場を数多く経験。2010年からは、中小企業向け経営改善をメインとするコンサルティング会社に勤務し、会計業務支援、資金繰り改善、事業計画策等を担当。2012 年平井彩子事務所を設立し、コンサルタントとして独立。人材育成を中心に、業務改善、システム構築支援など、現場が自分たちの力で実行する仕組みづくりから支援を行っている。
FB: saiko.hirai
2015年9月/撮影協力:わたなべりょう

2015/09/15


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