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■ FINANCIAL #01

経済の流れを読む「金融知力」_vol.1

経済の流れを読む「金融知力」

今回は、日本で初めて証券会社の対面リテール事業部門を、金融商品仲介業者へ業態転換された、ひびきフィナンシャルアドバイザー株式会社 代表取締役副社長の仲川康彦氏と、モルガン・スタンレー証券などを経て、日本インベスターズ証券の設立に参画、現在は「行動経済学」を研究されている信州大学経営大学院客員教授 上地明徳氏の対談です。お二人とも金融業界を再生すべくイノベーターとして活躍されています。今の日本の証券業界の実情から、これからの新しい流れについて語っていただきました。
疲弊する日本の証券業界
上地氏:仲川さんはこの度、新しい会社の立ち上げに参画されましたが、まずはこの会社で、何をしようとされているのかをお聞きしていいですか?

仲川氏:簡単に言うと、日本で初めて証券会社の対面リテール事業部門を、金融商品仲介業者へ業態転換させた第一号なんです。今、金融市場が低迷している状況が続いてますが、元々証券会社、いわゆる普通の対面によるリテール営業をするビジネスモデル自体が、非常に疲弊しているんですね。

上地氏:いわゆる個人向け対面営業の証券会社ですね。

仲川氏:そうです。昔の証券会社には、お客様と証券会社の間に「情報の非対象性」というのがあったんです。いわゆるお客様のほうには情報のリソースが無くて、証券会社は持っている。そこに付加価値があったんです。

昔私が証券マンだった20年前では、顧客開拓するのによく新聞の切り抜きを持っていって、こんな記事がありますよと情報提供していました。今なら著作権の問題で考えられないことですけれど。

ところが今はネットが普及していますから、それこそ企業の金融情報は、ヘタをするとお客様のほうがよくご存知なんですね。なので、本当にお客様が欲する情報と提供する証券会社の間でギャップがあって、なかなか上手く機能していないような気がします。

情報を持っているという付加価値が低下していることと、ネットで個人が自由に取引できるという現状の中で、証券会社で一番厳しいのが固定費なんです。お客様がたくさん売買してくれれば、当然売り上げも増えるんですが、今のようにどんどんシュリンクしていくと、売り上げは増えないのに固定費は減りません。

そこで一番重いのが人件費と基幹システム。これは増えることはあっても減らないですから、入りが少なくなって固定費が増える。このジレンマがあって結局何が起こっているかというと、日銭を稼がなければいけないですから、市場環境が良かろうが悪かろうが、お客様に売買してもらおうとする傾向が強くなります。

その結果、すべての営業マンがそうではないですが、お客様が保有する金融商品にちょっと含み益が出ただけで、他の商品へ乗換を勧めようとしたり、値下がり局面で環境が変わったからという理由で、同じく他の商品へ乗換えを勧めたりするような営業姿勢が垣間見られるんですね。

2004年から金融商品仲介業という制度ができまして、銀行、証券、生損保のような金融機関でなくても、有価証券の取り扱いが誰でもできるようになったんです。

金融商品仲介業者は財務局への「登録制」で、証券会社も「登録制」なので、その面で金融商品仲介業者も証券会社も立場は同じです。

昔は証券会社も銀行と同じで免許制でしたから、免許を取得するのに非常に難しかった。でも今は登録制ですから、極端な話、私と上地さんが5000万円くらいお金作って登録すれば「上地証券」なるものが作れるんですね。

そうなると、証券会社も仲介業者も、立場は同じで営業のやり方もお客様との関係も同じ。違うのは、仲介業者は代理権を有さず業務委託契約を交わしている証券会社に、お客様の注文などを「媒介」するいうところです。

お客様からの売買注文を受注すると、証券会社はお客様の口座を管理する基幹システムが必要になりますが、仲介業者の場合そういったバックオフィスは、契約した証券会社が担うので固定負担がぐっと低くなるんです。

もうひとつ、証券会社には兼業規制があって他の事業はできませんが、仲介業者はいろんな事業もできるので、もちろん株式や投資信託などの金融商品を扱いながらも、極端な話、布団だって売っても良いんですね。つまり収益の源泉を広げられるんです。

コストが下がって収益源泉が広がってと、やる事が同じだったら果たして「証券会社」である必要性があるのかと考え、大阪で創業100年近く経つひびき証券と、インターネット証券大手の楽天証券が共同出資して作った会社が、ひびきフィナンシャルアドバイザー株式会社なんです。

上地氏:つまり従来型の証券会社だと、どうしてもシステムコストや人件費が高くついてしまう。その結果、本意ではなくとも短期的な収益獲得を図るような営業傾向が強くなる。それが今の証券会社の現状であり、このビジネスモデルの宿命なんですね。

それに対して御社は、金融商品仲介業という制度を使い、システムをアウトソースすることでコストを下げ、お客様の投資意向と同じ方向を向いた営業がし易くなるということがポイントなんですね?

仲川氏:ええ。収益構造そのものを変えることによって、お客様との利益相反を起こす可能性を、極めて低くできるという点です。もうひとつ、まず顧客マーケットの観点から、東京証券取引所の売買代金べースで見ると、個人資産家のシェアって20%弱しかないんですね。残りは法人の機関投資家と外国人が占めている。ここ数年ずっとこうした状況なんです。

上地氏:仲川さんが証券会社に入られた頃って、個人投資家のシェアはどのくらいだったんですか?

仲川氏:まあ半分はありましたね。日本の場合「株式持ち合い構造」というのがありましたから、もともと法人のシェアは高くは有りましたが。

昔の会社四季報と今の会社四季報を見ればわかりやすいんですが、1989年の日本の日経平均株価が38,915円という史上最高値が年末につきました。その時の会社四季報を見ると、ソニー、トヨタ、キャノン、ホンダ、いわゆる世界で勝負している国際優良企業の株主はほとんどが漢字だったんです。

○○銀行、○○生命といった企業ですね。当時の機関投資家は日本の法人と日本の個人が握っていたんです。でも90年のバブル崩壊の株価暴落の後で、互いに持ち合っていた株式を売却してしまった。

だから株価は暴落してしまったんですが、といっても値段が付かなかった日はほとんどありませんでしたし、売ったということは誰かが買ったわけで、フタを開けてみれば日本の優良企業の株主は、ほとんどカタカナに変わってしまっていた。だから外国人の投資家が非常に増えたんです。

日本の投資家のシェアがシュリンクしていく中で、さらに驚くことに、東証売買代金の個人投資家シェア20%弱のうち、大手ネット証券5社が約70%のシェアを占めているので、実質5-6%しかないパイを、日本の対面証券会社(個人営業を行わない外資系やFX専門証券を除く)約250社がひしめき合っているんです。

当然250社の中には、大手証券会社も含まれていますから、中小地場証券の株式売買シェアがどうなっているかは、お分かりになると思います。そしてそれら中小証券で稼動しているお客様の平均年齢は60歳を超えてるんです。平均が60歳ですから、証券会社にとって良いお客様というのは70歳を超えてるはずなんですね。

上地氏:個人投資家がかつては50%のシェアがあったけれど、今は20%、そのうち7割が大手証券会社が握っててあとの3割が従来型の中小地場証券会社を使ってらっしゃる。でもそのお客様のほとんどは60歳以上だと。

そう考えると今後、その3割の中小地場証券会社は、よっぽどの戦略性を持ってないと生き残っていけないですね。しかもそこに250社がしのぎを削ってる。

仲川氏:ええ。生き残りは大変です。金融商品って、そこでしか売っていないものなんて無いですから、どこに付加価値を見出すかということです。

しかも20年前ならお客様の金融知識も証券会社との格差があったかもしれませんが、今ではお客様のほうが理論武装してくる場合もある。お客様は自分より知識の無い人には相談しませんから、そこに証券会社のジレンマがある。

デリバティブなんかを使って仕組みが分かりにくい金融商品も多くなっていますから、商品のスキームなども販売側がちゃんと理解した上で、投資家に説明して理解してもらわなければいけない。

そこで証券会社の営業マンも相当勉強して知識レベルを上げていかないと今まで通りのスキルではビジネスが難しくなっていくっていうことなんです。

証券人口も昭和63年に私が証券会社に入った頃は15万人くらいいたんですが、今はもう7万人くらいになっています。

上地氏:半分以下に減ってますね。

仲川氏:ええ。伸びる業界、市場であれば、当然そこに従事する人口は増えてきますよね。それがどんどん減っていく、顧客マーケットも縮小する、やっぱり何かがおかしいんですね。顧客がおかしいのか、そもそもこのビジネスモデル自体がおかしいのかもしれません。

そう考えると、20年間ほとんど変わっていない収益構造自体がおかしいんです。弊社は証券会社の対面部門を仲介業者へ業務転換しましたが、固定費が下がるだけで今までと同じことをしていても、おもしろいビジネスにはならない。

顧客マーケットが高齢化しているということは、見方を変えると実は宝の山を抱えてるんです。つまり高齢化になると、相続や企業経営者の場合、事業承継などの問題が今、日本中で噴出してますね。

今までの証券会社だと、株を買いませんか投資信託を買いませんかと、単に金融商品のディストリビューターの側面が強いですが、逆に切り口を変えるとマーケットは大きいんです。

上地氏:そうですね。実際に日本の個人資産の7割以上を、60歳以上の方が持ってますからね。

仲川氏:ええ。金融資産だけでなく、それに繋がるコンサル業務も実はたくさんあるんですね。昨年11月に、アメリカのLPLフィナンシャルという会社が株式上場したんですが、ここは既存の証券会社から独立した人たちをネットワークする会社なんです。

実はメリルリンチなど大手証券会社に勤務していた人たちが、どんどんLPLへ転職しているんです。お客様もそっちに相談していくようになってきた。アメリカではもう10年前から、こうした流れが大きくなってきているんです。

 

2012/07/04


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