■ コンサルティング談 #01

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■ コンサルティング談 #01

ホテル・旅館再生からの地域経済活性を目指して

一般社団法人中小企業診断協会の会員誌「企業診断ニュース(月刊)」に2013年4月から連載しているプロコンサルタントへのインタビューコーナーが、「プロフェッショナル談」にデビューすることになりました。
様々な経営の現場で力を発揮する中小企業診断士の活躍ぶりを多くの方々に知っていただきたく、選りすぐりの中小企業診断士をピックアップしての掲載です。
中小企業診断士という資格取得を検討している方、経営コンサルタントとしての独立を目指す方、中小企業診断士を活用したい経営者のみなさんに対し、何らかの一助になれば幸いです。
 
(インタビュアー:中小企業診断士 平井 彩子)

第1回目のゲスト・宇野俊郎さんは、ホテル・旅館の企業再生をメインに活躍している中小企業診断士です。飄々とした表情の奥には、事業家としての顔も見え隠れし、経験の豊富さを物語っていました。今回は、そんな宇野さんのプロコンサルタントとしての軌跡や、今後の展望などをお聞きしました。
 

40歳までに独立を

宇野:サラリーマン時代は、ホテルや旅館など、宿泊施設の運営受託をする会社にいました。学生時代、飲食店でアルバイトをしていた経験から、サービス業に就きたいと考え、この会社を見つけました。

平井:中小企業診断士の資格を取ろうと思ったきっかけは何でしたか。

宇野:ホテルの総支配人をしていたとき、人や数字のマネジメントをしていたのですが、もっと大きな視点で会社全体を見たいという思いから、中小企業診断士資格を取得しようと思いました。


ゲスト:宇野俊郎氏

平井:勉強時間を作るのは大変だったのではないですか。

宇野:そうですね。ホテルは24時間365日稼働していますので、夜中でも呼ばれますしね。でも、そうこうしているうちに本社へ異動になったんです。幸いにも受験校に通うことができ、合格できました。そうしたら,今度は本社の中でまた異動の話が出てしまいます。もともと40歳までには独立したい、自分で商売をしたいという思いが強く、そのタイミングの異動だと、また3、4年は張りつくことになってしまいますので、いましかないと思い、異動の話を断って会社を辞めました。

平井:独立したときには、仕事のあてがおありだったのですか。

宇野:コンサルタントになろうとは思っていませんでした。ただ、自分で事業をやってみたいというぼんやりとした思いがありました。結果、中小企業診断士資格を活かしたコンサルティングがいいかなと、軽いノリでした。

 

「何とかなる」の独立から企業再生の道へ

平井:独立に不安はなかったのですか。

宇野:独立したときは、とりあえず何でもやってみようと思っていました。人とのつながりも、東京協会城南支部で若干ある程度でしたが、なぜか根拠のない自信がありました。「何とかなるだろう」という思いと、「いまやらないと、ずっとサラリーマンで終わってしまう」という思いで、勢いですよね。

平井:最初から再生案件を軸にしていたわけではないのですよね。

宇野:はい。最初は何をすればよいのか、右も左もわかりませんでした。テンションだけは上がって、あんなことやこんなことをしよう、と考えをめぐらせていました。でも、実際に会社を作って独立すると、そんな考えは全然関係なく、お客さんがいないから、最初は人の紹介でコンサルティングのお手伝いや講演などをしていました。本当に行き当たりばったりでしたね。

平井:何をきっかけに企業再生の道に進まれたのですか。

宇野:1年間くらい、さまざまな仕事をしているうちに、ある人から「旅館の再生案件をやってみないか」と誘われたんです。お声がけいただいたときには、“再生”の意味すらわからなかったのですが、評価していただき、そこから仕事が広がっていきました。

平井:では,そこで初めて旅館の再生を軸にしていこうと思われたわけですね。

宇野:この領域で自分の経験を活かせると気づいたのは、2年くらい経ってからですね。それまでは、来るものは拒まずでした。独立した直後は皆さん、そうだと思うんですが、私も同じでした。また、やっていくうちに、一番しっくりくるのが古巣の業界だったというのもありますね。現場にいらっしゃるマネージャーや支配人が、どういう段取りを組んで、どのようなマネジメントをしているのかというのは見ればわかりますし、そのあたりはほかのコンサルタントとは少し違う自分の強みだと、そのときに気づきました。


インタビュアー:平井彩子

 

ホテル・旅館の再生

宇野:私の会社は企業再生がメイン事業ですので、倒産しそうな会社ばかりです。大変なのは、借入が大きいことです。また、一番の問題は経営者本人にある場合が多い。P/L上のリストラもしますが、結局は経営者の意識が変わらないと、最終的には再生しないんです。

平井:そうなると、再生までの道のりではつらい決断を迫られることも多そうですね。

宇野:「第二会社方式」のように、会社を清算し、事業用資産を移してまた新しい会社を作るとなると、元の会社の経営者には辞めていただくことになります。経営者の方は、それまでもある程度の覚悟を持って金融機関と相談しています。ただ、覚悟はしていても、心情的にはやはりつらいものがあるわけです。自分が大きく育ててきた会社だという思いもあるし、借入れはふくらんでいるかもしれないけれど、本音では「金融機関だって、貸したじゃないか」と思っている部分もある。そういうときは、私自身もつらい思いはありますが、そもそも私は経営者を助けようと思って再生に携わっているわけではなく、あくまでも会社を継続させるための1つのステップとしてその選択をしているのだと、目的を振り返るようにしています。

平井:使命感ですね。当然、経営者としてそこから奮起してはい上がる方もいらっしゃるわけですよね。

宇野:債権者も経営者も納得して、「じゃあ、頑張っていこう」となるのを見ると、「この仕事をやっていてよかったな」と思います。

平井:エピソードは尽きないと思いますが、何か興味深い事例などはありますか。

宇野:再生では、コンセプトを変えることは危険ですので、やりません。ただ、“ずらす”ということはあります。ある旅館で、社長が女性向けに、よくあるアロマやリフレクソロジーの施設を作っていました。私たちが行ってまず思ったのは、建物が女性向けの癒しといった雰囲気ではないんです。ちょっと古びた旅館でしたし、来ているお客さんも若い女性ではなく、家族を持った女性、お母さんやおばあちゃんが多いわけです。そこで、目の前が海という立地でしたから、子どもとお父さんは海で遊べますし、その間にお母さんはアロマテラピーを楽しめるということにして、家族向けにコンセプトを少しだけずらしました。また、料理も女性向けに少し量を落として、質を上げて作るように変更するなどしました。結果、コンセプトが明確になり、集客力も上がった事例になりました。社長も非常にやる気になってくれました。

平井:経営者が近視眼的になっているところを、宇野さんたちが整理していくというのは大事なことですね。

 

コンサルティング会社の社長として

平井:宇野さんの会社は、従業員もいらっしゃって、組織としてしっかりされていますね。

宇野:組織を意識しているのは、ずっと1人でやっていると発想が凝り固まってしまうからです。そうなると、発展性がないですよね。そこを違う目で見て、言い合えるような仲間がいないと、会社としては大きくならないと思っています。

平井:設立して10年目、日頃はよその会社の立て直しが本業ですが、ご自身の会社も苦しかった時期はありましたか。

宇野:はい。震災後、顧問先が2社倒産に遭い、仕事が減りました。研修なども先延ばしになり、これはまずいなと思いました。これまでも融資は利用していたのですが、追加融資をお願いしたところ、貸してくれました。その融資で何とか助かったわけで,あれがなかったら会社はつぶれていましたね。ヒヤヒヤものでした。この経験で、中小企業の大変さが身にしみてわかりました。

 

企業再生のための武器を増やす

平井:組織として人材も固めていますし,今後やりたいことはどのようなことでしょうか。

宇野:震災後、コンサルティングだけでは、飯の種としては弱いと感じました。厳しいときにコンサルティングにお金を払うかというと、なかなか払いきれないのが現状でしょう。そういう思いもあって、今後はノウハウだけでなく、ヒトやモノを動かすビジネスをしたいですね。企業再生で入り込むと、経営者が変わらなければならない場面や、経営者のサポートをしてほしいという要請が結構あるんです。現在も1人送り込んでいて、近々あと旅館2軒にヒトを送る予定です。そのように、私の会社からヒトを送るサービスを拡充したいですね。ホテルや旅館に常駐で入ることに加え、外部から定期的に支援することで、再生の実現可能性が高まります。モノのほうはM&Aで、会社の売り買いのお手伝いですね。お金を出したいファンドが結構ありますので、ファンドと組んで再生をしていくなど、そういった方向にも広げていきたいところです。

平井:もう具体的に進んでいる内容もあるということですね。

宇野:もう少し先を考えると、私の会社でホテルや旅館のオペレーションをやろうとも思っています。また、飲食店の運営にも興味があります。基本的な発想として、企業再生をする際のさまざまな武器を持っておきたいということです。いまはコンサルティングで入る際の武器を揃えていますが、ほかの武器ももっと増やしていきたいんです。その1つとしてM&Aもありますし、ファンドと協力してカネを入れてもらうという武器もあります。そうなってくると、手助けができる手段が増えますし、私の会社の収益にもつながっていきます。5年、10年はかかるでしょうが、ゆっくりやっていきたいなと思っているところです。

 

これから独立を考える人へ

宇野:私の場合は、中小企業診断士資格を取ったことが独立の背中を押してくれました。これは間違いないですね。資格がなかったら、どうなっていたかわかりません。

平井:中小企業診断士のネットワークは仕事に役立ちましたか。

宇野:中小企業診断士同士のネットワークは、私の場合はそんなに広いほうではないんですが、要所要所、そういったネットワークやご紹介で仕事をしてきたのは間違いありません。現在は、東京協会城南支部のコンサル塾で副部長をしています。そこでは、独立する中小企業診断士の養成が目的ですが、「独立しなさい」とは話していません。ただ、ネットワークを広げることについて、それが良いか悪いかをよく考えたほうがいいとは言っています。闇雲に拡大して、ネットワークを広げることだけに一生懸命な人よりも、ネットワークが少なくても、人とのコミュニケーションをしっかりとれるほうがいいと思っていますので。当たり前ですが,信頼のおける人とのつながりは大切にすべきだと思います。

平井:専門分野については,どうお考えですか。

宇野:私も成り行きでやってきましたが、専門分野は、やっていく中で見つけられればいいと思います。独立してしばらくさまざまな仕事をやってみると、たぶん失敗することもありますしね。もっとも多い失敗は、仕事を抱えすぎて、一番やらなければいけない仕事が遅れてしまうことです。私もそういった失敗をしていますし、そうなると結局、専門分野を絞らないといけなくなる場面がやってきます。時期的に2年、3年経って、「この分野だったらこの人」と言われるようになれば仕事が来るわけですから、それまでに見つけられればいいと思いますね。


撮影協力:カメラマン わたなべりょう
PROFILE
 
 
宇野 俊郎 平井 彩子
Toshiro Uno Saiko Hirai
中小企業診断士。クロスワンコンサルティング株式会社代表取締役 中小企業診断士。平井彩子事務所代表
筑波大学卒業後、エームサービス株式会社に入社。ホテル総支配人を経験後、事業本部業
務統括室長として経営企画、組織開発、業績・人事管理、営業企画、プロジェクトリーダーなど幅広い業務に携わり、関係会社の取締役として企業経営も行った。2006 年 4 月に同社を退社し、クロスワンコンサルティング株式会社を設立。ホテル・旅館の企業再生支援を主とし、ホスピタリティ産業の再生という観点から地域経済の活性化に尽力している。
独立系ソフトウエア開発会社でプロジェクトマネージャを担当。証券会社向け、ベンチャーキャピタル向けシステム等、金融機関向け業務システムの構築現場を数多く経験。2010年からは、中小企業向け経営改善をメインとするコンサルティング会社に勤務し、会計業務支援、資金繰り改善、事業計画策等を担当。2012 年平井彩子事務所を設立し、コンサルタントとして独立。人材育成を中心に、業務改善、システム構築支援など、現場が自分たちの力で実行する仕組みづくりから支援を行っている。
URL:http://www.xone-consulting.co.jp/ Facebook:https://www.facebook.com/saiko.hirai

 

2015/04/15


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