■ コンサルティング談 #10

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■ コンサルティング談 #10

人と経営を元気に!~海外と日本の懸け橋として~

人と経営を元気に!~海外と日本の懸け橋として~

第10回のゲスト・後藤さえさんは、海外経験が豊富な中小企業診断士です。転機の訪れ方は常に突然ですが、チャンスを最大限に活かして困難に立ち向かう姿がとても印象的です。ひょんなことから中小企業診断士を目指し、ご主人の都合から海外で独立開業するなど、ほかの人がめったにたどらない貴重な経験について、余すところなく語っていただきました。
ロシアで日本語教師を経験
平井:大学を卒業してからは、京都府の中国残留孤児センターで働いていたそうですね。

後藤:はい。1年間はアルバイトで、日本語教師と生活相談員をしていました。語学に興味があったのは小学校の頃からで、ラジオの英会話講座を毎日聴いていました。中国語は高校くらいから始めました。

平井:本当に語学が大好きだったのですね。そこまで好きだと、実際に外国へ行きたくなりますね。

後藤:「せっかく外国に行くなら、日本のことを知らないとダメよ」と母に言われ、華道、茶道、日本舞踊など、ひととおりを習いました。

京都出身ですから、お寺巡りもして、外国人の観光客を見かけると、母が「英語でしゃべってきなさい」と私を焚き付けまして、実地で勉強もできました。中国語も、大学に入ったら上達しましたね。大学では、留学生をつかまえてはしゃべっていました。

平井:食らいついたら離さない、スッポンタイプですね(笑)。ロシアでの日本語教師という道には、どのようにして進まれたのですか。

後藤:中国残留孤児センターで紹介してもらい、1993年~1995年はウラジオストクで暮らしていました。1991年末にソ連が崩壊したばかりで治安は悪く、物流も乱れ、パン1個を買うのに、マイナス30度の気温の中、1時間並ぶような時代でした。また、下宿先には洗濯機がなかったため、2年間は手で洗濯をしていました。

平井:濃密な2年間でしたね。ロシアに行ってからロシア語を学ばれたそうで、語学面でハンデがある中、相当な刺激を受けられたのではないですか。

後藤:自分であがいてもどうにもならないことがある、と学びました。普通に日本で生活していたら、物がなくて困ることはないですから。細かいことで怒っちゃいけないとか、怒っても自分がしんどいだけですので、気持ちのコントロールの仕方を学びました。

ゲスト:後藤さえ氏
会社員としての6年半からいきなりの事業部長へ
平井:帰国して、なぜ会社員になられたのですか。

後藤:日本語教師は時間単位でできる仕事ですし、おばあちゃんになってもできますので、人生経験のために普通の会社員になろうと、貿易会社に入社しました。そこで少し経験を積んで、丸紅の子会社へ入社し、その後、組織改編で本社付になりました。

最初が派遣での契約でしたので、本社に異動の際もアルバイトのような給料で働いていましたが、それを申し出て試験を受け、正社員になることができました。

平井:丸紅では、どのようなことをされていたのですか。

後藤:中国・ロシア人への通訳業務から、営業を経て、だんだんメインの仕事に移り、アメリカでの仕事なども担当し、投資、子会社管理などにも携わりました。

しかし、私の仕事は営業利益を何億円上げても、結局、会社の中でしか資料は回っていないわけです。絵をいっぱい描いても、自分で仕事を回している実感は得られませんでした。

平井:本当に価値があるかどうかを実感しにくかったわけですね。

後藤:そこで、6年半勤務した会社を辞める決断をしました。次は、ITのマーケティングの会社です。商社にいて物を動かしていたのとは違い、最初は戸惑いました。

しかし、会員様相手のサービスでしたので、「物を売り出したら、きっとお金になる!あなたは商社出身なんだから、事業部長ね」と、いきなり事業部長になりました。

平井:それは突然ですね。

後藤:社長には申し訳ないのですが、そのとき、結婚して間もなかったため、「子どもができるかもしれません」と話をしたところ、「それは、男でも急に病気になるかもしれないし、会社が負うべきリスク。だいたい妊娠は病気じゃないでしょ」と説得されました。

平井:いい会社ですね。素晴らしい。

後藤:それで、引き受けた瞬間に妊娠したんですよ(笑)。しかも切迫流産で、動いてはダメって言われて。立ち上げなのに、部長がいない状態になり、ずっと寝たきりで、パソコンだけが頼りでした。

子どもが生まれてからは、在宅勤務をしていましたが、さすがに将来的にこのスタイルをずっとは続けられないと、先のことを考えるようになりました。

インタビュアー:平井彩子
人のためになる仕事をしたい
後藤:1人目を産んだときに、助産師さんの働きぶりに感動して、「やっぱり、仕事は人のためになるものをしなければならない」と強く思ったのと、子どもを育てるためには、会社に縛られず、サイドでできる仕事がいいと思ったんです。

そんなとき、家の本棚に目をやると、夫が中小企業診断士を目指したときの本が並んでいて…。「子育てをしながら勉強したら、できるかもしれない」と思い、中小企業診断士受験にチャレンジしました。

平井:ご主人がきっかけなのですね。

後藤:2年目で合格したんですが、実務補習の1回目が終わったときに2人目の妊娠がわかりました。そして、2人目が生まれたと思ったら、夫がシンガポールへ転勤することになってしまったんです。

いっぺんに3つも大きな出来事がやってきました。悩みましたが、子どもも小さいですし、シンガポールへはそんなに行き来できないと思い、会社は育児休暇のまま退職して、シンガポールに引っ越しました。
シンガポールで独立開業
平井:シンガポールで独立されたそうですね。

後藤:そうなんです。シンガポールは、駐在員の奥さんも働いていい国でしたので、許可を取って事務所を設立したんです。マネジメントコンサルタントという肩書きで、商工会議所などを周りました。

しかし、コンサルタント同士で話を聞かせてほしいと頼んでも、ことごとく断られる。唯一、シンガポールの商工会議所だけ面談が叶いましたが、「後藤さんは、シンガポールのことは知らないんでしょ?皆が聞きたいのは、シンガポールのこと。本などでわかる内容は、僕でもわかるレベルだよ。中小企業診断士として何をしていくか、あなたが勝負できるところを別に作らなきゃいけないと思うし、シンガポールにある程度いるのなら、どこかの企業に勤めて雰囲気を見てからでもいいんじゃない?」とアドバイスを受け、日本人向けの派遣会社に登録しました。

そのときは、登録に行ったつもりだったのですが、自分がコンサルタントであることを話して、無料診断を依頼してみたら、ぜひにとの言葉をいただき、そこから日本人が1~2人で経営している教育機関や洋服屋などに広がっていきました。

平井:いいきっかけですね。

後藤:そこに飛び込みで行くと依頼につながり、その依頼先の紹介で、研修サービス企業から日本人向け財務基礎講座の講師依頼も受けました。そして、そこから次へもつながっていったんです。

平井:依頼が増えてきて、面白くなりますね。

後藤:しかし、またしても夫が、「上海に転勤になった」と言ってきて…。

平井:軌道に乗り始めるところで何かが起きますね。
中国でのネットワーク構築
後藤:中国は、駐在員の奥さんが働いてはいけない国だったのですが、大学のときの上海人ペンパルが京都府名誉友好大使で、「京都府が上海にビジネスサポートセンターを開設するので、人を探している」と紹介してくれました。

そこで、「子育てもあるし、お金はいりません」と言って、週3回の非常勤対応でアドバイザーを始めました。そこでは、中小企業で現地に出てきている人たちの話を聞きました。

夫は大企業の駐在員ですから、同じ会社から何人も来ていて、情報交換もできる。しかし、中小企業からの駐在員は、1人で来て、財務も営業も品質管理もしなきゃいけない。とても大変なんです。おかげで、中国に進出してる人たちの困りごとは本当にたくさん知っています。

平井:財産になりますね。

後藤:はい。情報交換会や相談会のニーズが高く、月に1度は勉強会を実施し、その後に交流会を行うなどの活動を始めました。そのうち、工場見学なども実施し、徐々に人脈が増えてきて、相手も私のことを覚えてくれ、活動も面白くなってきたところで、また帰国になってしまいました。

平井:上海に来て3年、脂が乗ってきた時期に大変ですね。
日本に帰国して新たなスタート
後藤:日本に帰ってきて、起業するにあたり、5年間海外にいたことは強みにもなるんですが、結局、日本と断絶されていたのでつながりがない。また、お客さんもいないことをどのように克服すべきかと考え、信頼してもらうには、やっぱり会社にしておきたいと思い、法人化しました。

私の中では、2年間はフィージビリティ・スタディの会社の位置づけでやろうと思っていました。資本金500万円を入れて、それを旅費交通費としてあちこちに行ったり、打ち合わせをしたりするのに使っていき、その間に何か事業ができそうなら、増資をしようと思って始めました。いまはその3年目です。

平井:貿易会社、商社、Eコマースを経験していること、また上海、シンガポールで見てきたものは大きな財産ですよね。

後藤:海外進出を始めたいと言っても、郵便を海外に出したこともないという会社も多いですから。私が間に入って、利益が出たときに、私に入るようにすればいいと思っているんです。

ただ、私もせっかく独立しているわけですから、こんなに頑張ったのに会社員をしていたほうがマシというような収入ではいけませんので、ビジネスを作りたいですね。規模が大きくなっても、人を雇って事務的にやっていけますし、次を考えることもできますしね。

ビジネスを作ったという自信や失敗の経験談は、次のコンサルティングに活かせると思っています。その目標を胸に、中国にいるパートナーとのやりとりや、これまでの中国のツテを活かして活動しています。

平井:再生案件も手がけているそうですね。

後藤:少しですが、コンサル企業さんから受託させてもらっています。自社の案件と結びつけて、どちらのメリットにもなる契機づくりになればと思っています。私は常に応用編をやりたがるタイプです。

平井:Win-Winで、良いのではないでしょうか。
最近の取り組み「Gセミナー」
平井:2016年1月16日に開催された、G-セミナーVol.1『中小企業の中国ビジネス展開・現場と問題点』は、大盛況だったようですね。

後藤:はい。Gセミナーは、「より現場(Gemba)」に近く、「よりGlobal」で、「より成長(Glow)」できて、「より元気(Genki)」になることを目的に開催しております。今回は、日中ビジネスに精通する中国人社長をお招きし、多くの事例を語っていただきました。

現場のナマの声をお伝えしたこと、日中間のビジネスにおけるトラブルを未然に防ぐ心構えの秘訣をお伝えしたことが、高評価につながりました。ありがたいことに、次のセミナーの依頼、中国ビジネスのコンサルティングの話にも繋がりました。

平井:それは素晴らしいですね。

後藤:また、前座企画として、「中国インバウンド必須アイテム“WeChat”体験コーナー」も設けました。中国で6億人が利用している「WeChat」の動画デモ、及びスマホを使った実機での体験をしていただきました。

「WeChat」とは、無料通話とチャットに加え、決済機能が搭載されており、いまや中国ではスマホだけ持って外出すればお財布いらずのアプリなのです。法人向けアカウントもあり、インバウンド対策として日本でも今後導入が進むこと間違いなしです。
「国際」や「女性」はあくまで属性
後藤:私としては、中国語の専門家のつもりはないのですが、中国に行きたいというのであれば、その際のストレスのいくつかを取り除いてあげたいと強く思っています。

そのストレスを小さくしたり、障壁を小さくしたりすることで、利益が得られるのであれば、その割合のいくらかを私にください。その代わりに、リスクもとります、ということです。「失敗したら、私も一緒に泣くから」という約束をするわけです。

平井:本当に相手に寄り添った支援ですね。

後藤:中国のパートナーもさまざまな意見を言ってくれていて、日本企業からの提案だけでなく、中国側からのニーズに基づいたビジネスも考えています。基本的にはヘルスケア分野、IT分野、カワイイ分野で面白い化学反応を作っていきたいですね。

平井:やりたいことがたくさんありますね。でも、頭の中ではきっと一緒に走っているんでしょうね。

後藤:最近、「国際」ということが、「女性」ということと同様に、ハードルが低くなっています。でも、「国際」と言葉にした瞬間に、私はハードルが高くなると思っていますので、ちょっと電車に乗って中国へ行くくらいの気持ちでいてほしいと思います。

中国と日本との違いをわかったうえで、気軽にやれるようにしておきたいですね。そのお手伝いを今後も続けたいです。「国際」や「母親」、「女性」といったことは強みでも何でもなく、私はあくまでも属性だと思っています。
後藤さえ
中小企業診断士
株式会社チアーマンサポート 代表取締役

大学卒業後、日・露にて日本語教師、総合商社、ITベンチャーを経て、2007年ITベンチャー在職中に中小企業診断士資格を取得。2008年に夫の海外赴任でシンガポールへ渡航し、現地で独立。その後、再度夫の転勤で2010年に中国・上海に転居し、京都府上海ビジネスサポートセンターにて、ビジネスアドバイザーに就任。2013年帰国後、株式会社チアーマンサポート設立。現在、一般社団法人東京都中小企業診断士協会中央支部執行委員、同支部国際部副部長。

株式会社チアーマンサポート
HP: http://www.cheerman-support.co.jp/
平井 彩子
中小企業診断士
平井彩子事務所 代表

独立系ソフトウエア開発会社でプロジェクトマネージャを担当。証券会社向け、ベンチャーキャピタル向けシステム等、金融機関向け業務システムの構築現場を数多く経験。2010年からは、中小企業向け経営改善をメインとするコンサルティング会社に勤務し、会計業務支援、資金繰り改善、事業計画策等を担当。2012 年平井彩子事務所を設立し、コンサルタントとして独立。人材育成を中心に、業務改善、システム構築支援など、現場が自分たちの力で実行する仕組みづくりから支援を行っている。
FB: saiko.hirai
2016年2月/撮影協力:わたなべりょう

2016/02/15


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