■ コンサルティング談 #11

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■ コンサルティング談 #11

山を登るよう一歩ずつ課題を解決

山を登るよう一歩ずつ課題を解決

第11回のゲスト・堀江正輝さんは、IT関連の仕事を11年間経験した後、診断士合格前に独立し、現在は ITを軸にコンサルティング活動を広げている診断士です。診断士を目指したきっかけから、現在の活動領域、さらには趣味の登山まで、幅広く語っていただきました。
経験きっかけは「骨折」
平井:会社員時代はずっと IT業界のようですね。

堀江:はい。学生時代からプログラマーのアルバイトをやっていたほどで、社会人になってから 3社に勤務しましたが、その間もずっと ITから離れることはありませんでした。

最初は、TKCで会計ソフトの作り手側のポジションで入りました。その後、転職してシステムエンジニアになり、中小企業診断士になる前の 4年間ほどは、IT系のコンサルティング会社で、大企業向けに IT導入の支援を行っていました。

平井:どのようなきっかけで、中小企業診断士を目指されたのでしょうか。

堀江:実は、趣味の登山で足首の骨を折ってしまったのがきっかけなんです。一度会社に復帰したのですが、感染症にかかってしまい、自宅療養が 2ヵ月間続きました。

最初の 1ヵ月は何もせずにいたのですが、さすがに何かしないともったいないと思ったんです。そのときに、中小企業診断士資格を思い出し、勉強を始めました。

平井:骨折していなかったら、思いつかなかったということですか。

堀江:コンサルティング業界に所属していると、中小企業診断士資格は皆、何となくは知っていますから、取得しておいたらいいかな、くらいには思っていたんです。でも、実際に取り組むとなると、この療養期間がなければ、なかなか腰が上がらなかったと思います。

平井:自宅で勉強を始めたのですか。

堀江:2011年2月に骨折し、家で缶詰になって勉強していました。1次試験はその年に、2次試験は翌年に合格することができました。

平井:その時点で、取得後のイメージは固まっていましたか。

堀江:資格取得にかかわらず、独立しようと思っていました。ちょうどプロジェクトの区切りが良かったこともあり、合格が決まる前の2012年夏に独立しました。

平井:独立はいつ頃から考えていましたか。

堀江:TKCにいる頃には考えていました。10年後、20年後を考えたとき、会社の人間関係での世渡りに向いていないと感じたのです。独立して一旗揚げようというより、社会人にあまり向いていないだろうという思いから、独立を考えていました。

平井:独立したほうが人間関係は大変そうですが、いかがでしたか。

堀江:この会社がつぶれると、自分の地位や収入が脅かされるという不安を持たなくて済むのはいいですね。会社に引っ張られるのではなく、あくまで自分自身の問題と思えるほうが気楽でいいんです。

平井:不安はありませんでしたか。

堀江:IT関係の作り手としての活躍の場があるため、仕事はあると踏んでいました。

平井:独立後は会社員時代よりも有意義ですか。

堀江:独立して良かったことのほうが多いですね。前職は長時間働く業界で、終電でその日のうちに帰れたらラッキーという状況もよくありましたから、そういう意味ではゆとりが増え、充実しています。

ゲスト:堀江 正輝氏
IT×中小企業診断士の活動領域
平井:開業されて最初の仕事は何でしたか。

堀江:ITから入りました。フルタイムで入る仕事ですと、会社員と変わらなくなってしまいますので、持ち帰りができるか、週に何回かだけの訪問という仕事を探し、あとは中小企業診断士として経営面での支援を並行できるように考えました。

そんな中、タイミング良く、中小の製造業が ITのシステムを作りたいという話があると聞き、ご支援しました。

平井:中小企業診断士とのつながりは、どのように作っていきましたか。

堀江:支部開催の独立志向の人向けのマスターコースに参加して、知り合いが増えました。そのご縁で、相談員の仕事もご紹介いただきました。

また、知的資産経営のプロジェクトにも属しており、現在は、製造業の知的資産経営を用いた支援をしております。

平井:具体的に知的資産経営についてご説明いただけますか。

堀江:簡単に言うと、企業の強みに焦点を当てて、それを可視化していくことです。私たちの場合は、経営者に代わって、「我々はこういう企業です」と企業の冊子を作成しています。その冊子を取引先や従業員に配るなどして活用します。

経営者自身が強みを再確認することもありますし、それをきっかけに強みを伸ばすお手伝いもします。お客様からは、自分がいままで知らなかった部分や、モヤモヤと気になっていた部分が明らかになったと評価をいただいています。

平井:営業活動は、どのようにされていますか。

堀江:ITの仕事に関しては、自分で営業会社に当たっています。それ以外のものは、知り合いの方からのご紹介ですので、あまり自分からは営業をしておりません。現在は、 ITの仕事も中小企業診断士の仕事も妥当な組み合わせでできていると思っています。

平井:妥当な組み合わせとは、どのようなものでしょう。

堀江:私の場合はいまのところ、 ITが6割で、他の仕事が4割程度がちょうど良さそうです。 ITでいうと、いまは作り込み側というよりも、上流工程で要件をまとめることや、ビジネスの上流にある課題に向けてどのように解決していくのか、に力を入れています。

平井:規模的にどのくらいの企業が多いですか。

堀江:中小規模ではありますが、中小企業の定義に収まるかどうかは微妙なところが多く、直近では、社員20名ほどですが、資本金が100億円もある企業の IT支援をしています。ファイナンス系の企業ですので、資本金が大きいのです。

非常に大きい企業になると、多くのメンバーとチームを組んでいかなければなりません。そうすると、どうしても仕事が分割され、こじんまりとして面白くなくなってしまいます。

ですから、狙うのはある程度小さいところで、自分がプロジェクト全体を把握できるような仕事です。必然的に小さい規模の企業を狙う感じになりますね。

インタビュアー:平井彩子
お客様の真のパートナーとして
平井:2015年7月に法人化されたそうですね。どのような理由からでしょうか。

堀江:個人事業で、収入が自分の口座にダイレクトに入ってくる状態もいいのですが、管理が難しくなってしまいました。私は、夏は山に行くなどレジャーを楽しむために、仕事をグッと抑えるのですが、そうすると月によって収入が大きく変わってしまうわけです。

この期間は空けておくと決めていても、そこにスポットの仕事が入ってくると受けてしまうこともあるのですが、そこで得られるお金は自分の中であぶく銭になってしまうんです。これはずいぶんとずさんな収入管理だなと思い、役員報酬として毎月定額をもらうことを選びました。

会社というワンクッションを置けば、会社に入るお金だからと考えられ、そのときに仕事を受けるかどうかを吟味できると考えました。個人的な感覚ではなく、会社に落とすお金だから、一歩引いて考えられると思ったんです。

平井:たしかに、客観性は得られそうですね。ところで、会社名の「ザイルパートナーズ」、とてもかっこいい名前ですね。

堀江:パッと頭に浮かんだものをつけました。登山用具店と間違えられそうだと後から気づきましたが。

“ザイルパートナー”とは、登山用語なんです。たとえば、危ない道を進むときに、 1人が落ちてしまうと危ないので、ザイル(ロープ)でもう 1人とつないで安全を確保します。この人たちのことをザイルパートナーといいますが、かっこいい関係ですよね。

相手が落ちてしまえば自分も危険なわけで、相手の実力も人柄も信頼していないとできない、一心同体の関係です。ですから、ビジネス上でもそういうパートナーでいられたらと思い、この名前に決めました。

平井:素敵な関係ですね。私たちの仕事は、企業に対して全力でご支援するのは当然ですが、信頼関係を築けるかどうかが重要なポイントになりますからね。
山に魅了されて
平井:先ほどから山の話が出ていますが、いつからどのくらい登っているのですか。

堀江: 5年ほど前に前の会社のお客様と富士山に行ったことからスタートし、北アルプスを中心に登っています。頻度は独立してからかなり増え、 4泊 5日をひと夏に数回行きます。

平井:山のどのようなところに魅了されるのでしょうか。

堀江:のんびりテントを背負って歩くことが、リフレッシュになります。考えごとをしながら山を歩くのが好きですね。「非日常だから、あんまり考えごとをしなくていいでしょう」と言われますが、私は俗っぽいことを考えながら歩くのが好きです。

平井:場所を変えるのがいいということですね。

堀江:そうなんです。ヘリコプターで山頂まで連れて行ってあげるよ、と言われても嫌で、歩くこと自体に意味があるんです。
今後の展望
平井:今後の展望はどのようにお考えですか。

堀江:経営コンサルティングにも、戦略から人事、マーケティング、ITとさまざまな分野がありますが、細々したものをたくさん獲っていきたいと思っています。

いまは6割の比率で携わるITの仕事ですが、だいたい1本の仕事でそこが埋まっている状態ですので、粒を増やして安定させたいと思っています。1つを失注してしまったときにリスクが大きいのは、ビジネスとしてあまりに不安定です。

平井:専門性については、どのようにお考えですか。

堀江:もちろん大事ではありますが、どちらかと言えば、その企業の文化や、企業特有のことを素早く理解する能力を高めれば、企業にとってもありがたい存在になれるのではないかと思っています。

現在、人事に携わっている案件があります。私は、人事の専門家からすると知識は少ないのですが、それでも何かかかわれる余地があるとすれば、その企業特有のことを理解しているという強みがあります。

その方向で経営者から信頼を得るようにしたいと思っています。ある分野で1番を取ることは、不可能に近いと思うんですよ。

平井:ゼネラリストという言葉は微妙かもしれませんが、中小企業のコンサルタントとしては大事な部分ですね。

堀江:そうなんです。「中小企業のコンサルタントだから」という意味は強いですね。大企業の非常に大きなプロジェクトであれば、その分野の専門家が入っていく余地があると思いますが、中小企業では違います。

私がIT関係で中小企業に入り込むときも同じですが、ITの戦略だけ言っても仕方がないんです。中小企業支援を行う以上、たとえば業者さんとの付き合い方や業者さんが作ったものの見方まで、広い視野で携われなければならないと思います。

その点も含めて、相手の中ではゼネラリストである必要がある。“中小企業の社長さんは何でも屋”とよく言われますが、それと同じくらいに中小企業診断士にも何でも屋感があったほうがいいと思っています。

中小企業の社長さんが、マーケティングについて非常に専門的な知見を求めているかというと、そのようなケースばかりではないと思います。

自分の会社に合った、自分の会社をしっかりと理解してくれているコンサルタントが、さまざまなバランスの中でアドバイスをしてくれるほうが、ちょっと優秀な社員のようなニュアンスでフィットすることも多いのではないかと思うのです。

平井:そうですね。最後にひと言お願いします。

堀江:長く働きたいと思っています。せっかく独立して、定年もなく自由な身ですから、自由に活動できるといいですね。あとは、自分の納得できる仕事を選んでできる立場にずっといたいと思います。

たとえば、食べていくために嫌な仕事や人を欺くような仕事などはしたくありません。自分が納得でき、バリューが出せて、お客様に喜んでもらえる。そういう仕事を選択できる立場にいられることが目標です。
堀江 正輝
中小企業診断士
ザイルパートナーズ株式会社 代表取締役

情報学士(関西大学)。大学在学中より、ITベンチャーにてシステム開発に従事。卒業後、十数年にわたり、上場会計ソフトウェアメーカー、ITベンチャー、大手コンサルタント会社など複数の企業で、一貫して ITプロジェクトに従事した後、2013年に独立し、堀江中小企業診断士事務所を開業。中小企業向け IT導入支援・経営支援、IT企業向け研修、公的機関の経営相談対応など幅広く活動する。2015年に個人事業を法人事業化する形で、現在の会社を設立。葛飾区経営相談員。

ザイルパートナーズ株式会社
HP: http://seilpartners.jp/
平井 彩子
中小企業診断士
平井彩子事務所 代表

独立系ソフトウエア開発会社でプロジェクトマネージャを担当。証券会社向け、ベンチャーキャピタル向けシステム等、金融機関向け業務システムの構築現場を数多く経験。2010年からは、中小企業向け経営改善をメインとするコンサルティング会社に勤務し、会計業務支援、資金繰り改善、事業計画策等を担当。2012 年平井彩子事務所を設立し、コンサルタントとして独立。人材育成を中心に、業務改善、システム構築支援など、現場が自分たちの力で実行する仕組みづくりから支援を行っている。
FB: saiko.hirai
2016年4月/撮影協力:わたなべりょう

2016/04/15


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