■ BRANDING #07

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■ BRANDING #07

ブランディングの先にあるもの vol.2

ブランドメッセージを誰に伝えるか
川路氏:やはり基点に帰りまして、お客様の不満はどこにあるかということだと思うんですね。実は2005年に不満足調査をした結果、お客様の大きな不満点で踏み込めていないことが一つあるんです。

これは当初、つまり最初に取り組んだものがある程度浸透した次の段階で取り組もうと考えていたんですが、お客様が他の交通機関と、何が優位性になると感じておられるかというと、時間。でも実際利用すると時間が読めないということなんです。

飛行機は早いと思って乗ったのに、遅れる頻度が他の交通機関と比べて多く、出張の予定がなかなか細かく組めない。お客様はこの事に強い不満を持っていらっしゃるし、ここを掘り下げてサービスに反映していかなければと。

陶山氏: それは地上での所要時間をタイムリーにするということになるでしょうが、お客様をお待たせしないで機内まで誘導することや、チケットサービス、あるいは荷物のピックアップを迅速にするといったこともありますが、どこが一番ポイントですか?

川路氏: 仰るように、定時にお客様をお届けすることが一番ですが、やはりその前後、出発地から到着地までをトータルで考えることが必要ですね。たとえば羽田空港の場合ですと、京急を降りてから弊社カウンターにチェックインしていただくのに距離で1キロ以上。そこをお客様は15分くらい、お荷物を抱えて歩かれますから、時間も労力もかかりますし。

陶山氏: LCCだと滑走路まで出てもまだ先がありますしね。

川路氏: ええ。そこを考えると空港の施設を、というところもありますが、航空会社として、ご利用いただくお客様に労力がかからないことが、何かできないかと考え始めたところです。

陶山氏:なるほど。御社の場合、これまでブランド戦略を積極的に展開されてこられましたが、そういう面では?

川路氏: 調査したデータの中に航空業界をイメージされる際に、「航空業界ってなんかセンス悪いよね」という声が非常に多かったんですね。座席ってなんであんな柄形なんだろうとか、キャビンアテンダントの制服もデザインが古くさいとか。特に女性の方々からの厳しい声が多かったようです。

改めて、如何に移動で快適な気分になっていただくかという最後の仕上げは、やはり機内だけじゃないんですね。いろんな建築物や施設でも同じだと思うんですが、快適性を追求するとデザイン性も重要なポイントになってくる。

当社の場合キーカラーに「黒」を選ぶと同時に、「洗練されたコミュニケーション」で統一していくことになりまして、業界のデザイン性の稀薄さを逆に強みにしていこうということになりました。広告やPR・プロモーションに関しては特に我々の先進性を積極的に出しています。

陶山氏:御社の資料にあるポジショニングマップで見ますと、2007年と比べて2011年では、「個性的」や「洗練されている」といったところが微妙な数字になっていますが。

川路氏: ええ。そこは社内的に危惧しております。2009年度まではセンスやスタイリッシュといった、先進性という当社のブランドアイデンティティを軸にしたお客様へのアプローチを徹底してして実施してきましたが、2010年からここ数年に関してましては、就航路線をはじめ、新規展開に掛かる費用を増やすほうにコストの配分を強くしたこともあり、ブランド戦略を少し弱めたところはあります。そこでお客様の評価を分析してみると「あら?」という評価が返っているというところですね。

陶山氏: 設備や備品什器などハード中心にしたファンクショナルなベネフィット、つまり機能的なメリットをご提供することと、御社の評価で見る「センスが良い」「お洒落である」という御社が当初考えておられたようなブランドメッセージを、サービスやホスピタリティでどう伝えるかということは、「車の両輪」ですがなかなか難しいですね。

しかもハイブリッドとなると、コスト圧力に対するスケールメリットも必要になり、且つお客様の満足度を高めようと思うと、かなりOne to Oneマーケティング的な要素を高めていかないといけなくなりますね。

STPマーケティングからOne to Oneマーケティングに進むようにセグメンテーションされた或いは特定したお客様にきめ細かいサービスをしながら、一方でスケールメリットを効かせる必要がある。

ある程度お客様をグルーピングしてターゲットを絞り込んだ上で、マーケティング資源の投入を選択的に集中するとか、何か工夫や改良を加えないと、それこそお客様ごとにきめ細かく対応していくとなると、おそらくハイブリッドどころか・・

川路氏:それはもうレガシーですね(笑)

陶山氏: レガシー以上にコストが上がってしまいます(笑)

川路氏: そうですね。一つ手法としては、他の会社さんと比べて足りないとすれば、マイレージの囲い込みですね。

本来、航空会社にとってお客様を顧客化するために、マイレージというのは大きな要素となっていますが、我々としてはもちろん、組織はレガシーと比較して全員組織して脆弱なのは否めません。

正直なところ最初の段階では、お客様は我々にはそれを求めていない、求めていないはず(笑)だと思っていたんです。とは言いながら、進めていくうちに「やはりマイレージは大きいよ」と。

陶山氏: それはそうですよね。スターアライアンスなどの航空連合を見ると、やはりマイレージサービスは大きいでしょう。

川路氏:我々としても、まずマイレージの組織をどう作るかが直近の課題です。全員組織の定義や今後のサービスも含めて、移動の際のサービスをどう全員組織に繋げていくか、またどういうターゲティングをして、最終的な顧客の囲い込みに繋げていくかというところを、我々なりのやり方を確立することがポイントになりますね。

陶山氏:家電量販店のポイントサービスは、最終的に値下げ効果と同時に自社商品の再購買に繋げることで顧客の囲い込みになっているんですが、はたしてそれがお客様のリピートするための感動や夢などの提供というメリットに繋がっているのかというところは問題で、量販店なども見直しを考えているところです。

また流通小売業などのカード会員というのは、本来それで「チラシ」を減らすためだったりマスマーケティングのあり方を変えていく手法の一つでもあったはずなんですが、まだまだ「チラシ」もDMも減っていない。

また、レシートでクーポンなどもやっていますけれど、お客様の個別ニーズにきめ細かく対応した満足の提供とリピートに繋げていくというのはなかなか難しく大きな課題になっています。それにはかなりの規模でデータベース・マーケティングをきちんとやらなければいけないし、それには膨大なコストもかかりますしね。

川路氏: レガシーキャリアもマイルをいろんなものに交換できたり、なにかに利用できたりと非常に考えられていますが、それと同じことをしようとしても結局私どもは体力がありませんから、お客様から見て大手さんよりはチープな組織になってしまいます。

そこで我々の地元が九州ですから、九州のお客様が一番喜ぶかたち、また九州の中にもいろんな生活スタイルがありますから、お客様の属性に応じたマイルの集め方、還元のしかたを考えていこうと考えています。

陶山氏: 御社の創設にあたっては、地元九州の企業の方々が出資されたこともありますし、いわゆる地域性を背負っておられる部分もあると思いますが、地元経済活性化や観光などへの取り組みや、地域社会への具体的なフィードバックについてはどのように考えておられますか?

川路氏:2つありまして、CSRといった大きなものではないのですが、地元の行事や催事には出来る限り足を使って皆さんのもとにお邪魔していこうとしています。ある意味PRでもあるんですが、PRというより地元の皆さんと一緒になにかを作っていければと思い、積極的に参加しています。

それと元々運賃体系の中には、九州のご出身や九州在住ということを証明いただければ、いつお乗りいただいてもお安くしますという「Q割」というサービスもございます。ここも当初はお得だと思っていただいてたんですが、今は他の運賃が安いこともあって見直しの時期でもあります。

陶山氏:地元の方々がサポートするサッカーや野球のサポータークラブのようなものがあると、他の企業よりも地元の企業を積極的に利用しようという、そういう応援の仕方もあるでしょうね。そうした地域を基盤にしたコミュニティづくりはブランディングにとっても重要な要素かと思います。

川路氏: 「Q割」も今、福岡と北九州しか飛んでおりませんので、熊本など他県のお客様には馴染みが浅いということもあります。国際線も就航しておりますが、その前にやはり九州から羽田へというところをもう少し厚くしたいこともありますので、路線の拡充と共に総合的なファン作りに取り組むタイミングかと認識しております。

 


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