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知財とマーケティングから見るブランドマネジメント vol.2

田中氏:消費者の方からすると、そのブランドについて固定的に捉えている面もありますが、ある面では柔軟というか非常にクリエイティブになる場合もあるんですね。

例えば「午後の紅茶」って女子高生なんかは「午後ティー」と言ったりするような。そういうのは「コンシューマー・ジェネレイティッド・ブランド」と言ったりしてるんですが、消費者側が勝手に作り変えてブランド化する場合もある。

また、ある企業がブランドを買って、トップマネジメントが「オレはブランドオーナーだから」と突然ロゴを作り変えてしまったという話もありますね。そういった場合は知財側がどう説得するか、抵抗するかという課題になりますが。

足立氏:まあ課題といえばそうなんだけど、例外もあるんじゃないかと思うんですね。以前、東京都下水道局のユニフォームにつけるワッペンが、内規と違うという理由で作り直しを命じて、たしか3500万円くらいお金をかけたという話がありましたね。

田中氏:ああ、石原都知事の。

足立氏:そうです。で、石原さんが「なにバカなことやらせてんだ」と言ったという事件がありましたけど、そういうのはそもそも行政の下水道局のようなところが、ブランドの話をすべきなのかという話と、それを誰のお金でマネージしてるんだっていうことですよね。下水道局のユニフォームのワッペンが少し違っていて、何の問題が起きるのかという。

何を守るべきなのかというところがはっきりしていれば、例外を認めることについてそんなに問題は起きないと思うんですね。それがはっきりしないがために、フォントだとかサイズだとか色だとか、といった形を守ることに囚われてしまう。

で、形さえ守っていれば良いとなって、そのブランドが伝えようとしているものが何であるか、実は汚されていても仕方ない、といった判断をしてしまっているケースがある。それは実は知財だけの問題ではなくて、ブランドマネージャーがしっかりコントロールできていないところにあるんじゃないかなと思うんです。

陶山氏:企業にはミッションやビジョン、また伝統やDNAといった守るべきものがありますから、それが企業の中で或いは社会的に共有化されないといけない。じゃあどう共有化するかというと、抽象的なものと具象的なものとの間の発想を、どうマネジメントしていくかというアプローチの違いを考えるんだけれど、全体的なビジョンがはっきりしていないし、一方で形を気にしている。そこにギャップがありすぎて、繋がりがきちんと整備していないところにいろんな問題が起きてくるんですね。

田中氏:そこにキーワードが出てくるんですが、「ブランドダイリューション」希釈化ですね。知財では重要なキーワードですが、実はマーケティングの人はあまり考えていないんですけど(笑)

その希釈化の話は足立さんに聞くのが一番ベストと思うので、そのジャッジメントはどのように采配されていたりするものなんですか?

足立氏:希釈化と言う場合の一つに、自社での使い方によるものがあります。このブランド名はこういう人たちに向けて、こういうバリューを提供するものだ、と決めて使っていたはずなのに、その製品が売れているからと、いつのまにか別のもの、ひょっとしたら全然違うんじゃないの?というような製品にまで、同じような名前をつけたり、兄弟ブランド的に繋がろうとすることが、悪い希釈化の一つになります。あとスポンサーシップの場合も、そのブランドにふさわしいところだと良いんですけど・・。

陶山氏:なんでこの会社がこのスポンサーになってるの?というケースもありますよね。

足立氏:ええ。そのブランドが伝えようとする価値とはコンフリクトが起きた、コンフューズドメッセージを提供してるんじゃないの?ということもありますね。それが自社使用での希釈化。

もうひとつは他社が冒用するような場合。第三者が全く別の製品に勝手に使っていて、あたかも同じ会社が出しているかのように見える。それが第三者による希釈化行為になります。

陶山氏:ブランドの拡張という話になると、マーケティングの方では大きくいろんな形でされているけれど、本来ブランドの持つバリューやポジショニングが、きちんと守れているかというと、かなりルーズでもそれは是というか。

それはいわば、本来こういうものに限定して守るべきである、ということなのか、いやどんどんやっていいのかという、そこのスタンスはやはり、どちらが正しいか正しくないか、ということではないと思いますね。両方あるような気がします。

足立氏:私も両方だと思います。それは両方なきゃいけないですね。

田中氏:そこにしくみが必要なんだと思いますね。マーケティングの側では、ブランドを付ければ売れるからって、なんでもかんでも付けちゃうってよくありますよ。売れる・ヒットするといえばもう錦の御旗みたいになる。

でも一方知財の側にすると、それはあまり快く思っていなくて、そこでコンフリクトになる。ただ、この間のやり取りって埒があかないので、やはりトップがここに介入して、これはいいけど、これはダメというルールなり、監督することが解決になると思うんです。

陶山氏:企業の伝統やミッションを、将来的にどうディレクションするかというのを、オールラウンドでできた上で、自社のブランドはこうあるものだと。それでハーモニーにするのが経営トップのリーダーシップですね。

足立氏:企業内でブランド使用委員会のようなものを作って、経営層や広報が入って議論している企業もあるんですけどね。最初は良いんですけど、それがだいたい経営層は多忙だから、と出なくなる。そうするといつのまにか形骸化して、また元にも戻って一対一でぶつかってしまう。

企業のしくみにもよるんですが、ブランドで生きて行くと決めた企業では、製品ごとにブランドマネージャーがいて、ブランドマネージャー間できちんと話し合われてるんですね。そういうところではいつも知財や法務の人間が入っている必要はないんです。

陶山氏:入る必要はないんですか。

足立氏:ええ。知財や法務はそもそも、権利を獲るかどうするかという話なんですけど、いつのまにか、マーケティングの人たちが融通無碍に動きたがって、それを制御するのが知財や法務の人間だ、となってしまっているんですね。

田中氏:あとブランドマネジメントを担当するCBO(チーフ・ブランド・オフィサー)や、ブランドエクイティマネージャーをおいて管理するという話は、外資系ではよく聞くんですけど、恐らく日本の企業は、個人個人に権限委譲があまりされていない場合が多く、うまくワークしていないように思います。マーケティングにもブランドにも、やっぱりリーガルのことについても見識がないといけないですから、実際にはこうした専門マネージャーを設置する管理の仕方はなかなか難しいんでしょうね。

陶山氏:マーケティングと知財、その部門間を調整する組織、それを各階層ごとに現場のレベルからトップまで一貫するようなシステムの精度をどうするかが大きなテーマですね。

 

2013/01/23


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