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■ BRANDING #11

知財とマーケティングから見るブランドマネジメント vol.4

―――日本の企業のブランド戦略についてどう見ておられますか?
足立氏:ブランドの世界から見て、企業ブランドやコーポレートブランドという考え方というのは、日本特有のものなんですかね。それとも他の国でもわりと一般的にあるものなんですか?

というのが、私が思うに企業の価値は、製品ブランドなりサービスブランドの結果として上がっていく、そんなイメージを持っているんですが、最近日本のいろんな企業の方たちと話していると、コーポレートブランドということが先に出てくる。

どういうイメージを提供するかというコンセプトからネーミングが出てくる、というより先に企業名があって、企業自体にこういうイメージを持ってもらいたい、そのためにどうするか、ということを話されていることが多いんですね。

それが私にはやはり不思議なように思うんですけど、実際はどんな感じなんですか?

田中氏:僕はコーポレートブランドを考えるのは、日本特有だとは思っていないんですが、ただ、コーポレートブランドの捉え方には、日本特有の特徴があると思います。

足立氏:そんな気がしますよね。

陶山氏:それはどの辺にですか?

田中氏:一つに日本は商品ブランドがあまり発達していない、ということがあるのかもしれないですね。P&Gのようにワンビリオンブランドを20以上も持ってるような企業って、日本にはないですから。

P&Gはもう比較できない規模だから、同じような真似はできない。そこでどうしてもコーポレートブランドを中心にして考える、ということになり易いんでしょう。もう一つ、「企業」というものが日本人にとって最も近しいというか。

足立氏:帰属の意識ですよね。そのイメージが強いんですかね、やっぱり。

田中氏:ええ。それもあると思いますね。

足立氏:そのせいか、インターナルブランディングとか、インナーブランディングといったことが、結構出てきていますよね。もちろんそれは必要だと思うんですけど、でも何か、ブランドは事業のもの、と私はどうしても捉えてしまうので、そこから捉えてしまうと、やや散漫になってしまわないのかな?という気がするんですけど。

田中氏:仰る通りですね。インターナルブランディングについて、なんやかんやと言いたくなるのも、日本の企業の社長さんの特長かと思います(笑)

陶山氏:今までのブランディングというと、広告といった対外的なコミュニケーションのためのツールや手段として理解されていた。それはそれでいいんだけど、社内の合意形成やビヘイビアを起こせるまでにはならないと。

トップがいくらブランディングと言っても、なかなか末端まで理解がいかない。それでまずは全社的に、ミッションやビジョンについてのブランドブックを作成して、と形から入っていくんです。でもそこからでないと全社的なブランド戦略に入っていかないということがあるんですね。

P&Gがシックと言うブランドをもっているのはM&Aなんですね。つまりすでに確立された製品ブランドがあって、それらの集合体としてP&Gがあり、LVMHがあるという。そこで欧米の場合、P&Gって何?LVMHって何?ってことはあまり考える必要がない。そういう成り立ちがあるからじゃないかと思います。

田中氏:そうですね。ブランドの体系の成り立ちがそもそも違いますね。買ったブランドが多いか、オーガニックブランド(自社で育てたブランド)が多いかということもありますね。 

足立氏:アメリカ系企業はどちらかというと、プロダクトブランドでモノを考えていて、たまたま最初の製品名が企業の名前になっていることが多いんですね。GMもカンパニー制になっていて、必ずしもGMという名前がいつも付いてくるわけでもないですし。

陶山氏:でもドイツのBMWですと、3シリーズ、5シリーズと同じパターンでありますよね。メルセデスでも、Sシリーズ、Cシリーズとか。それは一つのあの特徴的なフェイスというのがコーポレートブランドそのものですよね。

足立氏:うーん、それはそうなんでしょうけれど、BMWにしてもメルセデスにしても、その企業名が付いてるんだけど、企業のことをイメージするかっていうよりは、車そのものをイメージすることが多いかと思うんですよね。消費者もどっちかというとそっちのイメージだし、売っている人たちも。日本の企業は「この企業が出しているこの商品」といった打ち出し方のほうが多いような気がして。それが日本特有なのかなと思ったりするんですけどね。

陶山氏:私が調査した際に、P&Gのシャンプーは製品機能が優れている、オシャレでかっこいいと。ところが日本の企業だと、男性の場合、花王の「メリット」?薄いグリーン色のパッケージのシャンプーでは?となります。つまりプロダクトブランドがあまり確立していないんですね。

今はもう資生堂や花王ってあんまり関係ないやということに、少しづつなってきているんでしょう。そうした日本の企業のブランディングの歴史や、欧米企業との比較をふまえて、日本の企業にふさわしい調査と研究をしていかないといけないですね。

田中氏:実態の調査って大事だと思うんです。20年ほど前は日本の企業が注目されていましたが、今や日本の企業のマネジメントに関心ある人は誰もいない。だけどやっぱり、現実に日本の企業では、どんなマネジメントが行われているかの調査はやったほうが良いですね。

今中国もそうですけど東南アジアであったり、リージョナルな活動でのブランド戦略はどうあるべきかというのは必要ですから、グローバルブランドも研究しないといけないですね。

陶山氏:今注目されている企業ってありますか?

田中氏:日本企業が意外とグローバルブランドを持ってるということがありますね。メンソレータム(ロート製薬)、サーモス(サーモス株式会社)、ファーファ(日本のみNSファーファ・ジャパン)などです。M&A等で知らない間に売買されて、ブランドがその企業固有のものでなくなっていくこともあります。その後育っていたり無くなっていたり、いろんなことが起っていますから、そこをフォローしても面白いかなと。

足立氏:以前より目立たなくなってしまったブランドもありますよね。

田中氏:ええ、ブランドの売買によってブローする場合もありますしね。そんなプロセスを見ておくのも良いかなと。企業も合併したあとにどうなるかというのも大事な話で。

あと測定の問題ですね。メジャメントってこれもいろんな説というか、考え方が提案されていますけど、もうちょっと違う測定はないのかと思っています。ブランドの価値ってそのまま直接は測れないんですね。代理変数を用いて測定しないといけないと思うのですけど、どのような変数を用いたらうまく出てくるのか、というのはまだ空白になってる。

陶山氏:財務的な観点と視覚的な手法をどうジョイントするかということですよね。ブランド戦略すればどう儲かるのかということがきちんと証明されていないので、なぜブランド戦略が必要なのか、ブランディングによって企業が本当に成長するのかということですよね。

田中氏:いまどきブランドが大事じゃないという人はいないんですよ。だけどそれが何に結びついていくのかということですよね。アメリカのケラーによって、シェアホルダーバリュー、投資家とブランド価値がどう結びついているかという研究がもう行われていますから、日本でもそういった観点の研究もやっていくと良いでしょうね。

陶山氏:そうなると、日本企業の経営トップに対するアピールも変わってくるでしょうね。
田中 洋
中央大学 大学院
戦略経営研究科教授
京都大学博士(経済学)

1951年名古屋市生まれ。 慶應義塾大学大学院後期博士課程単位修得。1975年(株)電通入社、同社マーケティング・ディレクターを経て、 1996年城西大学経済学部助教授、1998年法政大学経営学部教授、2003-4年度コロンビア大学大学院ビジネススクール客員研究員。この間、フランス国立ポンゼショセ工科大学ビジネススクール、東北大学、名古屋大学、慶應義塾大学、早稲田大学などで講師。経済産業省・内閣府・特許庁などで委員会座長・委員を務める。2008年 4月より現職。

日本マーケティング学会(2012年11月設立、学会長 石井淳蔵神戸大学名誉教授・流通科学大学学長)副会長。マーケティング論専攻。消費者行動論・マーケティング戦略論・ブランド戦略論・広告論に関心。多くの企業でマーケティングやブランドに関する戦略アドバイザー・研修講師を勤める。その著作・研究活動により、日本広告学会賞を三度、また2008年度中央大学学術研究奨励賞を受賞している。翻訳サービスの(株)言コーポレーション顧問。日本マーケティング学会副会長。マーケティング論専攻。多くの企業でマーケティングやブランドに関する戦略アドバイザー・研修講師を勤める。日本広告学会賞を三度、また2008年度中央大学学術研究奨励賞、2012年白川忍賞などを受賞。

主著に『ブランド戦略・ケースブック』(2012)、『マーケティング・リサーチ入門』(2010)、『大逆転のブランディング』(2010)、『消費者行動論体系』(2008)、『現代広告論』(2008)、『企業を高めるブランド戦略』(2003)など多数。

HP: http://hiroshi-tanaka.net/
足立 勝
日本コカ・コーラ(株)
ディレクター&シニアリーガルカウンセル
米国ニューヨーク州弁護士

兵庫県生まれ。米国イリノイ大学ロースクールLLM(修士)修了。1997年日本コカ・コーラ(株)入社。2005年より日本商標協会理事。2009年より日本商標協会常務理事 同協会ブランドマネジメント委員会委員長。2011年より、一般社団法人日本食品・バイオ知的財産権センター理事。日本弁理士会研修委員会にて、「ブランド戦略」についての講師を務める。2012年12月より、日本弁理士会中央知的財産研究所会員外研究員。

論文等:『最新判例からみる商標法の実務』(共著 青林書院,2006)「ブランドと稀釈化(ダイリューション)について」(日本商標協会誌64号 2007)「Coke sets precedent in Japan」(共著、World Trademark Review issue15, 2008)「立体的形状のみから成る商標の登録」(Law & Technology42号,2008)『最新判例からみる商標法の実務II(2012)』(共編著 青林書院,2012)「企業におけるブランドマネジメント」(知財研フォーラム91号 2012)など。学会等:日本工業所有権法学会、著作権法学会、日本マーケティング学会など。
陶山 計介
関西大学商学部教授

1950年 岡山県生まれ。京都大学大学院経済学研究科 博士後期課程単位取得。博士(経済学)。研究分野:ブランド・マーケティング。常に現場に目を据え、トヨタ、リクルート、JH、ハウス食品、イズミヤ、大阪府等多数の企業、各種団体の幹部研修も行い、産学交流を推進している。 文科省、経産省等の専門委員や大阪ブランドコミッティ・プロデューサー等、学外活動多数。英国エジンバラ大学マネジメントスクール 客員教授(2002年)
[学会・研究会活動] 日本商業学会前会長/日本広告学会元理事/日本広報学会元理事/一般社団法人 ブランド戦略研究所理事長

[主な著書・訳書] 『ブランド・エクイティ戦略』(共訳 ダイヤモンド社 1994年)/『ブランド優位の戦略』(共訳 ダイヤモンド社 1997年)/『バリュースペース戦略』(共訳 ダイヤモンド社 2004年)/『マーケティング戦略と需給斉合』(中央経済社 1993年)/『日本型ブランド優位戦略』(共訳 ダイヤモンド社 2000年)/『マーケティング・ネットワーク論』(共編著 有斐閣 2002年)/『大阪ブランド・ルネッサンス』(共著 ミネルヴァ書房 2006年)等

関西大学 陶山研究室
http://www2.itc.kansai-u.ac.jp/~suyama/

一般社団法人 ブランド戦略研究所
http://www.brand-si.com/
取材協力:一般社団法人 ブランド戦略研究所/取材:山部 香織/撮影:菅野 勝男/取材:2013年1月
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2013/01/23


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