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ものづくりとデザイン~その狭間にあるもの vol.2

村上氏:僕らも、デザインだけポンと上がってきて、これ作ってくださいって言われても、そりゃできないこともないですけど、いくら掛かっても良いの?ってことってよくあるんですよね。

もっと最初の段階でこういうことしたいって相談があったら、ここをこうすればコストダウンできますよってアドバイスもできるじゃないですか。

そこを飛ばしていきなりコレ作って、見積もりしてとなると、反発じゃないですけど、なんか現実的じゃないやんって思うことありますね。

吉持氏:それとね、ものづくりの人間だけでやってると、考え方とかものの見方が限定されるんです。

ところがそこにデザイナーさんが加わることによって、全く違うモノが出てくる。

僕とカバン屋さんのデザイナーがコラボして、ようこんなん作れるなあというモノを作ったことあるけど、やっぱりものづくりの中だけで考えてたら、次の違うものは絶対出てこない。

村上氏:過去の経験からの常識があるから、そこの枠から外れることができないんですよ。 

吉持氏:そうそう。僕はなんでも良いから、そうして次元の違うものができる可能性を追求したいと思ってる。でもそんな人あんまりいないんやね。

村上氏:実際それって面倒くさいからね。

芦谷氏:要は、強度はこれくらいでダイスはこれくらい、という指示だけ飛んできて作るっていう昔のフレームワークがあるからね。

村上氏:スペックの指示だけでね。

芦谷氏:そうそう、それが元々の工業社会の考え方やからね。でも今の時代、それだけなら中国やアジア圏に価格で負けてしまう。そこに従来の自分の考え方とは違うなにかをプラスアルファできるかどうか。

吉持氏:例えばボルトにしても、ふつうにボルト作ってるだけでしょ?そこから次の発展がない。まあ言っても「ゆるみ止め」とかその程度でしょ。

でももっと違うモノにしないと売れない。そこに発想の次元の違いというキーはやっぱりデザインですよ。

ものづくりの人間がせいぜい頑張っても、使い道の範囲は限られてしまう。そこをデザイナーと関わることで、こんな使い方ができるの?という発見が出てくるんです。

やっぱり世界でモノを売っていこうと思ったら、そういうところを目指さないと生き残れないですよ。

村上氏:お客さんが言ってくるのはどうしても、価格と機能しかないんですよ。いくら安くできるかということと、満たして欲しい機能の話。それがどういう使われ方をするかという発想を僕らには求められないんです。

ウチは箱を作ってるけど、僕は最初の段階で、何を入れるんですか?どういう時に使うんですか?って聞くんです。

だいたいこういう仕様でこんな紙で作ってってポンと言われても、それが普通に店で売る商品なのか、結婚式の引き出物に使うのかとか、目的によって違うじゃないですか。

単に言われた通りにやればいいとやってるだけじゃ、値段で中国に勝てないし、大手の大量生産にも勝てるはずがない。そこに興味を持ってこなかったという製造業の悪さもあると思う。

でも実際にはデザイン事務所ってハードルが高いからね。そこのきっかけになる部分、デザイナーと接する機会があるかないかはすごく大きい。

芦谷氏:僕らデザイナーが悪い部分もあると思うんやけど、デザインというものがわからない人は、 どうしてもカタチを綺麗にして値段高くするんやろ?っていう形状的な話で終わっちゃうんですよね。

いや、カタチをこうすると、これを見た人達はこういう風に感じますやんとか、それを見て従業員の人達も、気持ちよく仕事できますやんとか。

デザインってそういうしくみのものやと思うし、使い方やと思うねんね。オレこのカタチ嫌いやねん、というような話で、それが売れなかったら縁も切れるみたいな。

村上氏:根本的にものづくり系なんかそうですけど、デザインはイコール、色やカタチという単なる外観的なことだけっていう意識がすごく強いですね。

今でこそ、いろんなデザイナーさんとのつきあいがあるから、デザインの本質的なことがわかるけど。そうでなかったらやっぱり表面的なことしか頭に描かないと思う。

でも本当はそうじゃなくって、情報そのものをデザインすることが本質なんやということがわかれば、また姿勢も変わってくる。

芦谷氏:そうそう。デザイン1案から5案まであるから、じゃあ2案でいってよって。まあ、客の言うこともわからんでもないけど、2とか3とかという話じゃなくってさ(笑)

浪本氏:なんか、赤がイヤやから緑出して、黄色出してって言われてるうちに、だんだんこっちもイヤになってくるしね。あれがイヤやこれがイヤやって。

そういうのはデザイナーとして望んでいるわけではないし面白くない。見かけだけ求められてるというのはなんか違う。

芦谷氏:人間ってその見かけから受ける印象によって行動するっていう、アフォーダンスという言葉があるんやけど、たとえばノブがあったら廻してしまうみたいな。

それってデザインの本質なんやけどね。何かを見たときに、記憶とかいろんなところから反応するわけやから、それをコーディネートしていくことがデザインの仕事なんとちゃうかな。

村上氏:ポスターにしてもカタログにしても、それを見て購買に動くような刺激を与えるわけでしょ。そのためにデザインがあるわけで、単に色がキレイなだけやったら、ああ、これカッコイイねで終わってしまって、何の意味もないしね。

浪本氏:でも、言葉にしたらすぐに終わることを、デザインだけで表現してくれって言われると困る。それを見たらすぐこういう風に思ってもらえるようなデザインにしてくれって結構あるでしょ。

芦谷氏:それも結局、カタチだけ求められてるって話やねん。やっぱりその周辺環境も含めた上で、じゃあこれどこに置きます?とか誰が使います?とか、そういうことも含めたことがデザインの領域なんじゃないかと思うけど。

浪本氏:ちょっとした装飾のデザインで解決しようという。しかも自分ができないからやってもらおうっていうのは、ちょっと違うと思うんやけどね。

吉持氏:デザインの良さって、デザイナーと接触がないとわからんよね。

村上氏:デザイナーさんもブランディングをちゃんとやる人もいれば、単にかっこいいデザインだけする人っているじゃないですか。例えばロゴ作って欲しいって言えば、なんかよくわからんロゴ作ってきて、はい2万円とか。

芦谷氏:いるいる。いきなり作ってきたんか、みたいなね。ちょっと俺の話も聞いてから作ってくれよっていう(笑)

村上氏:そうそう。ものづくりもそうなんやけど、ピンキリっていうかレベルの差がものすごくありますよね。

芦谷氏:その差は普通の人はわからんからね。

村上氏:確かにね。だからそういうのに触れちゃうと、デザイナーというと単に色やカタチだけ作る人っていうイメージになる。

なんか訳わからんようなロゴ作って2万円っていうより、その企業の歴史とか、どういう想いがあるかをヒヤリングして作るプロセスがあって、最終的にこのロゴができました、やったら100万円でも価値があるわけじゃないですか。

芦谷氏:意味を共感できたらね。

村上氏:そういうことに触れる機会が、ものづくりだけじゃなくて一般の人にもなかなかな無い。だからデザインって理解し難いってすごくある。

芦谷氏:そうやね。たとえばデザイン家具って、以前はカッシーナとか、それこそソファ100万円なんて俺ら関係ないわって思ってたけど、IKEAって、あれもコピー商品みたいなもんなんやけど、それでも安く買えたり触れたりできるじゃないですか。

高いか安いかというよりも、カタチを変えながらでも、デザインというものを触れやすくする、ということをこれからは考えるべきなんちゃうかなと僕は最近思ってるんやね。

ウチは紙袋のショッピングサイトをやってるんやけど、僕らデザイナーが仕上げてあげるんじゃなくて、素人でもデザインを組み合わせたら良くみえるようになるってことを考えてるんですよ。

全然デザインできなくても、組み合わせるだけでなんか良いやん、デザインって良いよね、と思ってもらうことって大事なんじゃないかな。そこからデザインを楽しんでもらえるのかなと思うね。

浪本氏:そうやね。デザインがもっと身近になればいいよね。

村上氏:ホント、そうですよね。
村上 誠
貼箱士
村上紙器工業所 代表
 
1963年大阪市出身。 工業高校電気科を卒業後、NHK大阪放送局技術部入局、地上波、放送衛星の送信技術業務に従事する。同局退職後、保育士、カナダ在住を経て、同業の貼箱製造会社で修業。その後家業に戻り、2005年より村上紙器工業所代表となる。現在は、クリエイターとの展示会や商品開発、情報発信を進める。

村上紙器工業所
HP: http://www.hakoya.biz/
吉持 剛志
ヘラ絞り職人
吉持製作所 代表
 
藤井寺工業高校を卒業後、父親が経営する工場に入社。キャリア40年のヘラ絞り職人。人脈を広げるために交流会への参加やセミナーの受講、独力でHPを立ち上げるなど、アクティブに営業活動を展開。主要製品:照明用反射板、各種アルミカバー、塗装用タンク

吉持製作所
HP: http://yosimoti.com
芦谷 正人
グラフィックデザイナー
アートディレクター
株式会社DRIVE
代表取締役
 
1965年大阪府堺市出身。大学卒業後、広告制作会社を経て、フリーのデザイナーとして独立。2004年に「DRIVE, Inc.」設立。製造業を中心にブライダル業界、リゾート業界などのブランドコンサルティングを手がける。デザインワークで培ったプロセスを活かし、企業の問題を視覚化させ改善方法を発見することにより企業のブランド価値を高めることを得意とする。その他、大学・専門学校講師、現代美術作家として活躍。2007年関西中小企業が世界的ブランドを目指すことをサポートする関西ブランディングデザイン協会を発足現在、同協会理事

株式会社DRIVE
HP: http://www.drive-inc.jp/
浪本 浩一
アートディレクター
デザイナー
株式会社ランデザイン
代表取締役
 
大阪府枚方市出身。大阪のデザイン会社に3年間、東京の広告制作会社に6年間勤務。その間、大手企業の広告、カタログ、WEBサイトなどを制作する。2005年にlangDesignを設立。主に教育、地域、行政、施設に関わるデザインを行っている。また素材・加工・デザインなどの研究会や、もの作り企業とのコラボレーションにも積極的に取り組んでいる。

株式会社ランデザイン
HP: http://www.langdesign.jp/
撮影:菅野 勝男/取材:2013年2月
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2013/02/05


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