■ INNOVATION #05

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■ INNOVATION #05

哲学から見る現代社会の「議論」 vol.3

岩本氏:さきほどの先生のご講演で、人は何を持って制限するかというパスカルによる3つのオーダー(レイアー)についてお話されましたが、今自分が考えるこの思考回路は、事実だと認識をしているのか、それとも違う要素で認識しているのかという区別をするのは面白いですね。(※パスカルによる3つのオーダー:物体・精神・愛という秩序の三段階)

堀氏:我々は同時に全部のレイヤーにいるんです。生活全てに、アンドレ=コント・スポンヴィルという現代フランスの哲学者の分類を採用すると、①自然界や経済、②政治、③道徳、④愛、そして宗教を信じている人の場合は⑤神、というように全部のレイヤーが関わっています。

岩本氏:どこかのレイヤーが強く出るときはありませんか?
堀氏:あります。なにかの価値判断するときはそのレイヤーで判断してるんですが、そこで価値判断していることを自覚する必要がありますね。そこを混同するとまずい。

やはり議論する時は、自分をとりあえず括弧にいれて、理性的に先入観を排して相手の言うことに耳を傾けてみる。且つ、本当にそうなのか、矛盾していないか、情報は確かなのかと常に批判精神を持って聞くわけです。しかしその批判精神は、自分に対しても向けられているべきなんです。

自分が潜在的に求めている情報は欲しくなるだろうし、言って欲しいことを言ってもらいたいだろうし。また、そうじゃないものだと拒否反応になりかねない。私自身もそういう傾向に流れる可能性が十分にあるわけで、自由に議論するには、まず自分自身から自由にならなくちゃいけない。それが一番大切かなと思います。

岩本氏:そうですね。
堀氏:日本人のメンタリティは、権威を非常に有り難がってしまって、批判精神を抑えてしまうこともあります。自分が理解できないのは自分の能力が足りないんじゃないかと思ってしまう場合もあるんです。だから自分の頭で理解して納得できるかどうか。

納得いかないことを無理に納得するには及ばないのですが、一回だまされたと思って聞いてみることも大事ですね。そのためには、こだわりのないゆったりした余裕のある自由な精神が必要なんです。お互いにそれを持っていれば対話らしい対話ができるかと。

岩本氏:私が知る範囲はすごく狭いかもしれませんけれど、とにかくファクトを突き詰めて皆様にご紹介するという役目だと思っていて、それが良い悪いではなく、そのまま受け止めていただいてよろしいかと思っています。でもそこからどう議論を深めていくかといった次のステージに持っていってくださるのが先生かと。

堀氏:つまり「意味」なんですね。社会的に或いは倫理的にどういう意味があるのかを照らし出すサーチライトのようなことができれば本望です。
堀 茂樹
慶應義塾大学総合政策学部教授
フランス思想史研究
翻訳家
 
滋賀県大津市生まれ。1974年早稲田大学教育学部社会学専修卒業。1977年慶應義塾大学文学研究科修士課程修了。フランス政府給費留学生として渡仏し、79年Université Sorbonne Nouvelle Paris III高等研究課程(19世紀フランス文学(オノレ・ド・バルザック))、及び82年Université Sorbonne Paris IV高等研究課程(20世紀フランス思想史(ジュリアン・バンダ))修了。2000年同総合政策学部助教授。2003年教授兼大学院政策・メディア研究科委員。主な訳書に、アゴタ・クリストフ『悪童日記』三部作(ハヤカワepi文庫)、アニー・エルノー『シンプルな情熱』(ハヤカワepi文庫)、アラン・ソーカル、ジャン・ブリクモン『「知」の欺瞞 ― ポストモダン思想における科学の濫用 ― 』 共訳(岩波現代文庫)などがある。
岩本 沙弓
金融コンサルタント・経済評論家
大阪経済大学経営学部客員教授
 
青山学院大学大学院 国際政治経済学科修士課修了。1991年より日・米・加・豪の金融機関にてヴァイス・プレジデントとしてトレーディング業務に従事。 日本経済新聞社発行のニューズレターに7年間、為替見通しを執筆。金融機関専門誌『ユーロマネー』誌のアンケートで為替予測部門の優秀ディーラーに選出。現在、為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、英語を中心に私立高校、及び専門学校にて講師業に従事。政権政策会議などの講師に招かれる。主な著作に『円高円安でわかる世界のお金の大原則』(翔泳社)、『新・マネー敗戦』(文春新書)、『マネーの動きで見抜く国際情勢』(PHPビジネス新書)、『為替占領』(ヒカルランド)他。Office 『W・I・S・H』代表
 

HP: http://www.sayumi-iwamoto.com/
FB: sayumi.iwamoto
取材:2013年11月

2013/11/19


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