■ ADV(アドボカシー)な人々 #03

HOME» ■ ADV(アドボカシー)な人々 #03 »フィーノ株式会社代表 鈴木孝枝 「いまのきもち」 vol.5

■ ADV(アドボカシー)な人々 #03

フィーノ株式会社代表 鈴木孝枝 「いまのきもち」 vol.5

鈴木氏: デンマークって所得が高いんです。平均年収5~600万ですからね。でも税金が半分でしょ。医療費がタダで教育費もタダ。大人になってから何度もやり直しがきくということもあって、全員一律絶対に貰いそこねない年金が出る。

そう考えて日本の計算をしてみると、消費税はそんなに取られていないけれど、社会保障で年金払ったり、介護保険料払ったり、トータルで気がつくと結構いい数字いくんですよ。でも戻ってきていない。還元されている感がないんです。払ってる側の私たち自身も気づいていない。そこを提唱している人も結構いると思うんですけど、まだ声が小さいですよね。

片岡氏: うまくやられちゃってる感。

鈴木氏: それはあると思います。年末調整を早く無くして、皆で確定申告をしようみたいな。そのほうが戻ってくる率が高いような気がしますよね。

谷本氏: デンマークは福祉やいろんな制度が充実しているので、働かなくてもうまく生きていけるにも関わらず、ちゃんと一生懸命働くというモチベーションが高いのはなぜなんだろう。

鈴木氏: 基本的に自立して食べていかなくてはいけないという意識付けが基礎教育課程にあります。もちろん、社会福祉があるから俺は働かないっていう制度にあぐらをかく人もいますよ。いますけど、セーフティーネットがしっかりしますから、働けるのに働かない人を見つけてくのが上手いんです。もう徹底的にサポートが入り、就職につなげます(笑)。

2008年頃、リーマンショックの時に「フレキシキュリティ」という言葉が流行ったんですね。フレキシブルとセキュリティを合わせた言葉です。向こうは解雇が早いので、企業が倒産しました、はい全員解雇ですとなった時に、失業者をどう拾って失業率をどうするかという、労働組合と企業と国が一体になった政策がすぐに動きます。要は網の目から漏れていく人を拾うんですね。それが一枚じゃなく何重にもなっている。だから落ちる人がほぼいないんですよ。

片岡氏: そこの徹底ぶりがすごいんですね。
鈴木氏: ええ。例えば年末12月ぐらいに失業率が10%近くまでいっても、翌年半年後には3%ぐらいに戻るとか。そのスピード感は早いですよ。労使の市場需給バランスの動かし方がすごい。

片岡氏: プロですね。

鈴木氏: モチベーション低下というより、就職できないという心配感がないんです。保障はあるし、悩む時間も与えられていますから。日本的に考えると早くなんとかしなくちゃというスピード感をイメージされるかもしれないですが、向こうではやはり対話とじっくり考える時間を与えた上で、次のステップに進ませるということをやっていますね。

谷本氏: すごいですね、そのシステム。

片岡氏: 逆に日本がそれをできないのが不思議でしょうがないです。

鈴木氏: 地方分権が進んでいることも一つあると思いますね。日本でも私たちはまだまだ働かなくちゃいけないですし、これから働いていく人たちも含めて、1つの会社に依存した生き方って難しくなると思うんです。そういう意味で自分は自分の人生をどう生きたいかという経営者マインドは持っていた方がいいだろうなと思います。

片岡氏: 2011年3月に震災があって、僕は9月までサラリーマンだったんですね。会社を辞めるとき、家族に3人扶養家族がいるので、いきなり辞めて起業すると年収がいきなりゼロになっちゃうじゃないですか。でもどうしてもやってみたいなと思っていろんな人に相談して、僕は今週5日のうち3日間はNGOの職員なんです。

フランスのパリに本部にある『世界の医療団』というNGOです。そこに週3日勤めて平日2日分の時間と土日が個人事業主だったんですね。給与所得者かつ個人事業主という形でやってみて、2年半が過ぎて、3年目に入る昨年12月に株式会社化したんです。もしもこんな感じのゆるい感じの会社員が増えてきたら、企業側から見ると脅威だったりします?

これって、僕が以前勤めていたテレビ局の感覚でいくと当たり前なんですよ。テレビ局ってプロデューサーが1人で、その他のスタッフの大半は外のスタッフなんです。プロデューサー1人、デレクター1人、あるいはADに若い新人社員が1人いるぐらいで、あとは制作会社のスタッフがほとんどだったり、契約社員のデスクの人で番組を作っているんです。

そういう内部と外部の人が協業することが当たり前に育ってきたので全く僕は今の自分のスタイルに違和感がないんですけど、企業内の人ってやっぱり組織である以上は組織が組織であり続けることを維持していこうとするじゃないですか。

そういう組織体としての感覚で考えると、例えば、新卒で大勢の外国人が入社したり、地方からオンライン上でフリーランスの人にスカイプで会議に参加してもらったりなんていうのは、悪く言うとコンプライス上「組織崩壊」につながりかねないくらいネガティブに捉えられることもあります。たとえ「雇用」という形態ではなくても、世界中から良い人材を集められるというポジティブに捉えられるかどうかなんですけど。
鈴木氏: 企業によると思うんですよ。ほんとにガチガチの企業はプロパーから上がってきた人しか信用しないみたいなところがありますけど。でも今大手になればなるほど業務委託が増えていますよね。だって今、スペシャリストが欲しく困っていますから。内部で育てる時間がないんです。

片岡氏: 昔、高度成長期頃は社内で育てていたんですよね。

鈴木氏: バブル崩壊の時代に採用をやめたので上下のつながり、切れちゃったじゃないですか。なので30代半ばが中抜けしてるんですよ。今どこの企業もキャリア採用大慌てですよ。でも、いわゆるできる人は市場に出にくいんですよね。不況の際に採ってもらった恩があるので。この世代はじっくり教わってないけど自分たちで伸びてるんです。

片岡氏: いわゆる氷河期世代ですよね。

鈴木氏: そうです。超氷河期あたりです。

片岡氏: 企業は今「抜けてる」部分だけ欲しいと。

鈴木氏: ここは常に空洞だから欲しいんです。そういう人たちの中で自分が会社の枠に合わないと思うと起業しているんです。こういうメンバーが企業に業務委託で入ったり、今仰られたような副業がOKな会社が増えていますね。

片岡氏: 74年のオイルショックと79年のオイルショックの間に採用が少なかった時代があって、そこも空いているけどまたちょっと違う。その頃はまだそれでもどこかには入れたんですけど、今は自分たちでなんとかせざるを得ない。

鈴木氏: どこかに入れたし再就職も結構できた時代ですから。超氷河期時代の人たちって、ちょうどその頃派遣採用が流行ったんです。なので最初から派遣で行ってしまうともうそれしかできなくなってしまう。キャリアストレッチができなかったので、そういう経験を積んだ人と積めなかった人とがこんなに違うんですよ。

片岡氏: そこは課題かな。
鈴木氏: この世代の声なかなか聞こえてこない。諸外国と比べて日本の盛り上がり方とか市民運動的なムーブメントってすごく遅いじゃないですか。

片岡氏: そうですね。

鈴木氏: そういうことも若干影響していると思いますね。結構、社会でも戦力があって動ける年代の人たちがちょうどそれぐらいじゃないですか。そこの盛り上がり方が弱いんだろうなっていう感覚がありますね。

片岡氏: 作業系ができる人は多いけど戦略系の得意な人が少ないんですかね。

鈴木氏: まさにおっしゃる通りですね。


谷本氏: そのジェネレーション的なことや環境によって伸びシロがあったりなかったり、いろいろありますよね。人事や経営者としてはそういうことを見計らいながら、欧米型、特にアメリカみたいに優秀な人だけ動いてもらって、あとは別に何してても構わないみたいなことになっていくのか、それとも各個人がマキシマムに力を発揮してボトムアップしていかなくちゃいけないのかとううと、今後どんな形になっていくのでしょう。

鈴木氏: 両方な気がしますね。世の中はなんかパラレルになっていくような気がするんですよ。カリスマ性のある人が一人いてそこにワーっとついていくというより、いろんな分野のカリスマがいて分派されていく気がするんですよね。感覚的にですけど。

そして、トップの人たちがひっぱって、あとをついていくにも、ボトムアップしないとその道のカテゴリーはうまくいかないという気がします。だからこそ、個が大切になってくるんだろうなと。これからは、大企業も、中小企業も、同じ価値観のある人同士が会社の垣根を超えてつながる時代になりますね。

片岡氏: そろそろお時間です。ありがとうございました。
次回のゲストは?

次のアドボカシー対談のゲストは、株式会社つくるひと 代表取締役の小野ゆうこさんです。
鈴木 孝枝
デンマーク生活福祉コンサルタント/人事戦略コンサルタント
フィーノ株式会社 代表取締役
短大卒業後、アパレルメーカー系商社へ就職。以前から興味のあった生活福祉に関わる仕事をしたいと、2001年秋にデンマークへ留学。ノーマリゼーション―障害者の生活条件を健常者(社会的に不利な条件にない人たち)の生活条件に可能な限り近づける ― 北欧の「自立」を目指した教育・福祉について学ぶ。帰国後は民間シンクタンクのアソシエイトとして、行政組織・団体向けレポート作成業務に従事。大手通信会社系の戦略コンサルティング会社で人事を担当し、経営者視点を学んだのち2007年に独立。Office Suzuki Takae代表。2012年4月には法人化し「フィーノ株式会社」として新しいスタート。現在は北欧での経験をいかし、教育・福祉向けコンサルタントとしてデンマークの教育メソッドの普及に力を注いでいる。
フィーノ株式会社
HP: http://fino-inc.com/
FB: suzukitakae229
片岡 英彦
コミュニケーションプロデューサー
株式会社東京片岡英彦事務所 代表取締役
一般社団法人日本アドボカシー協会代表理事
世界の医療団(認定NPO法人)広報マネージャー

1970年東京生まれ。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者、宣伝プロデューサーを経て、2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャーに。後に、MTVジャパン広報部長、日本マクドナルドマーケティングPR部長、株式会社ミクシィのエグゼクティブプロデューサーを経て、2011年「片岡英彦事務所」を設立。2013年「株式会社東京片岡英彦事務所」代表取締役、「一般社団法人日本アドボカシー協会」代表理事に就任。企業のマーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加、フランス・パリに本部を持つ国際NGO「世界の医療団」の広報責任者を務める。
マガジンハウス/Webダカーポではインタビューコラム「片岡英彦のNGOな人々」を連載中。

株式会社東京片岡英彦事務所
HP: http://www.kataokahidehiko.com/
FB: kataokaoffice
谷本 有香
経済キャスター/ジャーナリスト
山一證券、Bloomberg TVで経済アンカーを務めたのち、米国MBA留学。その後は、日経CNBCで経済キャスターとして従事。CNBCでは女性初の経済コメンテーターに。英ブレア元首相、マイケル・サンデル教授の独占インタビューを含め、ハワード・シュルツスターバックス会長兼CEO、ノーベル経済学者ポール・クルーグマン教授、マイケル・ポーターハーバード大学教授、ジム・ロジャーズ氏など、世界の大物著名人たちへのインタビューは1000人を超える。自身が企画・構成・出演を担当した「ザ・経済闘論×日経ヴェリタス~漂流する円・戦略なきニッポンの行方~」は日経映像2010年度年間優秀賞を受賞、また、同じく企画・構成・出演を担当した「緊急スペシャル リーマン経営破たん」は日経CNBC社長賞を受賞。W.I.N.日本イベントでは非公式を含め初回より3回ともファシリテーターを務める。現在、北京大学EMBAコースに留学中

HP: http://www.yukatanimoto.com/
FB: yuka.tanimoto.50
2014年1月/衣装協力(谷本有香氏):GLAmaster/撮影協力:安廣 美雪(Take_)

2014/01/28


■ ADV(アドボカシー)な人々 #03

powerdby