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■ INNOVATION #08

超高齢化時代の『ニッポン』を支える仕事、作業療法士~先進国アメリカから見えてくるもの~vol.2

Karen Jacobs氏:その通りです。このテレヘルス技術を使うことによって、非常に効率的に作業療法のサービスを提供することが出来るんです。

今、通常の作業療法の提供と、テレヘルスを使った提供の成果を比べたしっかりとした論文が出てきています。同じ部屋で提供するのと、遠隔にて提供するのと全く同じであるということなのか、私たちはそれが正しいのか今確かめています。

リサーチのそのケースによると、テレ人間工学と呼ばれるコンピューター人間工学を使ってなされるサービスには、クライアントも大変満足しているようです。

そのことからも、私はこの分野に非常にポテンシャルがあると思っていますし、是非日本でも取り入れてほしいと思っています。

谷本氏:是非、日本でも使ってほしいです。それは日本の現在の状況を考えても、大変効率的、効果的だと思います。

Karen Jacobs氏:WFOT(World Federation of Occupational Therapists)、世界作業療法士連盟では、ちょうど今横浜で国際会議が開催されていますが(2014.6月開催)、世界のWFOTのメンバーに向けて、ちょうどテレヘルスの政策方針が提出されたところなんです。この提言書は日本の作業療法士にとってのカタリストになるに違いありません。

谷本氏:そうでしょうね。楽しみです。 ところで話は変わるのですが、日本におけるリハビリテーションの認知・理解というのは、恐らく非常に古いもののままのような気がするんですよね。

つまり、リハビリはただ筋肉を動かすこととか、マッサージすることなんだとか思っているような気がするんです。でも、全然違いますよね。
Karen Jacobs氏:勿論、違います。

谷本氏:その通りで、この認識の違いが誤解や、十分な利用や、その結果の効果の促進を阻んでいるような気がするんです。

Karen Jacobs氏:その問題はもっと多くのことを含んでいると思うんです。重ねて言うようですが、作業療法はクライアント中心にしなければいけません。恐らくこの問題は、ソーシャルメディアを使って解決していけると思います。

アメリカで、私たちはすでにソーシャルメディアをうまく利用しています。ソーシャルメディアは作業療法の価値を広く伝えることが出来る強力なツールになり得るはずです。

日本作業療法士協会も学問的にこれらを取り入れていくべきです。生徒たちはデジタルネイティブですし、技術を使うことに慣れているはずです。統一キャンペーンなども効果的だと思います。

谷本氏:アメリカでの参考事例はありますか

Karen Jacobs氏:私はかねてからかなり思っていたのですが、ここ日本では子供たちは皆、ランドセルを持っていますよね。地下鉄で見た時、それはとても重そうに見えました。

アメリカでは、National School Backpack Awareness Dayと呼ばれる作業療法士協会が始めた運動があるんです。これは子供たちの健康を維持させるための構想で、小冊子や、ソーシャルメディア、ビデオ、沢山のものをつかってメッセージを届けているんです。

「pack it right, wear it light(正しく詰めて、軽く持とう)」というもので、いかに正しいバックパックを選ぶかということを伝えるメッセージです。日本でもこのような取り組みをしてみれば、作業療法士の認知も高まるかもしれませんね
谷本氏:それはいいアイディアですね。日本の作業療法士協会も何かするべきかもしれませんね。

Karen Jacobs氏:既に日本の作業療法士協会も色々なことをされていると思います。しかし、もっとコラボレーションする必要があるのではないでしょうか。

例えば、作業療法士ではない方たち、あなたのようなメディアの方たちを巻き込み、課題に取り組んでいければいいのではないでしょうか。

谷本氏:高齢者に関してはいかがですか?ご存じのとおり、日本は急速に高齢化が進んでいます。私たちにとって今後、もっと作業療法士の方の協力が必要になると思っているのですが、実際、このような社会において、どのようなアプローチがなされるべきなのでしょう。

Karen Jacobs氏:そうですね、高齢者向けには、勿論、根拠に基づいた論文などから方法を取り入れながら、それを難しい科学的な言語から、簡単なわかりやすい言葉に直していくことがまず必要で、それを例えば、テレビやラジオ、ソーシャルメディアなどを使って公にメッセージしていくことだと思うんです。

カナダの作業療法士協会はとてもいいマーケティングストラテジーを使っているんですよ。 それはショートストーリーを用いるもので、例えば写真を片手にもった老人が言うんです。

「作業療法の後、私は孫を抱けるようになりました」。他にも「作業療法の後、再びお箸を使えるようになりました」「作業療法の後、髪をとかせるようになったんです」。そしてこれらの短い言葉をそえた写真の後に、「是非お問い合わせ下さい」と。

それは消費者にとってとても強いメッセージになりますし、これを見た多くの患者さんやクライアントさん、そしてご家族を私たちが助けられることに繋がると思います。 こういったメッセージは高齢化が進むに日本でも効果的なのではないでしょうか。

谷本氏:それは強力なメッセージになるでしょうね。 さて、カレンさんに是非伺いたいのですが、患者さんやクライアントさん、そしてそのご家族に向けて、どのように作業療法士さんと向き合えばいいのか、どう協力していけばいいのか、アドバイスはありますか

Karen Jacobs氏:重要なことは、作業療法士に頼り切らないという姿勢ではないでしょうか。

勿論、彼らは知識や技術を持っているかもしれません。しかし一番リハビリテーションの中で必要なのは、作業療法士でもない、理学療法士でもない、心理士でもない、クライアントさん自身なのです。すべてはクライアントさんにあるのです。

ですので、クライアントさんがいかに声をあげられるようにするか、意見を言えるようにサポートしていくことが大切だと思います。
谷本氏:では、最期に、作業療法士として、夢を聞かせて下さい。

Karen Jacobs氏:一つ目の夢、一般的かもしれませんが、それは、作業療法をもっと家庭の中に持ち込みたいという事です。

みんながその存在を知って、誰でも使える状態にすることで、益々人々のニーズに応えることが出来ると思っています。また、作業療法士が政府の中でももっと強力な位置づけになるのをぜひ見てみたいです。

アメリカで、保健福祉省長官にいつか作業療法士の人がなること、また、上院議員に作業療法士の人が現れること。

一人、ニューヨーク州の上院議員で作業療法士の人がいますが、もっと多くの作業療法士が政治的な分野に進出して行くことが必要だと思うのです。

例えば、健康やリハビリ、教育などについての決定を下さなければいけない時のテーブルに作業療法士がいるということが理想なんです。

もう一つの夢は、生徒たちに教育を与える際に自信も与えていくこと、またクライアントに対しても一人の人間として関係を保っていくこと。アメリカではそれが出来ていると思っています。

話を聞くところ、日本では作業療法士はそれほど親しみやすい存在であるわけでもないようです。私たちは作業療法士として、クライアントたちにこう言える存在でいなければいけないと思うのです。

「私たちはあなたたちに仕えるためにここにいるんです。どうしていきたいですか?何が必要ですか?私たちに協力させて下さい」と。こういう関係であるのが非常に重要だと思うのです。

谷本氏:カレンさん、日本人の作業療法士にも教授頂く機会があったら嬉しいです。

Karen Jacobs氏:私もバーチャルに教えられるよう、何人かの教授たちにオファーしました。 私の強みとしてマーケティングとどのように作業療法や人間工学、そしてテレヘルスを推進するかということにおいて日本でもお役に立てるかもしれません。

谷本氏:ありがとうございました。
Dr. カレン・ジェイコブス
元全米作業療法士協会会長
ボストン大学 作業療法学部 臨床学教授
作業療法プログラム
On-line Post-professional
博士課程ディレクター
 
1973年 ワシントン大学 心理学 学士号。1997年 ボストン大学 作業療法学修士号。1993年 マサチューセッツ大学 ローウェル校。Educational Leadership in Schooling 教育学博士号。カレン・ジェイコブス氏は、アメリカにおける作業療法の認知向上や、様々な重要 なプログラムの実施に携わってきた。2011年、ジェイコブス氏は作業療法士という職業に対してのリーダーシップや貢 献が認められ、Eleanor Clarke Slagle Lectureship Awardを受賞。 反いじめ運動として大成功した、アメリカやアイスランドで創設された、バックパッ ク認知イニシアチブの立役者である。また、ローカルケーブルテレビにおいて、作業療法の番組を作り、番組出演も果たし ている。 the Award of Merit from the Canadian Association of Occupational Therapists 他、複数の賞を受賞している。
HP: http://www.bu.edu/sargent/2011/04/22/karen-jacobs-award/
FB: karen.jacobs.35728
谷本 有香
経済キャスター
ジャーナリスト
 
山一證券、Bloomberg TVで経済アンカーを務めたのち、米国MBA留学。その後は、 日経CNBCで経済キャスターとして従事。CNBCでは女性初の経済コメンテーターに。英ブレア元首相、マイケル・サンデル教授の独占インタビューを含め、ハワード・ シュルツスターバックス会長兼CEO、ノーベル経済学者ポール・クルーグマン教授、 マイケル・ポーターハーバード大学教授、ジム・ロジャーズ氏など、世界の大物著名 人たちへのインタビューは1000人を超える。自身が企画・構成・出演を担当した「ザ・経済闘論×日経ヴェリタス~漂流する円・ 戦略なきニッポンの行方~」は日経映像2010年度年間優秀賞を受賞、また、同じ く企画・構成・出演を担当した「緊急スペシャル リーマン経営破たん」は日経CNBC 社長賞を受賞。 W.I.N.日本イベントでは非公式を含め初回より3回ともファシリテー ターを務める。2014年5月 北京大学外資企業EMBA 修了。現在、テレビ朝日「サンデースクランブル」ゲストコメンテーターとして出演中
HP: http://www.yukatanimoto.com/
FB: yuka.tanimoto.50
衣装協力(谷本有香氏):Otto, オットージャパン /撮影協力:竹内佑
取材協力:東京ウーマン/2014年10月
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2014/10/02


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