■ コンサルティング談 #04

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■ コンサルティング談 #04

中小企業診断士を盛り上げたい・広げたい

中小企業診断士を盛り上げたい・広げたい

第4回のゲスト・福島正人さんは、2013年の中小企業経営診断シンポジウムで中小企業診断協会会長賞を受賞された、大活躍中の中小企業診断士です。これまで、ほかの媒体でもあまりお話しされてこなかった独立までの経緯から、シンポジウムで発表された研究についてなど、幅広く語っていただきました。
籠の中の鳥が大空へ羽ばたくとき
平井:独立するまでの10年間は、銀行勤めだったんですね。

福島:融資の審査や外回りを担当していました。外回りで多くの経営者と会っていましたが、魅力的な方が多く、自分もいつかは経営者になりたいと思うようになりました。

平井:独立して 1人で仕事をするというよりも、経営者になりたいという思いのほうが強かったんですか。

福島:経営者になりたいと思うほうが先でした。銀行員としての知識もあるので、コンサルタントという選択肢も考えましたが、どちらかと言うと起業家になりたかったんです。

その当時、私は20代の銀行家、相手は50代くらいの創業社長でしたが、実にさまざまな話をしてくれて、「この人たち、本当にイキイキしているな」と、まるで大空を羽ばたいている鳥のように感じました。

平井:銀行に不満がおありだったのですか。

福島:会社への不満はそこまでなかったんですが、中のルールがきっちり決まっていて、自分を籠の中の鳥のようにも感じました。

また、当時の銀行は「貸し渋り」と言われ、営業担当として融資を実行したくても本部から NGが出るなど、サラリーマンゆえの板挟みのつらさを感じた時期は正直ありました。自分が納得のいかないことでもやらざるを得ない、サラリーマンのつらさですね。

平井:そうでしたか。でも、独立するかどうかはかなり悩まれたのでしょう。

福島:どんなに悩んでいても、結局はどこかで決断しなくてはいけない。そこで、東名高速に乗って 1人で富士山へ向かったんです。御殿場インターを降りてすぐに、富士山がとてもきれいに見える場所があるんですが、サラリーマンか独立起業か、どちらの道を行きたいんだろうと、そこで 1日考えました。

自宅や通勤電車の中で考えるのではダメだと思ったのは、大自然の雄大な富士山の前で考えれば、自分の心が洗われ、どちらの方向に向かいたいかが見えてくる気がしたからです。結果、富士山に勇気づけてもらって、「俺はやっぱり独立の道に進みたいんだ」と思い、決断しました。

ゲスト:福島正人氏
ビジネスプランを絞り出す日々
平井:とうとう会社を辞めましたね。

福島:まだ中小企業診断士資格を取得していなかったので、上司に「私は起業の道を歩みたいので辞めます」と言って、ひたすらビジネスプランを作る日々を過ごしていました。

平井:どんなプランを立てていたのですか。

福島:ラーメン屋、フランチャイズ、家具のレンタル業など、100個くらい立てましたよ。最後まで練りに練った案は、「おやき」の移動販売。

たまたま長野に遊びに行ったときに「おやき」を食べて、美味しいと感じ、これを東京でやったら、意外とランチタイムに売れるんじゃないかと思ったんです。価格だけでなく、具材も自宅で何パターンか試作しました。

平井:そこまでされていたのなら、本当に「おやき」の販売をしていたかもしれませんね。

福島:はい。そうやってビジネスプランを考えていたら、その年の12月に中小企業診断士2次試験に合格したんです。今度は、中小企業診断士で独立するのか、「おやき」の販売かで悩むことになりました。でも、どう考えても、中小企業診断士で独立するほうが簡単なんですよね。

「おやき」の移動販売であろうとラーメン屋であろうと、初期投資がかかる。銀行出身で、初期投資の負担や運転資金を回すつらさを知っていたので、中小企業診断士の独立は自宅開業でいいし、何もいらないので、やっぱり中小企業診断士にしよう、とそのまま独立したんです。

インタビュアー:平井彩子
チームプレーをしよう
平井:合同会社「夢をカナエル(以降、夢カナ)」を作ったきっかけは、どのような経緯だったのですか。

福島:中小企業診断士は、 1人ひとり実力のある人が多くいます。それなのに、私が独立した10年前は、中小企業診断士はまだまだマイナーな資格だったんです。それはなぜかと考えたときに、個人プレーの人が多いことに気づきました。

そこで、自分は個人プレーじゃなくてチームプレーがしたいと思い、仲間が 5人も10人も集まれば、 1人でできないこともできるんじゃないかという意識が強くあって、会社を作ろうと思いました。

平井:たしかに個人プレーの方が多いですね。

福島:自分より優秀な人が多いんだから、お互いに協力し合ってパスを出し合って仕事をしたら、中小企業診断士界も元気になるし、みんながハッピーになると思ったんです。お客様にしたって、僕だけがコンサルティングや研修をやるより、こんな先生がいるよ、と紹介してもらうほうがいいでしょうしね。

平井:それは、 1人で活動していて、個人の限界のようなものを感じられたのですか。

福島:銀行員時代はそれなりに仕事もこなしていて、お客様の信用も獲得していましたので、多少自信があったんです。だけど、いざプロの世界に入ったときに、まだまだ自分は三流だと感じました。高校野球で活躍した人が、プロ野球に行ったら 2軍でスタートするのと同じです。だったら、もっと連携協力し合ったほうがいいと思いました。

平井:9年続いているんですよね。「夢カナ」のプロコン養成マスターコースも多くの卒業生を輩出されて、素晴らしいですね。

福島:いまでも続いているのは、メンバーの人柄や人間性が大きいと思います。本当にメンバーには感謝しています。
独立10年で「中小企業診断協会会長賞」
平井:テレビに出演されたり、本を出されたりと、大活躍の10年でしたね。

福島:10年はあっという間でした。でも、独立したときにやりたいと思っていたことは全部できました。「おやき」以外は(笑)。好きなことをやっているだけですが、それも仲間、先輩、出版社、診断協会の方たちに恵まれたおかげです。

平井:2013年の中小企業経営診断シンポジウムでは、中小企業診断協会会長賞を受賞されました。おめでとうございます。独立して10年、素晴らしい成果ですよね。

福島:BasMos(バスモス)」という従業員特性調査ツールを作ったんです。中小企業診断士の若手からベテランまで共通で使えるツールを作りたい、と思ったのがきっかけです。

平井:たくさんのモニターも必要だったでしょうし、開発は大変だったのではないですか。

福島:はい。従業員満足度のツールを作ろうと思ったら、大量のデータを集める必要があって大変だったんですが、それを仲間がほとんど作ってくれたんです。最後はツール化するため、 Excelのマクロを使用して、これが一番苦労しました。

仲間と私の 2人でプログラムを書いたのですが、私はマクロは触ったこともなかったので、この「BasMos」のために覚えました。いま思うと、手づくりだったからこそ、誰にでも使えるツールになったんだと感じます。

平井:誰にでも使えるツールというのはありがたいですね。もう利用されている方もいるそうですね。

福島:東京・神奈川のほか、福島・長野・沖縄の中小企業診断士の方にもすでに使っていただいています。長野や沖縄には、私自身が出張してBasMos利用の説明会を開きました。

さまざまな地域の中小企業診断士とつながりができるのは、とても嬉しいですね。開発過程でも多くの中小企業診断士の協力をいただきましたし、「BasMos」を通じて横の連携が広がればいいと思います。

平井:このツールは、どんな中小企業診断士にとって便利なものですか。

福島:私が中小企業診断士になって間もない頃だったら、本当にほしかったツールですね。社会人基礎力と従業員満足度の診断結果をアウトプットでき、さらにそこから研修やコンサルティングにつなげることが可能です。若手や独立間もない中小企業診断士の方にはもちろんのこと、実務補習でも活用できると思います。

平井:中小企業診断士が利用する標準的なツールは、これまで見かけたことがなかったですね。

福島:ここで 1つ仕組みがうまく回り出したら、ほかの人がまた別のツールを作ってくれるんじゃないか、という期待もあるんです。作ろうと思えばできるはずです。中小企業診断士は、さまざまな経験をしている方が多いので、その知識や経験を活かして次のツールができると嬉しいですね。
今後やりたいこと
平井:まだまだやりたいことが、たくさんおありでしょう。

福島:新しい事業をやりたいですね。「おやき」もまだ頭の片隅にありますよ(笑)。正直に言うと、少しビジネスの世界に飽きてきたところがあって、文化・芸術に近いことをやりたいとも思っています。

脳みそがビジネス仕様になっていることに嫌気がさしてきている部分もあります。飲みに行っても、すぐに売上だの客単価だの考えてしまうようなところがあって。だから、バランスをとるために、ビジネスと少し違う分野も増やしたいという思いです。

平井:文化・芸術も、「おやき」もいいですね。幅広い方面で活躍する中小企業診断士が増えるって、楽しいことですね。

福島:そうなんです。中小企業診断士は幅広い分野で活躍できます。「夢カナ」プロコン養成マスターコースの卒業生には、農業レストランを開業した人もいます。枠にとらわれないで挑戦し、中小企業診断士が盛り上がって多くの人が喜ぶなら、それでいいと思います。

平井:そうですね。皆さん優秀ですから、さまざまなことをやる人が出てきて当然ですよね。

福島:中小企業診断士試験はインプットが多いので、勉強して覚えてインプットすることは得意なんです。でも、それを世の中に活かしていくアウトプットの部分が少ない。だから、「夢カナ」のプロコン養成マスターコースは、かなりアウトプット志向です。

勉強じゃなくて、実践が大事です。雑誌への執筆、オープンセミナーの開催など、全部自分で企画してやるようにする。結構苦労しますが、勉強になります。そうやって自信をつけていくことも大事だと思います。

平井:そうですね。こうやって実力をつけたうえで、何か面白いことをする人が、福島さんの周りから現れそうですね。楽しみにしています。
福島 正人
中小企業診断士
合同会社夢をカナエル代表社員
東京都中小企業診断士協会会員

1969年生まれ。10年間の銀行勤務を経て34歳で独立。テレビ出演、大学院講師、中小企業診断士専用オフィス運営など幅広く活動中。執筆も多く、『1か月であなたの人生が変わる!究極の質問(労働調査会)』は日本経済新聞ビジネス書ランキング4位(2012年7月22日付)。10年以上継続しているメールマガジン『夢をカナエル!ビジネスに役立つ52の法則』は、まぐまぐ(メルマガ発行サイト)で殿堂入りしている。

合同会社夢をカナエル
HP: http://yume.main.jp/
平井 彩子
中小企業診断士
平井彩子事務所 代表

独立系ソフトウエア開発会社でプロジェクトマネージャを担当。証券会社向け、ベンチャーキャピタル向けシステム等、金融機関向け業務システムの構築現場を数多く経験。2010年からは、中小企業向け経営改善をメインとするコンサルティング会社に勤務し、会計業務支援、資金繰り改善、事業計画策等を担当。2012 年平井彩子事務所を設立し、コンサルタントとして独立。人材育成を中心に、業務改善、システム構築支援など、現場が自分たちの力で実行する仕組みづくりから支援を行っている。
FB: saiko.hirai
2015年7月/撮影協力:わたなべりょう

2015/07/15


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