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将棋で育む親子コミュニケーション Vol.1

将棋で育む親子コミュニケーション

北尾 まどかさん
女流棋士
女流棋士の北尾まどかさんは将棋教室で将棋を教える傍ら、子供にもわかる将棋の入門編「どうぶつしょうぎ」の考案者でもあり、日本国内だけでなく世界各地で将棋の普及に努めています。北尾さんから見た「将棋の魅力」「ビジネスでの活かし方」「将棋脳」「どうぶつしょうぎ」についてお話を伺いました。
将棋は勝ったら100%自分の手柄、負けたらすべて自分の責任。その潔さが好き
片岡:将棋を始めたきっかけはなんですか?

北尾:子供の頃、父に色々なゲームを教わりました。トランプ、オセロ、百人一首…その中に将棋があって、ルールを教わったのが最初です。でも、将棋はちょっと難しすぎて、ルールはわかるけど好きになれずにいたんです。その後、高校生になって、学校で色々なゲームが流行りました。その時に将棋と再会して、これは面白いなと思い、どんどんはまって今に至ります。(笑)

片岡:将棋のどこが面白かったんですか?

北尾:うちの高校は内部進学者と外部から入ってくる生徒が半々くらいだったんです。それでコミュニケーションをとるのに、色々なゲームが流行ったんです。その中にたまたま将棋があり、久しぶりだけどやってみようかなと思ってやったら、負けたんです。悔しいじゃないですか。(笑)

私はもともと負けず嫌いなところがあり、ちょっとしてやられた感といいますか、それですごく奥が深いゲームなんだなと、子供の時にわからなかった「難しい面白さ」に惹かれました。

片岡:女の子ってピアノ、バイオリン、フルート、バレエ等、そっち系の習い事が多いですよね。

北尾:私も実は小さいころバイオリンとピアノを習っていました。父はバイオリンのプロにしたかったようです。4歳から14歳までずっと、一日2、3時間の練習で、結構なスパルタでした。中学ぐらいの時にやめたんですが、多分そのころのレッスンで集中力がついたのだと思います。

ただ、さほど音楽が性に合っていなかったというか、好きは好きなのですが、評価基準もバイオリンってフワーッとしていますよね。聴いた人が気に入ってくれたらいいけど、そうじゃなければあんまり評価されないというか。その辺の勝ち負けが分かりにくい、もやっとしたところがあんまり好きじゃなかったんです。

将棋は勝ったら100%自分の手柄です。負けたら全部自分の責任。運の要素がなく、勝ち負けがはっきりしています。その「潔さ」が好きで、これは私に合っていると思って、すぐにどっぷりとはまり、一生将棋を指していたい、と思うようになりました。
将棋のメソッドを作りたい
片岡:ピアノならバイエルのような指の動きを練習する教本がありますが、将棋の場合はどうやって練習するんですか?

北尾:例えば相手の王将を捕まえに行く部分に特化したパズルのような「詰将棋」を解いたり、プロの対局の棋譜を並べたり、戦法を詳しく書いた「定跡書」を読んだりテレビの対局を見ながら解説を聞くのが勉強になります。

でも実はピアノやバイオリンみたいな良い教則本がないんです。それぞれに特化した本はあっても、レベルごとに段階を踏んで学びやすくまとまっているものがない。

将棋の初心者本に載っているのは、駒の名前、動かし方、並べ方で、そのあとは急に棒銀戦法、囲い方、矢倉、中飛車等です。でもルールの説明から「棒銀」って、なんか一階から三階くらいまで離れている感じがして、そこまで一気に上がるのは難しいと思うんです。だからそこをもっと詳しく細分化して、きちんと習いやすくしたり教えやすくすれば、もっと将棋が広まるのではないかと思っています。今の時代こそ、そういったメソッドが必要だと思うので、これは自分のライフワークとして、いつか形にしたいと思っています。
「将棋脳」はビジネスにも通じる
片岡:私の世代は父親に習ったり、おじいちゃんと対戦したりと、対局の「実戦」を重ねていくうちに自然と指し手を覚えていきましたが、今ではiPadのアプリやDSでもできます。将棋の世界もデジタルの普及で変わってきましたか?

北尾:ずいぶんと変わってきています。家に将棋盤がなく、パソコンやスマホのアプリで覚えたという人が増えてきました。将棋はインターネットやパソコンと相性がいいです。ゲーム全般に言えるのですが、ネットを繋げばそこに対戦相手がいます。あるいは、コンピューターと対戦できます。画面上の駒は、触れば動かし方を色などで示してくれるので、覚えなくても始めることができます。遊びながら自然に覚えるツールができたのは大きいと思います。

だから、将棋教室に来て、駒の並べ方もよく覚えていないという子でも、指してみたら意外と強かったりするんです。昔は将棋を指す時の手つきで強さが分かったものです。でも今は、マウスやタッチパネルで慣れていて、リアルの駒を並べる手がぎこちなくても、頭自体は「将棋脳」になっている人は多くなっていますね。そういうところが全然違ってきていると思います。

片岡:「将棋脳」って、どういう脳ですか?

北尾:将棋を指すためには、普段と違った頭の使い方をして、凄く鍛えられます。例えば「先を読む」こと。自分がこうやったら相手はこうやってきて、その先はこうなると見通しを立てること。これはゲーム全般で必要な能力ですが、それが出来れば仕事などでも段取りを組む時など、先のことや周りとの兼ね合いをちゃんと考えて動けるようになるんじゃないかと思います。
将棋とは「先読み」と「決断」の繰り返し
片岡:北尾さんご自身が将棋から得た「チカラ」のようなものは何ですか?
北尾:私が将棋から得たものはとてもたくさんありますが、一番良かったなと思えるのは「決断する」ことです。将棋って「一手しか指せない」んです。例えば、最初の局面は選択肢が30通り。でも、その中の一手しか指せない。だからこそすごく大切に指します。ベターじゃなくてベストの選択をしたい。

やりたいことがたくさんあるけど、その中で優先順位をつけて、自分で理由を考えて決めて、それを実行していく。私は、将棋以外のところでもそういう効率を重視する癖がついていると思います。

あと「負けを認める」ということも大事です。将棋は1対1なので、同じ力量の相手とやっていれば5割は負けるわけです。その時に、なんで負けちゃったのかなって、振り返って自分の身に落としてみます。

もちろん実生活ではそれ以外のいろんな要素もあります。運の良さがあったり、チームのメンバーがミスしたり。でもその中で自分が今まで最善のことをやってこられたかをシビアに、俯瞰的に見られるようになります。

振り返って、そこでもうちょっとこうやっていたら結果が違ったんじゃないか、少なくとも自分のパートでもっとベストなことができたんじゃないかと考えたり、普段から考える。常に先のことを考えながら、一手一手選択していく。将棋は「先読み」と、「決断」の繰り返しです。

そして、結果が出たあとに「見返す」。将棋の場合は「感想戦」という文化があります。終わった後に一局並べかえして、お互い忌憚のない意見を述べ合うんです。ここが良かった、ここが悪かった、どう考えていた、そこの局面から変化があって、別の手を指していたらどうなっていたかということを2人で研究する、場合によっては他の人も加わったりもします。この反省がすごく大事なことなんです。

片岡:「マナー」「集中力」「先を読む」「決断する」「見返す」。いずれもそのままビジネスの成功にも通じますね。
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2016/01/29


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