■ コンサルティング談 #14

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■ コンサルティング談 #14

スタートアップの支援・IT活用の支援

スタートアップの支援・IT活用の支援

第14回のゲスト・大久保紀子さんは、 IT分野のご出身で、現在は創業支援から ITを軸にした業務の支援、システムエンジニアとしてもご活躍中です。 1次試験と 2次試験の間に出産し、育児休業中に中小企業診断士登録をするという貴重なご経験、そして現在の活動、今後の展望までを語っていただきました。
1次試験と 2次試験の間に出産
平井:中小企業診断士資格取得のきっかけは何でしょう。

大久保:ITの世界にいると、経験とともに上流工程に携わるようになります。そうすると、経営の中のシステムを意識せざるを得ないため、ITを活用してどのようにビジネスそのものを回していくかを考えます。そのときに経営の知識があると便利で、実感も入り、わかりやすくなると思ったため、勉強しようと思っていました。

また、提案するときに決算書や有価証券報告書なども見るため、しっかりと把握するための知識が必要でした。ちょうど育休で長期の休みをとれることになったため、中小企業診断士の勉強を始めたのが最初のきっかけです。

平井:育児をしながらの勉強は大変でしたね。

大久保:上の子どもが2008年、下の子どもが2011年生まれで、上の子どもの育休に入ったときに試験勉強を始めて、足かけ 4年かかりました。 1年目は育児を甘く見ていました。育児がこんなに大変で、24時間営業だということを理解していませんでしたね。試験が大変なのはわかっていたのですが。

平井:ご主人は勉強することに賛成でしたか。

大久保:応援してくれました。ただ、4年目の最後の試験のときだけは、再び 1次試験から受験しなければならなかったため、主人に確認しました。試験前は子育てに関して、特に主人の協力が必要になりますからね。

しかし、そうやってもう 1年チャレンジを決めた矢先に、 2人目を妊娠したんです。しかも、予定日は10月初旬。予定日どおりに生まれていたら、 2次試験は受けられませんでしたね。

そのため、結構ヒヤヒヤしながらの受験でしたが、子どもがいつ生まれるかはわからないため、なるようにしかなりません。生まれたら身動きがとれなくなることは 1人目の経験からわかっていたため、生まれる前に仕事も勉強も何とかしなければいけないと思っていました。産休に入るため、業務も引き継いでしまいますし、勉強する時間をとることはできました。

平井:会社の皆は産休だと思っているけれど、本人は違うということですね(笑)。

大久保:はい。勉強を始めてしまったため、もうできるところまでやるしかないという心境です。お腹に子どもを抱えていて、駄目でもともと、試験も申し込んで、時間をとれる限りがんばろうと思いました。そうしたら1次試験に受かってしまった。そして子どもが9月20日に生まれたんです。

1週間は動けないため、10月から再び試験勉強を始めて、2次試験に備えました。育休の間に実務補習も済ませてしまい、中小企業診断士は2012年4月登録で、同じく4月には会社に職場復帰しました。

平井:会社の人は驚きますよね。

大久保:復帰したときには中小企業診断士登録をしていましたからね。当時の上司は受験の事実は知っていましたが、まさか取得して帰ってくるとは思わなかったようです。

ゲスト:大久保 紀子氏
組織の変化に背中を押されて独立
大久保:育休から復帰後は、新規事業の立ち上げに携わっていました。BIツールを活用したデータ分析を提案してお客様を新規開拓し、データの整備をきっかけにデータベースの構築や基幹系システムの導入を狙う、というビジネスです。

しかし、軌道に乗せようとしていた矢先に、会社が外資系企業との合弁会社となってしまいます。1年くらいは動きもなかったのですが、突然、体制が変わって方針も変わり、軌道に乗りかけていた新規事業が中断されてしまいました。

さらに、望んでいなかったプロジェクトへの参画依頼も受けました。自分のやりたいこととも合致しなかったため、それなら独立しようと思い切ったのです。

平井:いつか独立したいという思いは、それまでもあったのですか。

大久保:ぼんやりとはありましたが、5年後くらいのイメージでした。でも、独立を決心したのがちょうど年度替わりの時期で、羽村市で創業支援コーディネーターとして仕事をすることができました。

その年の 8月には、専門家派遣で小笠原へ行きました。船で26時間、夏でも 1週間に 2便しかないため、忙しい中小企業診断士の方は調整が大変だと思います。独立したばかりでしたし、 ITの相談だったため、行くことにしたのですが、訪問中に台風が来てしまい、帰れなくなってしまいました。

6日間の予定に 1日追加する程度と思っていましたが、結果的に10日滞在することになるなど、貴重な経験をしました。

平井:なかなか行けない場所での貴重な体験ですね。創業に関しては、ご自身も創業塾に通われていたそうですね。

大久保:はい。いくつかの創業塾に生徒として出席していました。いま、私は創業塾の卒業生という立場で創業者と話をすることが多いです。

そこでは社長同士の会合のような感じで、同じ目線で話をすることができるため、皆さんの困りごとや悩みごとをリアルに聞くことができます。

そういった意味で、創業塾に参加して良かったと思っています。講師の立場で支援するのとは、違う視点を得ることができました。立ち位置が違うと聞ける情報も変わってくるのが面白いですよね。

インタビュアー:平井彩子
女性の創業支援への思い
平井:なぜ創業支援に携わろうと思ったのですか。

大久保:以前から、女性を支援することが視野にありました。女性はさまざまな要因で働くのに苦労している方がいらっしゃいます。

男性化して企業で働かなくても、起業して自分のスタンスで働く選択肢があっても良いですよね。赤字にならなければ構わないくらいの感覚で始めることについても、私はありだと思っています。それでその人の人生が豊かになるのであれば、良いですよね。

ちゃんとビジネスにしましょう、しっかり儲けましょう、という考え方もありますが、私はその人に合わせたビジネスのあり方なら良いと思っているんです。

平井:一家を背負うのでなければ構いませんね。

大久保:女性はわりと自分の趣味の延長線上で、それが人のためになって、お金も入るのであれば嬉しいという感覚で始めるため、ガツガツと稼ぐ感覚があまりないんですよね。

その人が、どのくらいの売上や利益を将来的に望むのか、一家を背負うくらいにまでもっていきたいのか、こじんまりと子どもたちが学校に通っている間だけやりたいのか、その辺の落としどころをまず聞くことです。

それでも、聞いてみると志がしっかりしている女性は多いです。「私はこういうのが得意だから、起業したい」と芯がしっかりしているんです。

ただ、やりたいことがはっきりしていても、お金に変えていくところが弱い場合も多いため、そこを工夫しなければならないのが、女性の創業時の支援のポイントになると思いますね。
現在の事業展開
平井:現在は、どのような仕事が中心ですか。

大久保:創業支援とITに関する専門家派遣、加えて以前の会社でやっていたデータ分析に関連したシステムエンジニアの仕事をしています。また、Wixや Jimdoを利用して、ホームページの作り方を教えることもしています。

皆さん、ホームページを作っていても更新していないことが多いです。本業が忙しいのは良いことなのですが、それだとなかなかページを更新していけませんので、チャットで質問が可能な状態にしておいて、オンラインでのご支援もしています。

平井:独立して 1年で法人化とは、素晴らしいですね。

大久保:2016年の3月に株式会社を作りました。株式会社を設立してみたかったと言ったら、動機が不純と言われてしまいそうですが、一度は全部自分でやってみようと思い、設立しました。

社会保険の手続きも自分で行いましたが、さすがに給与と税金関係でギブアップしてしまい、いまは税理士の方に手伝っていただいています。

法人化するといろいろ制約もありますが、退職金を全部資本金にスライドしたため、運転資金としてこのお金がなくなるまでは給与生活ができると思うと、少し心に余裕ができました。

平井:今後、取り組みたいことはどのようなことでしょう。

大久保:新しいWebサービスがたくさん出てきているため、便利なものは中小企業の皆さんにどんどん紹介していきたいと思っています。

ホームページのWixやJimdoもそうですが、チラシ1つをとっても、MS Wordで作るよりMS PowerPointで作ったほうがレイアウトしやすい、とか、MS Office製品がなくてもラベル屋さんというソフトがある、など、便利な小ネタは提供していきたいですね。知っているだけでも、全然違います。

また、POSレジ関係でタブレットを活用したレジ周りのアプリもたくさん出ていますので、そのあたりの活用方法や、会計クラウド、顧客管理やサポート、マーケティング自動化などのツールも勉強してみたいです。新しいサービスはやってみなければわかりませんからね。
独立して1年、これまでとこれから
平井:1年が経過し、ご自身の独立のイメージと比較していかがですか。

大久保:本当に人の縁が大事だと気づきます。創業支援もそうですし、サイトの制作支援もシステムの仕事も人の縁ですね。

平井:それは、会社員時代よりも感じるようになりましたか。

大久保:はい。会社員時代は井の中の蛙だったと思います。社内調整がうまくいったり、数字をうまくアピールできたりすれば、どうにかなりました。

その中で社外の人と話ができる人は重宝されるでしょうが、会社という枠組みの中での外とのつながりと、独立してからのつながりでは格段に違います。

私自身、企業内診断士として、研究会にたくさん顔を出していた時期がありますが、何となく独立の人たちとは世界観が違うのかもしれない、と思っていました。そういった意味でマインドが変わりました。

平井:さまざまなところから直接仕事をいただくようになって、気持ちも変わりますよね。

大久保:最近、商工会からも直接お声がかかるようになりました。指名でご依頼をいただけるようになると、昨年一生懸命やっていたことがようやく実になってきたと嬉しく思います。「ITの話をするんだったら大久保さん」と言っていただけました。仕事につながるご縁は、特に大事にしたいと思います。

平井:1年間の実績が実っているようで、一番変化を感じられた1年ですね。

大久保:怒涛の1年でしたね。個人事業を立ち上げて、株式会社まで作りました。現在、下の子どもが6歳です。

会社員時代のほうが、子どもの相手をしていた気がします。独立すると家に帰っても仕事ができてしまうため、際限がない。けじめをつけようと思って、自宅近くに事務所を借りましたが、歩いて15分で帰れるのを良いことに、遅くまでいることもあるんですよね。

平井:家にいるよりもはかどるという気持ちはわかります。

大久保:ただ、1年が経過して、本来、いまやらなければならないものは何か、とは考えています。子どもと過ごす時間をもう少し増やしたい思いはありますので、仕事と家庭のバランスを考えなければなりませんね。

平井:1年目はどうしてもがむしゃらに仕事をしてしまいますしね。

大久保:今後の課題は、家庭と仕事のバランスです。ある程度の収入は確保できるようになってきたので、あとは本当にやりたいことが何か、やらなければならないことは何かということです。これからも常に走りながら考えていきたいと思います。
大久保 紀子
中小企業診断士
ITコーディネーター、PMP
プラス・ユー・ビジネスサポート 代表
株式会社プラス・ユー 代表取締役

大阪大学大学院基礎工学研究科物理系専攻生物工学分野修了。機械メーカー、ITベンチャー、商社系 SI企業を経て、 2015年起業。システムエンジニアの経験を活かし、データ分析、Webマーケティング、クラウド活用といった IT分野を中心とした経営のコンサルティングを行う。創業支援や、ビジネスモデル作成などの相談も行っている。東京都羽村市創業支援コーディネーター。東京都商工会連合会エキスパートバンク登録専門家。

プラス・ユー・ビジネスサポート
https://www.plusyou.biz/

株式会社プラス・ユー
https://www.plusyou.co.jp/
FB:plusyou.inc
平井 彩子
中小企業診断士
平井彩子事務所 代表

独立系ソフトウエア開発会社でプロジェクトマネージャを担当。証券会社向け、ベンチャーキャピタル向けシステム等、金融機関向け業務システムの構築現場を数多く経験。2010年からは、中小企業向け経営改善をメインとするコンサルティング会社に勤務し、会計業務支援、資金繰り改善、事業計画策等を担当。2012 年平井彩子事務所を設立し、コンサルタントとして独立。人材育成を中心に、業務改善、システム構築支援など、現場が自分たちの力で実行する仕組みづくりから支援を行っている。
FB: saiko.hirai
2017年10月/撮影協力:わたなべりょう

2017/10/9


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