■ コンサルティング談 #15

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■ コンサルティング談 #15

仕事に勉強に趣味に “人生はこれから”

仕事に勉強に趣味に “人生はこれから”

第15回のゲスト・井原美恵さんは、中小企業診断士資格の取得により、働き方に大きな変化をもたらしました。中小企業診断士登録を見越して独立され、海外での長期滞在案件を行いながらも、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(EMBA)へ通って MBA取得を目指すという大変に勉強熱心な方でもあります。今回は、仕事、家庭、趣味と多岐にわたり語っていただきました。
中小企業診断士を志すまでの足取り
平井:キャリアのスタートはソニーですね。

井原:ソニー本社の中にある予約制ショールームでアテンダントをしていました。経営陣のお客様に歴史商品、現行商品、そして未来商品の説明を行っており、結婚を契機に退職しました。

当時25歳でしたから、もう少し働きたいと思い直し、外資系の信用調査会社ダンアンドブラッドストリートの日本法人に転職しました。世界中の海外企業調査で利用されている「ダンレポート」の会社です。

一見、バリバリと働いているように思われがちですが、家庭に主軸を置きたかったので、キャリアアップは強く望まないスタンスでした。とはいえ、任されると頑張ってしまう性分でもあり、信用調査補助、海外オフィスからの調査レポート質問窓口、データベース管理など、さまざまな業務を経験しました。

12年間勤務して辞めた後、1年ほど専業主婦をしていたのですが、働くことの楽しさが懐かしくなり、シティバンクで働くことになりました。しかし、業務が多忙でワーク・ライフ・バランスを取るのが難しいと感じることが多くなり、5年後に退職しました。そのうちにまた、新しいことに挑戦したくなったのです。

平井:それが中小企業診断士だったのですね。

井原:どこかに所属していると、自分ではコントロールできないことがたくさんありますよね。それだったら何か資格を取って、自分で仕事ができれば、仕事と家庭のバランスが取れるのではないかと思ったのです。

2次試験に2回失敗した後、1次試験をやり直すかどうか悩みましたが、コンサルタントとしての勉強も必要と気持ちを切り替え、日本生産性本部の養成課程で半年間学び、中小企業診断士登録をしました。

ゲスト:井原 美恵氏
独立とともに海外の仕事
井原:2014年10月の中小企業診断士登録からすぐに海外の仕事が続いてしまいました。ワーク・ライフ・バランスを取るために中小企業診断士資格取得を目指したのに、家を空けて海外に行くことには迷いがありましたが、せっかくお声を掛けていただいた仕事ですから、期待に応えられるよう努めました。

平井:素晴らしいですね。海外はどのような案件で訪問されたのですか。

井原:シンガポールでは、サービス産業の労働力不足解消のため、生産性向上に役立つ日本製の機械を調査するという内容でした。アラブ首長国連邦アブダビ首長国では、現地の女性起業家育成支援事業でワークショップの副講師を務めました。

その後、ベトナムのホーチミンで経営コンサルタント養成講座の講師、ハノイでは従業員満足度・職場環境改善プロジェクトにおいて現地コンサルタント養成講座の講師を務め、2016年は延べ日数で3ヵ月ほどベトナムに滞在しました。

平井:独立されるときに海外の仕事をしたいと決めていらしたのですか。

井原:実は、私はイタリアが大好きで、20回ほど旅行に行っています。将来、旅行ではなく仕事で行きたいと強い思いを持っていて、「いつか仕事でイタリアをはじめ、海外のさまざまな国々に行けるようになりたい」と、事あるごとに言っていました。

それを覚えていた方が「こんな海外業務の募集があるよ」と声を掛けてくださって、海外案件に携わるきっかけができました。口に出しているといいことがあるのだなと思いますね。

平井:仕事で海外に行ってみたいという一言が、長期滞在のハードな仕事につながりましたね。

井原:そうなのです。今まで訪問したことのないさまざまな国々に行くのは勉強になりますね。自分の思っていたイメージと文化や経済発展のスピードが異なっていることなどがわかり、大変おもしろいです。

今年念願かなってイタリアに仕事で行くことができたので、やっぱり口に出していて良かったなと思いました。

平井:国内ではどのようなことをされていますか。

井原:マーケティング戦略立案、経営改善計画など、製造業から飲食業までさまざまな業種に携わっています。また、労働や観光についての調査業務にも携わっているところです。

インタビュアー:平井 彩子
知識の補充と仕事への貢献
平井:2016年4月からは大学院に通われているそうですね。

井原:ホーチミンで経営コンサルタント養成講座を実施したときのことです。お互いにコミュニケーションを取るために、英語で受講できること、また、経営の知識があると授業を理解しやすいので、MBAを持っていることというレベルで受講者を募集したところ、優秀な人が集まりました。

そのため、私のほうが大きな刺激を受けてしまいました。中小企業診断士資格を持っていることで、今ここで教えてはいるけれど、異国の彼らから見れば「中小企業診断士って何?」という状態です。これは見える形で学び直さなければと思い、2016年4月から大学院に通い始めました。

平井:勉強熱心ですね。

井原:そもそも私は、1回目の中小企業診断士 1次試験で経済学が40点未満だったことがきっかけで、慶應義塾大学の通信教育課程に入学して経済学を勉強しました。経済学は不得意科目ではなかったのに結果が出なかったことから、勉強の仕方を変える必要があると考えてのチャレンジでした。

そして、経済学部の卒業式の待ち時間に偶然、その年の4月から慶應ビジネススクール(KBS)に週末を中心に学ぶエグゼクティブMBA(EMBA)プログラムが新設されることを知り、チャレンジしてみることにしたのです。

今までKBSで学びたいと思ったことは何度かありましたが、平日はびっしりと授業があるため、せっかく中小企業診断士になったばかりの自分が2年間働けなくなるのは無理だと諦めていました。しかし、EMBAなら「週末のプログラムなので通える!」と心躍るようでした。私の学年が2期生となります。

平井:KBSのEMBAでは何を勉強されているのですか。

井原:先生から教えていただくというよりも、ケースをもとにクラスの皆で討議することがメインです。1年生は、科目としては経営戦略や財務、生産政策など、中小企業診断士の勉強と似たものが中心です。

おもしろい科目として海外フィールドがありまして、1回目はケニアのナイロビに行きました。対象国の動向に関する事前学習をしっかりやって新規事業の計画を立てた後、実際に現地を訪れて事業可能性の検証をします。現地の大学で講義を受けたり、企業を訪問したりと、海外での貴重な体験と学びがあります。

2017年3月の2回目にはメキシコへ、そして8月には1年生の授業に参加させていただく形でラオスに行きました。

平井:仕事と勉強の両立が大変ではありませんか。

井原:難しいなと思っている部分もあります。しかし、今まで趣味で読んでいた書籍の内容や学びたいと思っていたものを全部業務に反映できるのは、とてもうれしいです。中小企業診断士はなんて素晴らしい職業なのだろうと思っています。そういう意味では、学んだことは、全部お客様に還元できると思っています。

KBSのEMBAは、大学を卒業し、職務経歴が通算15年相当以上であることが入学条件です。企業派遣でいらしている方は、さらに東証一部上場企業およびこれに準ずる企業・団体から派遣される者という基準があり、要職についている方も多いです。

それなのに、皆さん同じようにとても忙しい中でも時間を作って、きちんと予習をしてから授業に参加されているので、私も頑張らなければと思っています。
家庭と仕事と趣味と
平井:イタリア、キックボクシング、ドライブ、旅行に料理に……。多趣味で、何について伺うか悩むほどですね。

井原:趣味として比較的長くかかわっているのは、料理の世界ですね。料理教室はさまざまなところに通いました。すべて、見て食べるデモンストレーション形式の教室です。

また、フードコーディネータースクールに通っていた経緯で、テレビ番組の制作の裏側で料理を作ったりしたこともあります。

さらには、10年以上通っている料理教室の先生が出版された和食料理の書籍の制作にも携わりました。書籍の撮影用にたくさんの料理を作るお手伝いをさせていただき、とても貴重な経験でした。

旅行も、今までの経験に新たな知識のインプットを重ねた甲斐があり、観光関係の調査の仕事に繋がっています。

平井:家庭と仕事と趣味の3つを、これだけバランスよく成立させている人はなかなかいませんよね。

井原:いいえ、全然バランスが取れていないなと本当に思います。難しいですよね。

平井:どのようなバランスだったら理想でしょうか。

井原:今は、家で遅い時間にも仕事をしていたりするので、メリハリを持たせたいですね。時間を決めてこの時間は仕事しないとか、家にいてもこの場所にいるときはしないとか、そういう切替えができるといいなと思っています。四六時中仕事のことを考えてしまって、家事をしていても集中できない気がするときがあります。

平井:でも、常にあるべき姿を追求されているような印象があります。

井原:そういう意味でいうと、先ほど趣味で読んでいる書籍や学んだことが全部お客様に還元できるのがうれしいと話しましたが、これと同じで、全部ブレンドされて一緒になっていることが、私にとってうれしいという感覚なのかもしれません。

無理してバランスを取るのではなく、混ぜて一緒にしてしまう。まさにワーク・ライフ・インテグレーションですね。
深いイタリア愛
平井:さて、イタリアは、どのようなところが好きなのでしょうか。

井原:歴史的建造物や食べ物、ファッションから好きになりました。イタリアでは、外側は歴史ある建物なのに、中に入ると一転して個性的で、しかも最先端の生活をしている。

古いものを大切にしながらも新しいものを取り入れて、自分たちの生き方を大切にしているスタイルが素敵な国だと思っています。すっかりイタリアにはまりまして、気がついたら20回ほど行っていました。

また、こんなにイタリアが好きなのだから現地の人と話せるようになりたいと思い、イタリア語学校に3年ほど通っていたこともあります。イタリア女性のお宅で開催される料理教室にも通いました。これも、見て食べておしゃべりするという教室でした。

平井:またしても勉強熱心ですね。ちなみにイタリアではどのような仕事をしたいとお考えですか。

井原:現在は、イタリアの中小企業の日本市場進出のお手伝いをしていますが、将来的には、私の出身地である会津若松や会津地方の名産品をイタリアに持って行きたいと思っています。たとえば、日本酒はイタリア人にも評判が良いのです。
“人生これから”と思わせてくれた中小企業診断士資格
平井:ご家族も井原さんのご活躍を喜ばれているでしょうね。

井原:そうですね。会津若松に住む母もとても喜んでいますね。東京によく遊びに来るので、そのときに、「この前、こういう仕事をしたよ」とホームページに掲載されている写真を見せると、本当にうれしそうにしています。娘が頑張っているのが伝わるようです。昔は想像もしなかったのではないでしょうか。

平井:独立して働くとは、若いころには思っていませんよね。

井原:思っていないですね。もし、私が企業で働いている間に資格を取得していたら、守られた環境を捨ててまで独立するか悩んだと思います。

独立を決めるときは、その道しかないと自分で思い込むようにできている気がします。勉強している間にもう一度企業で働こうかなという気持ちが起きたことも何度かありましたが、そのときは行動に移さなかったわけですからね。

平井:そうですね。独立して3年の現在は、知識の獲得という意味で勉強したいという欲求もあるし、仕事としての経験を早く積みたいという思いもあって、葛藤もおありなのではないでしょうか。

井原:そうですね。その気持ちの中でずっと混沌としています。大学院が終わるまでの2年間は、まだ学びの時期だと思ってはいますが、駆け出しだからこそいただけるお仕事もあるので、お断りするのも忍びなくて難しいです。それでも、貪欲に学んで仕事をし、楽しんでいきたいですね。1日は24時間しかありませんから。

平井:前向きで良いですね。

井原:探求欲が永遠に上昇し続けている気がします(笑)。2017年1月で50歳になりましたが、気持ちは若いですね。人生はこれからだと思っています。

10代のころは、30歳になったら落ち着いた私でいるべきと思っていましたが、実際その年齢になってみると全然違うな、ということはたくさんありますね。

私は、さまざまなことを走りながらやってきましたが、“人生これから”と思えるのは、中小企業診断士を取得したからだと思います。世界が広がったような感じですね。
井原 美恵
中小企業診断士
Bellaコンサルティング株式会社 代表取締役

2014年10月中小企業診断士登録。 Bellaコンサルティング株式会社代表取締役。日本生産性本部認定経営コンサルタント、株式会社ライブリッツ・アンド・カンパニー パートナーコンサルタント、株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツコンサルタント。福島県会津若松市出身。ソニー企業株式会社、ダンアンドブラッドストリートジャパン株式会社、シティバンク銀行株式会社を経て、 2014年 3月に独立。財務、マーケティング、データ分析を得意とし、国内では経営改善計画策定支援、海外では現地人材育成、調査に従事している。シンガポール、アラブ首長国連邦アブダビ首長国、ベトナムにて活動実績多数。東京都中小企業診断士協会中央支部国際部副部長。

Bellaコンサルティング株式会社
HP: http://bella-consulting.co.jp/
平井 彩子
中小企業診断士
平井彩子事務所 代表

独立系ソフトウエア開発会社でプロジェクトマネージャを担当。証券会社向け、ベンチャーキャピタル向けシステム等、金融機関向け業務システムの構築現場を数多く経験。2010年からは、中小企業向け経営改善をメインとするコンサルティング会社に勤務し、会計業務支援、資金繰り改善、事業計画策等を担当。2012 年平井彩子事務所を設立し、コンサルタントとして独立。人材育成を中心に、業務改善、システム構築支援など、現場が自分たちの力で実行する仕組みづくりから支援を行っている。
FB: saiko.hirai
2017年10月/撮影協力:わたなべりょう

2017/10/23


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