■ BRANDING #09

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■ BRANDING #09

老舗ブランド企業としてのブランドパーソナリティ vol.3

―――御社にとってオリンピックとは
北野氏: オリンピックは最も注目度の高いイベントですから、マーケティングの一環として活用させていただいています。商品の優位性、それを裏づけるパフォーマンスや記録によってミズノブランドの良さを知っていただく、ミズノのブランドイメージを理解していただくといった位置づけです。
―――アスリート専用であったりプロユースであったりの「専門的な技術と商品」をアピールされることが主旨になりますか
北野氏: もちろん一番大きいのは選手の活躍ですが、1秒や1mで争っているところではそれを補完するものとして、モノの良さによって差がつく部分は非常にあると思います。そこを研究開発することで我々の技術も上がりますし、1秒でも1mでも実際に記録を出して頂くことによって我々の「技術の高さ」を広く知っていただけるという場になります。
―――「ミズノのウェアを着た選手が金メダルを取る」という場面を一般の方に見ていただくことによって消費行動に繋げたいといったことでしょうか?それともコーポレートブランドの訴求が中心になりますか?
北野氏: もちろん商品そのものもありますが、すぐに商売に繋がることではありませんので、延いては先々の消費行動を導いてくれるだろうと考えています。どちらかというと、コーポレートブランドを浸透させるという意味合いが強いですね。
―――コーポレートブランドの浸透を一般のユーザー市場に落とし込むためにどんな戦略をされていますか?
北野氏: いくつかのプロ野球球団やプロサッカーチームや、マラソン大会などのサポートをしていますし、また年間数百回いろんなスポーツ選手を集めてミズノクリニックというのを行っています。

当然そこではミズノのロゴを目にしていただきますから、良い選手に商品を使ってもらって良いイメージを持っていただき、そこから購買に繋げたいという大きな役割りもありますが、スポーツ用品のブランド企業として、スポーツそのものを広めていくと共にミズノを理解してただくプロモーションとして活動しています。
―――現在御社のCMはどちらかというと、プロダクトブランドに特化したものが多いかと思うのですが。
陶山氏: CMで出しておられるロゴは「m」のモノグラムマークですか?

北野氏: 「ミズノ・ランバード」です。

陶山氏: そうするとたとえば「ランバード」というプロダクトブランド的なものと、品種・種目を問わずでてくる「Mizuno」と両方ということはやはり、コーポレートブランドのロゴは残しておられるんですね。

北野氏: 現在は「ミズノ・ランバード」で統一しています。

陶山氏: ランバードマークだけというのもあるんですか?

北野氏: 「Mizuno」というワードマークだけというのは数年前まではありましたが、現在は「ミズノ・ランバード」で統一しています。

陶山氏:欧米の消費者の場合、プロダクトブランドが基本的にきちんとされていればと良しとする消費者の判断能力もありますが、日本人の消費者は比較的、コーポレートブランドやコーポレートイメージを重視すると言われています。御社の場合、コーポレートブランドによるアンブレラの機能というのはそれほど重要されていない?

北野氏: 1980年に「Mizuno」というCIを導入しまして、それからずっとコーポレートブランドを出してきましたが、途中からプロダクトのマークを「ミズノ・ランバード」というマークに統一しています。今後は日本も海外も、コーポレートとプロダクトを同じロゴで訴求していくことになります。

ナイキの場合、あのスウォッシュ (Swoosh)マークをみてナイキと読む人もいるほど認知されていますが、ミズノの鳥のマーク「MRB」(ミズノランバード)を見て、ミズノと呼んでくれる人がまだまだ少ないので、今のところは「Mizuno」というワードマークも残していますが、できれば徐々に「MRB」だけにしていきたい。その時点では「Mizuno」というワードマークはなくなってくるでしょうね。
―――有名な選手が着用した商品を購入したいお客様は、機能的であるということに刺激を受けるのでしょうか?それともあの選手が着ているあの商品が欲しいという憧れであったり、それを着用することでレベルアップしたような気がするということなんでしょうか
北野氏: たぶんイメージのほう強いでしょうね。かっこいい、あんなふうになりたいというイメージが実際の購買に繋がっていくんだと思います。選手と自分との能力の差がありますから、すぐには機能性というところは判らないと思いますし、それがすぐに自分の結果には繋がらないかと思いますが、やはり憧れということが先だと思います。

陶山氏: すぐれた製品を連想するコーポレートのイメージが、お客様にとって憧れの対象と同時に、あまり高すぎるとだめなんですね。身近でありながら、自分たちも買ったり使用することでレベルアップできるんじゃないかとか、それを使ってる選手やタレントといった対象に1歩でも2歩でも近づけるんじゃないかとか、あるいは価値観を共有できるとか。その距離感の取り方を上手く見せる必要があります。

イチローはストイックで憧れている対象ではなるけれど、ちょっと自分たちと違いすぎるんじゃないかと思ってしまうと逆効果になる。もちろんクオリティも高く技術的に優れていることには違いはないんですが。

北野氏: 一番有名なのがナイキのエアジョーダンですよね。ジョーダンを見て自分とは実力的に相当違うと思うのでしょうけど、「かっこいい」というイメージで商品が売れたかと思います。
―――そのエアジョーダンが売れた時代は「スニーカー世代」と呼ばれたように、スポーツ選手が身につけているものに、みな憧れて買われたと思いますが、今の若い世代の感覚は少し違ってきていて、アスリートには憧れるけど自分たちとは違うことはもう解っているような気がします。高機能な商品は世の中にはたくさんありますし、今はもう安いモノでもあまり悪いものはないですね。そこにはいつも陶山先生の仰る「プラスアルファ」を消費者は望んでいると思いますが。
北野氏: 確かにこれからは機能だけでなく、「買いたくなる」といった情緒的なものも当然求められると思います。ただ我々のスタンスとしては。やはり「きちんとした良いもの」を作ることがまず先だと思っています。

そこに安心して買っていただくとか、買って間違いがないとか、持っていることに喜びを感じるとか、使って満足していただけるとか、そういった部分を情緒と言えば我々も提供できるかと思っています。従って取り立てて何か加えるといった、あまり性に合わない、取って付けたようなことはするつもりはないです。

陶山氏:ブランドの付加価値で見ると、ミズノのクラフトマンシップやテクノロジー、クオリティというものはプロダクトそのものか、あるいはそれを支えるバックグラウンドということになるんですが。

北野氏: もちろん、それだけではだめだと思っています。そこに「文化」といったものや「情緒さ」を付け加えていかなければいけないとは思いますが。

陶山氏:サッカーのなでしこジャパンの活躍を見て、みんなワクワク胸躍るといった感動の要素はスポーツにはたくさんあるんですね。

ナイキやアディダスと同じになる必要はないと思いますし、ファッションではなくベーシックで確かなものに支えられ、裏づけられた喜びや感動をお届けするという情緒的な要素やエモーショナルな盛り上がりを提供する、まさにそれが王道だとアピールするようなコミュニケーションをされていくことで、イメージがもっと伝わりやすくなると思います。

北野氏: 仰る通りですね。結局オリンピックで何に感動するかというと、選手が限界に挑戦して乗り越えたか、または乗り越えようと努力している姿に感動するんですね。

我々も、ものづくりの中で少しでも限界を乗り越えようと努力する、もしくは努力した結果を商品としてお届けしていますから、そこでお客様が期待していた以上のパフォーマンスを商品が示してくれることによって感動していただける。やはりそこを求めていくことが我々の本来の在り方なのかなと。

陶山氏:インナーブランディングといった、ブランドに対する社内のコミュニケーション、社員の皆さんの思いやモチベーションはどのように考えておられますか?

北野氏: 規模やモノを追いかけるというよりは、もっとユニークな企業でありたいと思っています。ただ売上を上げるだけなら他にやり方があるでしょうが、常にウチはウチ。あくまでも良いものを作ってお届けする。もともと創業者が言った言葉に「ええもん作りなはれや」とありますので、それを連綿と今だに続いていて、そこに我々はこだわっています。それが不器用なのか、洗練されていないのかはわかりませんが、それが私たちの軸であると考えています。

陶山氏:「ええもん作りなはれや」それがミズノの企業文化なんでしょうね。「ええもん」というのは、ややどちらかというと、良いものを創りさえすれば理解して買っていただけるといったような気もしますが。

北野氏: ええ、必ずしも良いものを創りさえすれば、ということではないかもしれませんんね。昔は品質機能が良ければ「良いもの」ということだったんですが、今はもっと幅を広げて、「お客様に受け入れられるもの」というところまで考えなければならないと思います。かといって、あまり広げてしまうのはどうかとも思いますが。
―――ブランド戦略について御社の考え方について
北野氏: ブランド力というのは企業力だと思います。どれが弱くてもやはりブランドとしてマイナスが出てくる。あまりブランドに関連した議論には出てこないかもしれませんが、人づくりをどうするか。マーケティングと人材、ブランドと人材、グローバル化と人材といった切り口も重要になるんじゃないかと思うんですね。

陶山氏:ブランドは企業にとって価値があると同時に、お客様や株主など、あらゆるステークホルダーにとって持続可能な成長のためのベースになり価値のあるものになります。

また、ブランドはヒト・モノ・カネ・情報に継ぐ第五の資産だと言われますが、仰るように人づくりがブランドの中に集約され具体化されていけば企業の大きなパワーになってくると思います。

ブランド視点からロイヤルティを持ち、モチベーションを持ちながら自己実現できるグローバルな人材をどう確保し、成長させていくかということは、大きなテーマでもあります。

北野氏: 企業内にはいろんな機能がありますが、どれか一つ低い機能があれば、会社の実力はそのレベルになってしまうと思います。そういう意味では全てを上げていかないといけない。人もモノもある程度のレベルに達しておかないとダメだと考えています。

究極は「人」になりますから、そこをどれだけ強くするか。ブランドを強くするというのは、やはり最後は「誰がやっているのか」で決まると思うんですね。「組織が」というより、「誰が」とうことのほうが大きい。それをどう見つけて、どう育成するかがすごく大事なんです。

陶山氏:ブランドマネージャー制を取り入れている企業でも、結局ブランドをどう守り育てていけるかというマネージャーの資質にかかっているところはありますね。

北野氏: 我々もマーケティングディレクター制をとって、その人毎に通知簿のような評価をしていますが、やはり「誰がやっているか」によって、そのブランドや商品が伸びたり伸びなかったりという要素は大きいですね。

陶山氏:企業ミッションとは、先達から受け継いだブランドに磨きをかけて大きく育て上げて、どう次に繋げるかということになります。ブランドというものは、あらゆるものを飲み込む、包摂するような概念でありしくみですから、その中で「人材」というのは非常に大きな要素かと思います。
北野 周三
ミズノ株式会社
常務取締役

1948年生まれ。1971年ミズノ㈱入社。人事総務部門を経て、86年TQC推進室マネジャー、89年生産統括室長、95年総合企画室部長、98年人事総務部長を歴任。2000年取締役に就任し、人事総務、法務、CSR、中国含むアジア・オセアニア、生産、品質管理を担当。92年香港ミズノ、94年上海美津濃を設立以来20年間にわたって中国を担当。

ミズノ株式会社
HP: http://www.mizuno.jp/
陶山 計介
関西大学商学部教授

1950年 岡山県生まれ。京都大学大学院経済学研究科 博士後期課程単位取得。博士(経済学)。研究分野:ブランド・マーケティング。常に現場に目を据え、トヨタ、リクルート、JH、ハウス食品、イズミヤ、大阪府等多数の企業、各種団体の幹部研修も行い、産学交流を推進している。 文科省、経産省等の専門委員や大阪ブランドコミッティ・プロデューサー等、学外活動多数。英国エジンバラ大学マネジメントスクール 客員教授(2002年)
[学会・研究会活動] 日本商業学会前会長/日本広告学会元理事/日本広報学会元理事/一般社団法人 ブランド戦略研究所理事長

[主な著書・訳書] 『ブランド・エクイティ戦略』(共訳 ダイヤモンド社 1994年)/『ブランド優位の戦略』(共訳 ダイヤモンド社 1997年)/『バリュースペース戦略』(共訳 ダイヤモンド社 2004年)/『マーケティング戦略と需給斉合』(中央経済社 1993年)/『日本型ブランド優位戦略』(共訳 ダイヤモンド社 2000年)/『マーケティング・ネットワーク論』(共編著 有斐閣 2002年)/『大阪ブランド・ルネッサンス』(共著 ミネルヴァ書房 2006年)等

関西大学 陶山研究室
http://www2.itc.kansai-u.ac.jp/~suyama/

一般社団法人 ブランド戦略研究所
http://www.brand-si.com/
取材協力:一般社団法人 ブランド戦略研究所/取材:山部 香織/撮影:菅野 勝男/取材:2012年11月
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