■ INNOVATION #03

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■ INNOVATION #03

女性の為のグローバル・リーダーシップ&ダイバーシティー vol.2

―――日本におけるダイバーシティの現状について、谷本有香さんのお考えを教えていただけますか?
谷本氏:統計資料などの参照データからのお話ではないのですが、私はさまざまな上場企業のトップの方にダイバーシティに関するインタビューをする機会が多く、そういった現場の肌感覚からお話したいと思います。

ダイバーシティの中でも、特にジェンダーに関してはかなり潮目が変わってきていると感じています。むしろ今年はダイバーシティ元年と言えるかもしれません。多くの経営者の方々がダイバーシティを経営課題だと認識されています。

とはいえ、トップの本気度によって、どのくらい具体的なアクションに落とし込めるかが成否を分けるわけですが、具体的なアクションに落とし込めている企業は少ないようです。

それはトップの本気度も関係するかと思いますが、各企業の経過と結果を見ていると、例えば企業が置かれるさまざまな経営環境において、優先すべき事項が変わることに起因するようです。ダイバーシティが最優先課題として、同じプライオリティで維持されないようです。

特にダイバーシティに限らず、ある意味、四半期決算による弊害といえるでしょうか。短期で成果があがるもののみが優先され、例えば15年とか20年先に利益を生むような事柄には着手できない。

女性を大抜擢しても、成果や利益は四半期では難しいのではないでしょうか。そういった短期志向に陥っているということも考えられます。

ただ一方、中小企業の場合、ダイバーシティ云々ではなくとも、女性が非常に活躍している会社も多いです。シニア世代の活躍もよく聞かれますね。

もう一点、安倍政権から「育児休暇を3年に」というメッセージが打ち出されていますが、3年が適切なのか、そういったルールにすることが適切なのか、現場の感覚とは少し異なるようにも感じます。

特に東京では、子供を保育園に預けることができず、現場復帰ができない、仕事ができないという女性が数多くいます。政府も企業も、各々ができることをやり、人任せにしないという取り組みに期待したいと思います。
―――初回からWINにファシリテーターとして参加されていらっしゃいますが、ヨーロッパのこの団体と比較し、日本に期待できる点や足りない点があれば教えてくださいますか?
谷本氏:WINの運営に参加する以前、女性活用の団体を作ったり応援したりしていましたが、WINは画期的な存在だと思っています。

というのは、日本では自分以外にロールモデルがあまり存在せず、横の繋がりによってお互いの状況を分かつことで精いっぱいで、より具体的な施策に落とし込めていないと感じているからです。

一方ヨーロッパのWINは、実際に成功している人々が数多く参加されているので、参加者は当たり前に、女性が女性らしく、自分らしく仕事をして良いんだと、背中を押してもらえるように感じるのではないかと思います。つまりポジティブになれる。そこから私たちが目指す道が見えてきますし、勇気づけられるのではないかと思います。

ただ一方で課題もあるように感じます。ヨーロッパと日本が置かれている環境の歴然とした差。違いです。特に文化の違いもありますが、ヨーロッパのダイバーシティは日本より10年も20年も前から取り組んでいますし、外資系企業は、男性女性に関係なく能力に応じて活躍できる場所が用意されています。

一方、日本では、女性が男性と同じように社会で働くということは、ある意味スーパーウーマンになれということです。男性と同じように長時間働いて戦って、育児は自分の睡眠時間を削って、という旧来型で昭和的なロールモデルがまだ多く残っているように感じます。

もちろん、それができる女性がいて、道を切り開いてきてくれたともいえますが、多くの女性にとっては現実的ではないですし、21世紀型でないように思います。

日本の文化や制度向けにローカライゼーションが必要ですから、何が必要なのかをインスパイアしてくれるとても貴重な団体だと思います。
―――有香さんもキャリアを積み、育児と両立しながら仕事も意義を感じながら続けていらっしゃいますから、日本女性が目指すロールモデルといえますね。有香さんご自身は、日本女性としてどのように感じていらっしゃいますか?また今後の活動の方向性を教えていただけますか。
谷本氏:もう少し日本人は「素に戻る」というか、自然体に仕事ができる環境を求めても良いのではないかと感じています。がちがちの「スーパーウーマン」というロールモデルを目指している人はそんなに多くないと思います。

実際、東大出身の女性にも、「専業主婦になりたい」という人が数多くいることに驚かされます。これはまだ日本では旧来的なロールモデルが跋扈していて、それに対する反動でしょうか。スーパーウーマンにはなれない(なりたくない)から専業主婦、という対比のように感じます。中間のロールモデルがいないのですね。

これまでの数多くの女性の取締役や経営者にインタビューしてきた経験から感じるのは、実はスーパーウーマンはいないんです。ほとんどの方が、ご自身の親と同居したり、近くに住んでいなければ、育児と仕事を両立できないか、或いは出産されていないかのどちらかでした。

実際に「時短制度をとれば昇進できない」という暗黙のルールが存在する企業もあります。私自身も不妊治療に苦労しましたし、ベビーシッターの費用の高さにも驚きます。機会がある毎にそうした現実を伝えようとしています。

ロールモデルの方々からも是非、「役員の業務と育児を両立するために、親と同居しています」といった現実の声を挙げていただきたいですね。

というのは、ロールモデルの方々を見て、「私も彼女のようになりたい」と思っても現実は厳しくて、「私はスーパーウーマンにはなれない」「私は能力がないのだ」と傷ついたり、キャリアを断念する女性たちがいるのはとても残念なことですから。

今後も日本女性のキャリアやダイバーシティの現状をジャーナリストとして詳らかにしていきたいですね。そしてもっと多くの女性に、自然体で普通に仕事も育児もできる環境が準備されるよう、ジャーナリストとして仕事を続けていきたいと思っています。
クリスティン・エンヴィック
社会起業家
 
W.I.N.(Women's International Networking) 創設者。1997年、ミラノで初のW.I.Nを創設したクリスティン・エングヴィッグ(ノルウェー国籍)は、ソーシャル・アンタプラナー(社会起業家)として常に独創的な発想を携え、ヨーロッパ各主要都市に於いて年一回毎年10月「国際会議」を開催、2012年は世界各国から約1,000人に上る参加者を集めてローマに於いて「15周年記念国際会議」の開催を祝う。女性としての特性を活かしながら社会活動に参画すると言う自らのビジョンを実践し続けるクリスティン氏は、W.I.N. 国際会議を通して様々な分野で活躍する世界中の女性達に素晴らしい「気付き」や「刺激」、そして計り知れない「自己改革」の機会をもたらしている。W.I.N.は「妻」「母」「働く女性」と言う三役をこなしながら社会で活躍する女性を含め、キャリアを目指す女性達を対象に開催されるグローバル.・リーダーシップ国際会議。クリスティン氏は、W.I.N. 国際会議のパイオニアであり、現在「女性の為のリーダーシップ・ダイバーシティー(多様性)セミナー」の金字塔として広く世界に知られている。「フォーブス2012リスト・オブ・ザ・ワールズ150モースト・パワフル・ウーメン(Forbes 2012 List of The World's 150 Most Powerful Women)」にノミネートされている。

W.I.N.
HP: http://www.winconference.net/
谷本 有香
経済キャスター
ジャーナリスト
 
山一證券、Bloomberg TVで経済アンカーを務めたのち、米国MBA留学。その後は、日経CNBCで経済キャスターとして従事。CNBCでは女性初の経済コメンテーターに。英ブレア元首相、マイケル・サンデル教授の独占インタビューを含め、世界の大物著名人たちへのインタビューは1000人を超える。W.I.N.日本イベントでは非公式を含め初回より3回ともファシリテーターを務める

HP: http://www.yukatanimoto.com
取材:児玉 圭子/通訳:賀陽 輝代/2013年5月
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2013/05/27


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