■ ADV(アドボカシー)な人々 #16

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スマホとSNS時代という新しい時代の子育てNo.1

スマートフォンの急速な普及が、通信事業のみならず世界経済を一変させつつある。国民全体がICT(Information and Communication Technology)に触れる機会が増大し、子供から高齢者までが、そのメリットを享受する一方で、情報モラルや情報セキュリティなど、国民全体の情報リテラシーの向上が求められている。

以前から懇意にして頂いている、教育ICT、情報モラル教育分野のスペシャリストであり、内閣府「青少年インターネット利用環境整備・普及啓発検討会議」委員長の桑崎剛さんに情報モラル教育の最前線についてお話を伺った。(聞き手として、子供向けオンライン英会話事業を展開する、株式会社ハグカムの道村弥生社長にも加わってもらった。)

◆情報モラル教育をライフワークに

片岡:教育ICT(Information and Communication Technology)をやろうと思ったきっかけはなんですか?

桑崎:私の教員人生自体がICTと共に歩んできたというところがあります。もともとメカニックなシステムや機械が大好きな一方で、理科系大学に行きながら、実は人にもすごく関心がありました。ある時から学校でパソコンを使うことになりましたが、私の専門は数学なので、数学で何か使えないかなあと考えました。例えば関数かくようなアプリ、グラフを回してみる、あるいは図形を切断してみる、あるいは立体図形を転回してみる等には使えるなと思っていました。
2000年を超えてからは、ITではなくICTと言われるようになり、IT機器がコミュニケーションツールとなると考えました。そんな折に「ガイヤの夜明け」というテレビ番組に出演し、子供たちのネットの扱い方について取り組んでいたことを紹介する機会がありました。それから情報モラル教育が自分のライフワークかなと思うようになりました。

桑崎 剛

◆アナログの勉強がさらに大事だということを見直す

片岡:スマホに関して言えば、良くも悪くも子どもたちの間では使うことが当たり前になってきています。「スマホの賢い使わせ方」が課題になってきていますね。

桑崎:2010年より前は、バイクと同じようにもう「使わせるな」「所持させるな」という世の中の雰囲気が強くありました。今でもそういう雰囲気の地域はあります。全国的にもかなり温度差があります。ただ、将来自動車の免許をとらないという子どもは多分一定の割合でいるんですが、モバイル機器、ネット機器をプライベートなり仕事で使わずに済むということは多分あり得ないですね。トラブルを起こさずに賢く使うためにはどうすればいいかというのをやっと教育機関では取り組み始めたところなんです。
また、実態として高校生はスマホの所持率が急速に広まったという現実があります。結局連絡手段として使わざるを得ない状況です。部活の連絡や友達同士の連絡。あるいはスマホで勉強するという時代を迎えています。その中で、スマホの賢い使わせ方については教師も子供たちもまだまだ模索しているところです。
例えば、某社が行っている月額980円でコンテンツ取り放題、あれを学校の正規の課外授業で取り入れているところもあります。なにがいいかというと、学校で勉強していて時間がきたら続きは家で、というのができるんですね。学校でやるためには、タブレットやパソコン等の機器整備が必要ですが、生徒が持っているスマホを使えばそこを考えずに済みます。スマホをBYOD (Bring your own device)といいますけども、生徒が持っているモバイル機器を使って勉強に利用するという、そんな新たな時代が来ていると思います。実はこれも教材が生きるためにはチューターと呼ばれるアドバイザーが当然必要なのですが、学校で勉強するときには先生がいるので、十分チューター代わりになるということですね。
動画教材のメリットは、例えばわからない時はストップボタンを押してそこでゆっくり考えてみたりリプレイができることです。実際の授業で「先生聞いてませんでしたので、もう1回」なんて言えませんが、それが何回もリプレイできる。微積がわからないから高1の因数分解のところに戻るということも平気でできる。実際の授業じゃこれ無理ですもんね。そういうところに動画教材の良さがあるんです。ただこれの難しいところは、普通の授業を録画しておけば教材になるかというと、ならないんですね。録画してテロップを入れたりちゃんと教材に編集し直さなければいけないんです。
質問のポイントである「賢い使わせ方」ですが、これについては教師も子供たちもまだまだ発展途上。どういう使い方が賢いのかというのを今模索しているところです、教師が教師、あるいは大人が大人というわけでもない。むしろ子供のほうがスキルアップできるんですね。
例えば先日高知のある学校に行った時の話です。「君たちが海岸線でなんか貝殻を見つけたとする。ひょっとしたら化石かもって思ったら、どうやって調べる?」と聞いたら、昔の子だったら、「それを持って図書館に行って調べます」という話になるんですけど、すぐにある子が「写真に写す」と答えました。写真に撮ってどうするって聞いたら、そのあとはちょっとイマイチで、「友達に送って詳しいやつに調べてもらう」と。「いやいやいや、そんなことしなくてももっと賢い方法あるぞ」と言ったら別の子が「その写真をgoogleの画像検索入れれば出てくるかもしれない」と。
実はこういう話って大人に聞いても、写真を撮るという発想は出てこないんですよ。むしろ子供のほうが発想が豊かなんですね。
また、これは小学生の例ですが、牛乳パックから、トイレットペーパーが作れるということはわかっています。「何個分あれば1個のトイレットペーパーになるか?」という質問に対して、ネットでどう検索すればいいか。答えは6個なんですけど、「牛乳パック」と「トイレットペーパー」だけで検索したら、山のように検索結果はヒットしてしまいます。しかし数分で6個が探せた子に聞いたら、「再利用という言葉も入れればいい」と。
検索の仕方一つも、実は小学生でも発想豊かな大人以上の検索、目からうろこの検索ってあるんですよね。これが「再利用」の問題だと気づくということは、ネットが詳しいとか、ITの技術とはなんら関係がありません。この問題で一番大事なキーワードは、『再利用、リサイクルだって気づく』ということ。社会の出来事に関心があってニュースを読んでいると、そういうことが肥やしになります。上手にITを使うためには、きちんとしたアナログの勉強が大事だと見直すのが、今ネット社会が行うべきことかなと思います。

◆ICTの問題点と解決の糸口

片岡:現在、旬で課題となっているICTの問題は何でしょうか。

桑崎:社会現象として、ネットいじめは継続的にあります。また、ネット依存については国立病院機構久里浜病院が、全国のネット依存の子供たちの外来を治療してますが、パンクするくらい患者さんが来院します。でも実はここで対応してる子も数百人くらいの世界で、全体的に見ると多くの中高生は、比較的ネットのスキルが上がってきてます。あと、持ち始め年齢で一番課題の多いのが小学校高学年です。これもスマホではなくて、ゲーム機によるトラブルが多発しています。
また、関係者で話題になっているのは、「幼児スマホ問題」ですね。0歳児から使わせるなど、この2年くらいで環境は激変しています。赤ちゃんの「ガラガラ」は今やスマホですし、「鬼から電話」という、子供を躾けてくれる、叱ってくれるようなアプリがすごく使われている。今の幼稚園、保育園の親御さんたちは35から40ぐらいの世代なんですけど、これが悩ましい世代で、20歳の時ぐらいが2000年。日本のネット社会とともに青春期を歩んできた人たちなんです。
今みたいに情報モラル教育も小中高でのこういう取り組みもしてなかった時代ですので、残念ながらちょうど世代的に情報モラルの教育を受けることなく親の世代になった。そして今スマホ・タブレットが手元にあるという現状です。
彼らも「スマホで子育てはできない」、というのはわかっているのです。でも、一概に「見せるな」みたいな極論だと保護者も受け入れられない。先に挙げたようなコンテンツも含めてスマホの使用には中毒性があるんですね。だから外出中に、早く帰宅してビデオが見たいから子供がキーキー言い出すとか、タブレットを早く渡せと言う等の問題も生じているのです。
一方、中高生の場合は、成熟度が上がっており、高校生は高校生なりに、中学生は中学生なりに自分たちで考えさせて自主ルールを作ろうという取り組みが広まっています。子供たちに考えさせるというのは、すごく教育成果が高いです。「守ろう」という意識が出てくる。それが「守れるルール」を作る。一方的に親とか学校が指示したルールというのは、Your ruleであってMy ruleじゃないという意識があるんですね。
だから、家庭でもネット機器、モバイル機器を与える時には家庭でちゃんとルールを考えませんかと、学校は学校で生徒会と一緒に自主ルールを考えませんかと、あるいは地域でルールを考えませんかというのが一つの流れ、新しい方向性になっています。東京都教育委員会などはとかく問題が多く発生するSNSに関して、「SNS東京ルール」を発表した矢先です。ただこういったことは、うまくいっている地域と、すぐ形骸化してそうでないところがあります。形骸化するところのやり方を見ていると、やはり熟成度が低いんです。一方的に関係者が作って押し付けているパターンが多い。もともとのコンセプトがしっかりしていないと続きません。

道村:ルール決定がうまくいったケースはありますか。

桑崎:熊本にある江南中という中学校はうまくいっているケースです。もともとはLINEで生徒間のコミュニケーショントラブルがありました。それに対して学年主任の先生が生徒の背中を押して、生徒会で考えてみたら、とアドバイスしました。それにここは苦労してルールを作っています。まずは生徒会の執行部が原案を作り、去年の5月の総会に出しました。ところが反対論者がいて却下されました。そのあとどうしたかというと、じゃあこの原案のどこに課題があるというのを全クラスで討議させたんですよ。パブリックコメントです。ということは、その段階で全校生徒がこの問題について議論に参加しているから、やはり自分がそれを本当に守れるのかというのを考えるようになる。で、各クラスで出た意見を集約して去年の7月に臨時生徒議会を開いて「SNSの利用は10時まで」というのが学校のルールになりました。ところが、11月くらいに文化祭があり、そこで10時が、それがどのくらい守られているかというのを調査したところ7割ぐらいしか守られていなかったんです。
守られなかったのはそれなりに理由がありました。「親しい友達が明日の宿題とか持ちものとか分からなくて問い合わせてきた。気づいたら無視できない」って。「10時のルールを守るか、友情を守るか」どちらかというそのはざまに立たされるわけです。それこそコミュニケーション、そこが大事だということになります。大人が考えるほど一概にはいかないんですね。
それと、高校に行った先輩から問い合わせがあったら無視できないというのも大きな理由でした。こちらは上下関係ですね。
そんな経緯もあり今年の4月、5月の生徒議会で10時以降は「極力」使わないに変更されたそうです。国の法律も運用するためにはある程度そういう柔軟性が必要で、イレギュラーが必ずいろいろ発生するので、そこは運用上の妙技というか、うまくいくためのひとつかもしれませんね。この学校は全員の生徒で討議しているので、大きなネットトラブルはやっぱりなくなっているそうです。生徒に議論させたことは非常に効果が高いと思いますね。

道村:自主性がすごく大事ですね。

◆ICT教育の良い影響は?

道村:いわゆる知育みたいな観点のアプリケーションや、動画でも勉強っぽいもの等がありますが、それが今までのように絵本ではなく、スマホを使うという形で教育に入れられたことによって、子供に対する良い影響はあるとお考えですか。

桑崎:鹿児島県のつるみね保育園の例ですが、園児を集めることに苦労していた保育園が、園児が集まる有名な保育園になりました。ここでは9割のアナログ教育と1割のICT教育を標榜しているんです。ipadが園長先生の1台だけで、1週間に1回、1時間しか使わないですけど、それがすごく活きてるんですよね。
やっていることはコミュニケーションとプレゼンテーション能力。iMovieを使って子供が映してきた映像にコメントをつけて、週に1回順番にプレゼンをさせるんです。例えば養豚農家の子供は家の豚を撮ってきて「うちで豚を養っていまーす。」という風に。

道村:自分の好きなことを自分で話すんですね。

桑崎:「豚かわいいです」とか「うちの豚は鹿児島黒豚だから黒いんです。」という感じです。すると他の園児が「豚って臭くないですか」と聞く。それに対して「臭いです。でもかわいいです」とか、本当にそのレベルのプレゼンで、小学校中高学年のレベルなんですけど、園児でもやれるんですね。

道村:コミュニケーションツールとして使っているということですね。

桑崎:他にも「うちのおじいちゃんこんな人ですごく面白いんです」と言っておじいちゃん映してきて、実際のおじいちゃんもその場に登場してみたり、山形の保育園と結んで鹿児島側は半袖で、山形は雪が残っているのを映して、「日本ってこんなに広いんだよ」とか。

片岡:アナログでできることをオンラインでやるのではなく、オンラインでしかできないことをオンラインで最小限やっているということですか?

桑崎:そうです。しかも9割のアナログを大事にしているという。

道村:デジタルが1割入ることによって、いわゆる新しいスキルみたいに子供たちに養われる。その保育園は、コンセプトとしては何を養っているんでしょう。いわゆる学力とかではないですね。

桑崎:直接的ではないですが、学力の下支えになっている力を育てていると思いますね。園長の杉本先生が、今は小学校3年生となった元卒業生の園児のお母さんから、「先生の保育園に通わせたのでうちの子の好奇心スイッチは今もONのままです」というようなメールをよくいただくとおっしゃっていました。これって勉強というのは「勉強させる」のではなくて、「勉強のスイッチをどう入れてやるか」なんですよね。
ところが、ICTを導入するとか使うとかが目的の授業や取り組みは、概ね良くないし、評価されないし、成果があがらないんですね。

道村:発展したICT系のサービス、いわゆる人工知能とかAIなどのタブレットが出てくるほど、先生の存在意義とはなんだろうとか、チューターみたいな立ち位置でいいのか、昔でいう、「教育者=聖職者」みたいな部分がどんどん削られているのかなという気もしますが、その点についてどう思われますか?

桑崎:本質的なことはやはり機械じゃ無理だと思うんです。イノベーション自体は人間が考えないとだめなので、そのための補助ツールとしてICTはあり得るとは思うけど、機械自体がイノベーションを考えるということは、時代がどんなに進んでも難しいのではないかと個人的には思っています。だから素晴らしい教師というのは、子どもに応じて的確なアドバイスをするとか、その場をわきまえるとか、子供たちがまとまっているクラスというのは実にいい話していますもんね。担任が。

道村:やっぱり先生の力ですよね。そこは。

桑崎:クラスを盛り上げるとか、チームワーク、結束力、ぎすぎすしたクラスになるのか、すごい思いやりのあるクラスになるというのはやっぱり教師の力。どんな学校でも同じようなトラブル起こると思うんですよ。やんちゃ坊主もいるし思いやりのない子もいるし。でもやっぱりそこの叱り方とかですね。言い方とかですね。
講演に訪問した高知の久礼小学校で4年生の情報モラルの授業をゲストティーチャーで見せてもらったんですが、この先生の授業、とても上手だなあと思って感心しました。授業が始まってもランドセルを横に置いていた子がひとりいて、他の子は全部後ろのロッカーにちゃんと置いてたんですよね。そしたらその先生、頭ごなしに叱らないで「授業が始まったのに、まだランドセル置いている人がいまーす、誰だろう?」みたいな感じで問いかけます。その子が「先生すみません」と言うと、「先生がプリント配るのが早いか、あなたがランドセル片付けるのが早いか競争しよう、はい、3,2,1!」みたいな感じで。するとその子もパパパッと置きに行ったんです。だけど、「あなたのランドセルだけ反対方向向いてる、かわいそうですランドセルが」、と言い、またその子が入れ直しに行く。
何ていうかな・・・雰囲気が実にいい。叱り方ってすごく大事です。その子は多分すぐには改善できないかもしれないけど、頭の片隅には、ちゃんと鞄を片付けるという意識が残ります。そういうのがやっぱりクラスの雰囲気となっていく。それは頭ごなしにガミガミ叱る方法もありますよ。でも反発心しか持たないですもんね。
こういうことはICTでは絶対できないです。自分のことを認めてくれる、評価してくれる先生を好きになりますよね。ないがしろにする先生はやっぱり好きにならない。

道村:先生と生徒と親は、子供の成長に寄与する三角関係だと思いますが、どのような位置関係がベストな三角関係だと思いますか?

桑崎:子育てを共に担っている共同教育者。親は家庭という立場で、教師は学校というフィールドで、共にその子の成長を支援しているという、そんなスタイルですね。
例えばパイロットと副操縦士がいて、どんな関係かというと、機長が絶対的な権限をもちます。その飛行機に関しては。じゃあ副操縦士は従うかというと、実は従っていない。協同運航者なんです。主と従じゃないんですよね。
ある知り合いのパイロットによると、二人の関係というのは傾きが着陸と離陸の角度と一緒。つまり通常3度、その程度の違いしかないそうです。副操縦士の方がきちんとした的確な情報持っていることもあるし、判断している可能性もある。その場合にはきちんと相談しあえる関係じゃないとダメなんだと。学校においても、校長と教頭がそうだし、親と学校もその程度が理想的なのではないかと思います。

 

 


 

 

 

2015/12/18


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