■ BRANDING #05

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■ BRANDING #05

ブランドパーソナリティから見る次世代のマーケティング・リサーチ vol.2

経営トップが知るべきリサーチの事実
陶山氏: 無意識の行動の中には潜在的なニーズ、消費者自身が気がついていないことがあります。製品やブランドを提供する企業側が、こういうものがあれば生活がよりハッピーになれるというバリューやベネフィットを中心に据えた、ライフスタイル提案型の商品開発をしなければいけないということですね。

それには消費者の行動に寄り添って観察しながら、消費者自らが自助努力でやろうとしていることをキャッチし理解することが重要になります。

ともすればメーカーは、川上発想・シーズ発想になりがちで、消費者のことをあまりよく知らないまま技術や生産のロジックで行動しがちです。マーケティングは逆に消費者や市場が中心になります。

しかし、技術や生産、消費者や市場という両者のバランスをどうとるか、二つをどう両立させられるかをリサーチを通じて実現しようとなると、それはなかなか難しいのでしょうね。

高栖氏:リサーチ会社の役割としては、誰よりも消費者のことを理解していなければいけませんが、メーカー側のことも理解していないといけないんですね。ある食品メーカーさんの場合では、製品に特化した成分があって、それに伴う特殊な技術を持っている。

それを活かした製品を作るためには、消費者にどんなニーズがあって、どんな場面で受け入れられるかといった課題を見つけながら、横展開のご提案をするといったこともあります。

陶山氏:メーカーの中には、消費者を十分観察できていない中で商品開発することも結構あるようですね。マーケティングリサーチを通じてどういうニーズがあるのか、またその製品がどのようなもので、どう役に立つかを消費者に伝えるということは、企業のミッションでもありますから、消費者側も企業側も、お互いについての情報を持っていない中で、リサーチ会社は両者をカップリングする役割を果たすわけですね。

高栖氏: そこはリサーチ会社として大きなミッションではありますが、中にはこの商品を市場に出すぞと意気込んでいるような事業部の方に言われた通り、それをバックアップするようなデータを切り取って出すといった場面も少なくない。そこはリサーチ会社側としては大きな課題かと思います。

陶山氏:そういう点でいえば、マーケティングリサーチ業界の中でもドゥ・ハウスさんは独自の存在感を持っている会社ですね。他にも規模の大きな会社もありますが、御社は他社にはない哲学やポリシーを持っていると思われているんじゃないでしょうか。

昨年3月に発生した東日本大震災の後、仙台で2回、東京で1回グループインタビューを実施されましたね。生活者が震災後、ダメージを受けてから段階的に生活を再生させていく中で、どのように日常生活を元通りにしようとしてきたのか、あるいは従来とは違った生活を創出してきたのか、そこでどんな新しい価値観がライフスタイルが生まれているのか、を浮き彫りにする調査でしたね。

私自身はこういう調査はあまり経験したことがなかったのですが、個々の生活者の行動に密着してきちんと観察していく調査のスタイルがとても参考になりました。

高栖氏:あの調査は、被災された方の生活の価値観が、あのインパクトによってどう変化するか、変化しないのかをベンチマーク的に調査するものでした。震災3ヵ月後と半年後の2回調査しましたが、生活者の価値観というのは実はそんなに変化しない、つまり喉もと過ぎればじゃないですが、元の生活に戻そうとすると同時に、元の価値観に戻していこうとする傾向にあるということがわかりました。

陶山氏: 一方では中国における生活者の食卓の様子を観察調査もされていましたね

高栖氏:海外の場合、現地の食文化を知らずにデータを見ても深く読み取れませんから難しいんですね。翻訳された時点で既にその翻訳した人のバイアスが入ってしまうことが多いですから、原文をみて深く理解をしないと読み込めないと思います。

陶山氏:今日本のメーカーや小売業では、グローバル展開ということで東アジアを中心とした海外事業を積極化する企業が多くなっています。そのなかでドゥ・ハウスもさまざまなクライアントへのサポートをされていますが、ここ1~2年の中で事業活動の面で新しい変化はありますか?

高栖氏:すでに多くのリサーチ会社が海外に出ていますが、私たちはどちらかというと定性調査が多いです。そこに言葉の壁もありますが、行動観察に言語はあまり関係ないんですね。

元来、行動観察の手法というのは文化人類学的なもので、アフリカの奥地に住む民族の生活を調べるといったものだったんですね。そのやり方を我々なりにマーケティングに転換して行っていることから、そうしたよくわからない文化を持つ人々の生活であったり、生活の価値観を導きだしていくには、行動観察は最適かと思います。

陶山氏:ヨーロッパやアメリカなどの先進国の消費者行動のパターンと違ってアジアや途上国の消費者行動はなかなか理解しにくいところもあります。文化や風俗、生活習慣の違いはあるでしょうけれど、人間の行動パターンである以上なんらかの共通パターンを押さえておけば、それほど間違わずに観察することができるということですね。

高栖氏: 昔海外の企業が日本へ進出するとき、フランスのメーカーは日本人の行動がよくわからなかったんですね。彼らはモデルを作って定量調査をしたんですが、そのモデルに日本人の行動がなかなか合わず理解できなかった。

それで進出をやめたということもありました。そこに何のモデルもなく、あえてありのまま関連性のないデータも含めて観察していった上で仮説を出していくという手法は、新しいところを理解していくには良いかと思います。

陶山氏:ある種のファクトファインディング(新事実の発見)ができるということですか。定量分析の中でも、仮説検証型のモデルに基づいた解析よりも、データマイニングのような大量の購買履歴データを解析しながら、そこから何らかの法則性なり新しい知見を得ていくというやり方が必要になっていますし、定性調査でもあまり予見を持たない方が、いろいろ現実で起きている新しい事実を発見できるということですね。

 


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