■ BRANDING #05

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■ BRANDING #05

ブランドパーソナリティから見る次世代のマーケティング・リサーチ vol.3

今後のブランディングに向けて
高栖氏:現在のメーカー企業の組織では、経営トップは市場から掛け離れたところに位置づけされているんですね。ですがユニクロやAppleのように、消費者の変化をいち早く捉まえて、それに対応したビジネスモデルを構築することが重要だという時代になっています。

その生活者の変化をいち早く正しく捉まえるためには、経営トップが事実をきちんと把握していなければいけない。今の組織構造だと、市場のデータに一番スイッチしているのが調査部なので、まず調査部が事実を吸い上げて、そのあと調査部の意見と一緒に事業部のほうに上がり、またその事業部の意見とともに経営トップ層に上がってくる。

そうするとどこかしらで事実が無くなってしまって、どんどん「ご意見」だけが上がってきてしまう。その事実と異なった「ご意見」でもって経営トップが判断してしまう。これが今の組織の現状です。

そこで調査部や事業部、営業販売部また協力会社であっても、誰もが同じ事実を浴びれるような組織を作っていかないと、時代の変化をキャッチできないですし見誤った判断をしてしまいます。これではどんどん時代の流れに置き去りになっていくんじゃないかと思いますね。

陶山氏:企業の中で情報が歪曲するという、そういう情報のボトムアップがスムーズにいかないのは、日本の企業の組織構造にも問題がありますね。

高栖氏:我々は事実と仮説が組み合わさったものを「意見」といってるんですけど、意見が加わることで仮説も加わることになり、意見はインフォメーションになるんです。

データとインフォメーションは違いますから、インフォメーション(意見)だけだと元々のデータ(事実)が何だったのかがわからないままになってしまうんです。

陶山氏:企業にはブランドマネージャーやプロジェクトマネージャー、またマーケティング以外の調達や製造、人事、財務などの部門からもいろんな情報が入ってきます。

その場合、情報を縮約整合しスクリーニングしてトップに上げる、つまり重要な情報とそうでない情報が歪曲されないで仕分けされていくプロセスが重要だと思ってしまいますが、そういうことではないのでしょうか?

高栖氏:経営者が必要なデータと、事業部が必要なデータ、営業が必要なデータというのは違うんですね。上がってくるそれぞれのデータというのは、自分の事業部にとって都合のいいデータだけが上がってくることが多い。

つまり自分の事業部に都合の悪いデータを排除してしまえば、なぜかその事業部がうまくいっていると見えてしまうとか、商品がこんなに盛り上がるように見えたりなどが起ってきます。本当に経営トップが判断するのに必要なデータというのは、事業部とはまた違う見方にありますからスクリーニングをかけないほうが良いと考えています。

陶山氏:経営トップにとって、業界やマーケットに関する情報や中長期のトレンドなど、さまざまな情報をきちんと分析する能力やナレッジ、スキルは必要になってきますね。ところがこれだけICT革命(情報コミュニケーション革命)やグローバリゼーションが進むと、企業の内外には膨大な情報が溢れているので、それらの情報を瞬時に取捨選択し、仕分けて、活用しながら経営判断ができる能力を持たないといけないということになりますね。

高栖氏:そうですね。

陶山氏:ややもすると企業の経営トップは、社内の人事や財務の情報は知っていても、マーケットや顧客に関連する情報や、社外情報あるいは競合に関する情報をあまり知らない場合があります。そうしたなかで従来以上に情報に対する感度を磨きながらそれを処理するスキルを持たないと、今の時代ではなかなか生き残っていけないですね。

高栖氏:時代の流れ的には今、店頭が注目されてきています。店頭でどういう購買行動が行われているのかという研究も弊社では行っています。現在、商品開発は消費者調査によって行われていますが、消費者ウォンツに対応するベネフィットとしての商品だけでなく、今後は店頭での購買行動調査によって商品開発するといった、バイヤーウォンツに合わせた商品開発も検討する必要があるのではと考えています。

陶山氏:消費者情報にもメーカーが手に入れる情報と、流通企業が得意としている情報とがあり、それぞれマーケティングリサーチを行って調査しています。ただ、小売店頭に対する注目が集まるようになったのは、ここ5年~10年以内のことですね。

「なぜこの店で買ってしまうのか」というパコ アンダーヒルの理論のように、購買履歴データに限らず、小売店頭でどのような購買が行われているかといったインストアに関する研究やリサーチは決定的に遅れていると思いますね。

肝心の流通企業も、本来は小売店頭についての情報は得やすい立場にありますが、たとえPOSデータやFSP(ID付きPOS)データを持っていてもそれを十分に活用できていない。どういう理論や調査スキーム、を用いていかに解析するかについては、あまり知らないということがあります。

当ブランド戦略研究所は産学連携の立場から企業などとコラボレーションしながら、FSPデータを商品・ブランド別、小売店舗別にパターンを分け、どんな顧客がいかなるライフスタイルにもとづいて商品・ブランドを選択しているのかをクラスター分析してプロモーションやコミュニケーションの方法を探るという調査研究もしています。

メーカーや流通業は、こうしたところをさらにきめ細かく知りたいでしょうね。そういう点では、御社はフロンティア・カンパニーと言って良いですね。

高栖氏:エリアマーケティングというと、たとえば六甲なら六甲というエリアをどうしようかという話になるんですが、エリアも別の概念を持っているという考えもあります。

たとえばセブンイレブンや、イトーヨーカドーを一つのエリアとして考え、その店舗周りの購買行動を分野として考えることも必要になるかと思っています。

陶山氏:当研究所では、ブランドの観点にもとづきながら、経営とマーケティングと知財との三位一体化を基本理念として掲げています。その点で今後もショッパーズマーケティングの調査研究、具体的にはそうした小売店頭基点でのプロモーションやコミュニケーションをどう考えていくかといったところにもさらに力を入れて行きたいですね。

高栖氏:メーカーさんのブランディングというと、これまでは広告宣伝費が大きなシェアを占めていましたが、今のように広告宣伝費が減少していく中でどうブランディングするか。そこで「店頭をメディア化する」動きが増えてきています。

店頭にいろんなサイネージやディスプレイが置かれ、お店に来られた方に何かを見せるといったことが増えていますが、従来のTVCMの宣伝広告と店頭で行われる宣伝広告、それらのメディアを通じたコミュニケーションをどうブランディングするかがこれから気になるところですね。

陶山氏:小売店頭のメディア化やインストアのブランディングと、TVCMなどマスメディアを通じたアウトストアのブランディングという、両方のブランディングやコミュニケーションが必要だということですね。

必ずしも計画購買でない商品であれば小売店頭は重要なダッチポイントの一つですから、まさに店頭が売りに繋がる場となり、また生活者とメーカーや流通企業との接する場でもありますから、そこをいかに活用しながらブランディングしていくかが、今後は非常に大きなテーマになりそうですね。
高栖 祐介
株式会社ドゥ・ハウス
取締役副社長
 
1973年 東京生まれ。慶応大学 総合政策学部卒。1997年 株式会社ドゥ・ハウス入社。事業内容: マーケティングサービス事業/生活フィールド、流通フィールドに対するクチコミプロモーションと定性情報リサーチ/デジタル&ネットワークをフル活用したマーケティングシステムの開発・実施/新時代のマーケティングを支える「多目的ネットワーキング

株式会社ドゥ・ハウス
HP: http://www.dohouse.co.jp/
陶山 計介
関西大学商学部教授

1950年 岡山県生まれ。京都大学大学院経済学研究科 博士後期課程単位取得。博士(経済学)。研究分野:ブランド・マーケティング。常に現場に目を据え、トヨタ、リクルート、JH、ハウス食品、イズミヤ、大阪府等多数の企業、各種団体の幹部研修も行い、産学交流を推進している。 文科省、経産省等の専門委員や大阪ブランドコミッティ・プロデューサー等、学外活動多数。英国エジンバラ大学マネジメントスクール 客員教授(2002年)
[学会・研究会活動] 日本商業学会前会長/日本広告学会元理事/日本広報学会元理事/一般社団法人 ブランド戦略研究所理事長

[主な著書・訳書] 『ブランド・エクイティ戦略』(共訳 ダイヤモンド社 1994年)/『ブランド優位の戦略』(共訳 ダイヤモンド社 1997年)/『バリュースペース戦略』(共訳 ダイヤモンド社 2004年)/『マーケティング戦略と需給斉合』(中央経済社 1993年)/『日本型ブランド優位戦略』(共訳 ダイヤモンド社 2000年)/『マーケティング・ネットワーク論』(共編著 有斐閣 2002年)/『大阪ブランド・ルネッサンス』(共著 ミネルヴァ書房 2006年)等

関西大学 陶山研究室
http://www2.itc.kansai-u.ac.jp/~suyama/

一般社団法人 ブランド戦略研究所
http://www.brand-si.com/
取材協力:一般社団法人 ブランド戦略研究所/取材:山部 香織/撮影:菅野 勝男/取材:2012年9月

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