■ INNOVATION #06

HOME» ■ INNOVATION #06 »現代社会の象徴「消費税」 vol.3

■ INNOVATION #06

現代社会の象徴「消費税」 vol.3

岩本氏:消費税の納税額は売上×消費税率で試算されるので、いかに売り上げを減らすかが企業としては死活問題となる。その売上げから、実は派遣社員の費用というのは差し引くことができる。

税理士の方は企業側への最も簡単な消費税対策として、まずは正規雇用を減らし派遣社員など外注するようアドバイスされるという話を湖東先生からお聞きしましたが、消費税には国内雇用と直結する大きな問題があるわけですね。

今グローバル企業がものすごく活躍していますが、正規雇用の問題が日本でも深刻とされています。でも実際問題、人件費削減が主流となっている現状では、特にグローバルに活躍する大企業が国内の雇用を増やすかと言えば、なかなか増やさないと思うんですね。

大企業側の論理として正規雇用は雇わないという発想であれば、その代りに社会の受け皿として、中小零細企業や国内の内需を支えている企業が雇用を引き受ける役割を担ってもらおう、そうした国としての政策がしっかりあれば、大企業が非正規雇用を重点的にというアイデアであっても、国全体として雇用を安定させることは可能だと思うんです。

にも拘らず、自分たちは非正規雇用で雇用を流動化させたい、けれど流動化した雇用の受け皿をどうするかというアイデアは全くない。こうした大企業の論理だけで進んでいることが、社会不安に繋がっていると思います。

国家としてのグランドデザインや大きなビジョンでのアプローチもなく、ほんとに目先の短期的な話だけで進んでしまっている。これも消費税の一つの特徴かと思いますね。

堀氏:それって、社会ビジョンの問題でもありますね。
湖東氏: そうです。江戸時代に武士の素浪人がいっぱい出ましたね。ビジョンの無い、あれほどの社会不安は無いですよ。結局江戸幕府は潰れたわけですが似ています。

こういう社会がどんどん進むといつか大きな変化が来るはずです。それに悶々として火をつけられない状態が今なんです。そこでグランドデザインを作るような人たちが出てくれば、これは変わると思いますね。税制だけではないですけども。

堀氏:グランドデザインね。「消費税をフォーカスしたチェンジ」というのは、もしかして世界的な現象になるかもしれないですね。

湖東氏: それには敵が大きすぎるんです(笑)日本の政府や経団連だけじゃなく、世界130カ国の政府と財界と戦うわけですから。もしフランスからヨーロッパ統一で無くそうという話になれば、それはもう夢のまた夢ですよ。良いと思いますね。

堀氏:ピケティやエマニュエル・トッド (フランスの人口学・歴史学・家族人類学者) なんかが興味持ってくれたら面白いでしょうね。

岩本氏:一般国民レベルで状況を覆せるのは、唯一、国境を越えて同じ問題意識を持つ人たちと連携するしか今は無いですね。国内じゃなんともしようがないので。

堀氏:政治的になかなか難しいだろうけど、ピケティは世界中の富裕者に累進的な資産税をかけることが解決策だと言っていますね。

湖東氏: 国によって物価が違うので、必ずしも同じ税率ではいかないけれど、理論として5%から始まって、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50という、超過累進税率構造の所得税と法人税が良いと思うんです。それがグローバルにできれば尚、良いですね。

今、所得税、法人税の無い国がいっぱいありますから、そこに逃げてしまう。タックスヘイブンやタックスシェルターと言われるところですね。税逃れを平気でやってるわけです。
岩本氏:人やモノが一瞬のうちに国境を超える現在、税制だけは国境を決めて仕切ろうとしても、それは無理なんですね。

各国ごとの税制度に限界が来ているということを認識した上での次なるステップへ、それこそ先日OECDのアクションプラン(税源浸食と利益移転に関するアクションプラン、通称BEPS)等も出てきましたし、日本租税理論学会の次回のテーマでもありますので、世界の税制というものを考える時期に来ているんじゃないかなと思います。

湖東氏: そうですね。財務省でも、国内法だけできちんとやれば良いじゃないかと、いろいろ苦労していることは分かるんです。分かるんだけど、企業側はさらにその上をいってしまうんですね。

堀氏:だけど、そうした経済のことは、門外漢の私とっては月世界旅行みたいな話なんですよ(笑) これまで考えたことも触れたこともないテーマですよ(笑) 

湖東氏:しかしこの4月のお祭り騒ぎは誰にでもあったわけですから、その視点で良いんです。それでおかしいと思わない人がおかしいんです(笑)

先日、主婦の方たちの勉強会でも、「なぜカードだと安いの?なぜコインで買うと高いの?」と説明して欲しいと仰るんだけど、その疑問を持つことが大事なんです。それが疑問の出発点ですから。「要するに、それは税金じゃないからなんです」と。法律で定められて3%アップして8%になる。

ということだったら法律違反ですからやっちゃいけないんです。ところが自由に物価を上げても良いと。ということがこの税金の問題点なんです。税制ではないのに「そういう税金だ」「3%上がるんだ」という説明で、単にインフレを煽るという結果になる。このまま10%になり15%になったら大変なことになっちゃいます。

堀氏:まだまだ日本では、「まあ、そう決まったんでしょう。仕方ないですよ」という諦めと我慢が主流ですからね。 ここはしっかり、自分たちがどういう社会環境で、経済環境で、どういうフィールドで生きているのかを認識する、知る、ということが大切と思います。
湖東氏: 消費税で一番大変なのは納税する事業者です。来年の春から滞納が始まってくるわけです。この秋から少し出てくるかと思いますが、ここで初めて事業者がびっくりする。それから景気はぐっと悪くなるはずです。そこで耐えられれば生き残り、だめだったら潰される。生き残れるか潰されるかの選択が来年に来るわけです。 

岩本氏:今政府が、中小企業の方が破綻しても自分の持家と何百万の現金だけは押収しないでそのまま残してあげるという、事業破綻を促進するような政策を打ち出していますが、それも消費税との合わせ技だと思うんですね。

事業者にとっては最後の手段として救いがあるという点で良いかもしれませんが、そこに雇用されている人もいるわけですから、国内の中小零細企業が諸手をあげて廃業すれば、単純に雇用にあぶれてしまう人が多く出てくるという問題もあります。しなくちゃいけない構造改革はそこでは全く無いと思うんですけどね。

堀氏:日本の社会文化には談合体質のような悪い面もありますが、支え合いや連帯は大切です。オープンでフェアな社会にすることで納得づくの連帯を構築していきたいものです。不透明なカラクリはいけません。

岩本氏:その象徴が消費税かもしれませんね。

堀氏:まさにそうかもしれませんね。フランスも今やもうぼろぼろですからね(笑)ぼろぼろなので却って今が変化のチャンスかもしれないですね。新しい視野を得て、私も変化しつつあります(笑)
湖東 京至
税理士
元静岡大学教授
元関東学院大学教授
 
1937年東京都生まれ。1965年税理士一般試験合格。1972年以降 税制・税務行政・ヨーロッパの付加価値税制の実態を学ぶため、フランス、ドイツ、アメリカ、カナダなどを歴訪、国際税制の研究を深める。全国青年税理士連盟会長、税経新人会全国協議会事務局長、東京税理士会理事を歴任。著書に『消費税法の研究』(2001年)。『世界の納税者権利憲章』(2002年)など
堀 茂樹
慶應義塾大学総合政策学部教授
フランス思想史研究
翻訳家
 
滋賀県大津市生まれ。1974年早稲田大学教育学部社会学専修卒業。1977年慶應義塾大学文学研究科修士課程修了。フランス政府給費留学生として渡仏し、79年Université Sorbonne Nouvelle Paris III高等研究課程(19世紀フランス文学(オノレ・ド・バルザック))、及び82年Université Sorbonne Paris IV高等研究課程(20世紀フランス思想史(ジュリアン・バンダ))修了。2000年同総合政策学部助教授。2003年教授兼大学院政策・メディア研究科委員。主な訳書に、アゴタ・クリストフ『悪童日記』三部作(ハヤカワepi文庫)、アニー・エルノー『シンプルな情熱』(ハヤカワepi文庫)、アラン・ソーカル、ジャン・ブリクモン『「知」の欺瞞 ― ポストモダン思想における科学の濫用 ― 』 共訳(岩波現代文庫)などがある。

オイコスの会
HP: http://oikos2013.blog.fc2.com/
岩本 沙弓
金融コンサルタント・経済評論家
大阪経済大学経営学部客員教授
 
青山学院大学大学院 国際政治経済学科修士課修了。1991年より日・米・加・豪の金融機関にてヴァイス・プレジデントとしてトレーディング業務に従事。 日本経済新聞社発行のニューズレターに7年間、為替見通しを執筆。金融機関専門誌『ユーロマネー』誌のアンケートで為替予測部門の優秀ディーラーに選出。現在、為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、英語を中心に私立高校、及び専門学校にて講師業に従事。政権政策会議などの講師に招かれる。主な著作に『円高円安でわかる世界のお金の大原則』(翔泳社)、『新・マネー敗戦』(文春新書)、『マネーの動きで見抜く国際情勢』(PHPビジネス新書)、『為替占領』(ヒカルランド)他。Office 『W・I・S・H』代表
HP: http://www.sayumi-iwamoto.com/
FB: sayumi.iwamoto
取材:2014年5月

2014/05/22


■ INNOVATION #06

powerdby