■ INNOVATION #06

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■ INNOVATION #06

現代社会の象徴「消費税」 vol.2

堀氏:今の消費税が持つ問題、実は価格に埋没しているということや還付金(リベート)の問題も、ある程度知られてきたかと思いますが、もう一歩踏み込んで、これは逆進性の話では無いということ。売上税方式ならともかく、今の付加価値税方式では軽減税率は意味が無いということですね。

そこでもう一つ伺いたいのが、消費税が導入された頃、やたらと呪文のように聞かされたのが「直間比率を是正する」という言葉でした。

あれは何だか知らないけれど、間接税を多くすることが良い、ということでした。ところが、今のお話からすると消費税は実は間接税ではないということなんですよね。この「直間比率を是正する」 というスローガンについては如何でしょう?

湖東氏:財界が盛んに「直間比率是正論」を言いますし、税法の学者も日本は直接税が高すぎるとしています。直間比率は5対5ぐらいのバランスが良いと。フランスが凡そ5対5でドイツは3対7。アメリカは実は9対1と直接税中心国家なんです。

「だからアメリカが悪いんだ。アメリカも間接税を上げろ」と、これは内政干渉なので言えませんが、「直間比率是正論」として日本に出されたのがヨーロッパ、特にフランスが理想的だと言うんですね。

彼らの言い分では、直接税を払わない人たち、つまりアングラマネーの世界の人たちだって生活してモノを買う。だから彼らにも課税できて公平だというわけなんです。それだけ直接税を免れている人たちがたくさんいて、それをカバーできるからという理屈から「直間比率是正論」というものが出てきたんです。

私どもはアメリカ型の直接税90%が良いという考え方なので、「直間比率是正論」にごまかされるなと言ってきましたが、ところがわが国にも「間接税が良い」という人たちがたくさんいた。そこに非常に難しい問題があったんです。

堀氏:なるほど。そういうことなんですね。
湖東氏: 私の中で「直間比率是正論」は、その点だけはアメリカ方式のほうが良いと整理しています。アメリカは直接税中心ですが、それで国家財政が破綻することは無い。むしろヨーロッパのほうが、あんなに間接税を取っていながら、直間比率が5対5に近い率でありながら、政府の財政はそううまくいっていないのではないかということですね。

堀氏:今、岩本さんと、トマ・ピケティ(社会党系フランス経済学者)の『21世紀の資本論』という本に注目していまして、ピケティは40代前半位のフランス人ですが、この『21世紀の資本論』の前に出した本が税制改革についての本なんですね。フランスの税制は複雑すぎるからもっとすっきりさせろという主張しています。

それと、ここ30年位でしょうかね。アメリカはヨーロッパ以上に貧富の差が大きい社会になってしまいましたが、ピケティによれば、アメリカの格差は主に給料の格差です。資産や土地やお城といったものじゃなくて、勤労報酬。

まあ、大会社の社長の給料はべらぼうに多いので勤労とは言えないんじゃないかと思いますけど、ヨーロッパと比べると給料の格差が大きい。それに対し、ヨーロッパの格差は資産格差だと。

資産がモノをいう状況がアメリカ以上に生まれ易い。つまり第一次世界大戦で(資産が)ご破算になり、第二次世界大戦でもまたご破算になり、そこである種シャッフルされて平等社会が生まれた。

しばらくそれが続いたけれども、今アメリカもヨーロッパも、1914年の第一次世界大戦前の「ベル・エポック」の頃のものすごい格差の時代に戻りつつあると。

ただアメリカは、かつてそういう不平等を無くそうと、べらぼうな相続税をかけていた時代があるので、今の新自由主義主流時代が終わった時、オバマ大統領の言う「中間層の復活」が実現して、いわゆる戦後の健全なアメリカ合衆国に近いものが出てくるかもしれないと。

そうすると、消費税を導入せず直接税を中心とするアメリカのモデルが、また復活する気がするんですよね。

岩本氏:一縷の望みですけれど、そこに賭けたいですね。
湖東氏: 見直される可能性はありますよ。その意見がもし全世界に広がっていくとしたら、ヨーロッパの税制は全部ガラっと変わるでしょうね。それが起業家を育て、やる気を出させ、新自由主義路線ではあっても、所得税は納めても大いに儲けられるという経済の流れになる。

堀氏:全体に役立つのであれば、世の中にある程度の不平等が生まれるのは、それ自体として「悪」ではないと思います。

でも今の不平等はあまりに酷い。今の消費税も、輸出企業が還付金を取って内部留保を増やすシステムであり、国民はそれを知らされずにお金を吸い上げられるばかりというのは、やはり理不尽です。

湖東氏:ヨーロッパの、例えばフランスの中小事業者たちが20%という高い税率を納めさせられていますが、これではやはり企業も伸びません。いくら給料を取ろうと思っても企業の利益が抑えられますから。 

堀氏:だから自由に市場経済が動かない。

湖東氏:ええ。もう固定化してしまって自由に儲けることができないんです。ちょっと赤字になっても納税が出るので、もう萎縮してしまってすぐ潰れます。ヨーロッパだってそんなにすぐに潰れる中小企業ばかりじゃないと言いますけど、やはり出入りは激しいと私は思います。

そういう国ですから、超リッチな役員報酬が取れるような企業や、少なくとも中小企業から国内産業の中心になる企業は生まれてこないと思うんですね。

資産の格差はありますが、極論ですが、やはり付加価値税・消費税は、経済の全てのルールを破壊すると考えています。だからこそ新しく考えてくれる若い人たちに、「この消費税が無くなれば世の中は良くなる」と希望を与える、それが大事だと考えています。
堀氏:しかしこれだけ短い期間に、こんな怪しげな税制度が、全世界にものすごい勢いで広がったわけですよね。これなぜでしょう。

湖東氏: 還付金があるからです

堀氏:やっぱり還付金ですか(笑)

湖東氏: 財界が国家の中心を握っているからです。(還付金制度は)フランスが始めましたが、最初はドイツも抵抗していたんです。ドイツは元々売上税だったんです。それも小売だけではなくて、多段階で単純にパーセントをかける売上税。

それが良いとしていたのに、1968年にフランスがヨーロッパ統一税制を打ち出した際に賛成したんです。輸出をすれば還付金があるというところで一致したんですね。

堀氏:それって普通の人間の姿勢としてどうなんでしょうかね。やっぱり直接税の方が、本来市民が持つべき公への責任感に対応する気がします。消費税は「モノを買えば自動的に納めているからいいじゃないか」ということでしょ。

湖東氏: それはいかんですよね。

堀氏:市民としての1つの義務を果たして、それで競争するなら競争すると。そのほうが健全じゃないかな。

2014/05/22


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