■ MANAGEMENT #08

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■ MANAGEMENT #08

ニッポンの未来、‘事業承継’の今とこれから vol.2

成功しているファミリービジネス企業の共通点は
Q: 海外と比べて日本のファミリービジネスの‘強み’は何でしょうか。

大澤: 日本には200年以上続いている会社が3000社、100年以上の会社は3万社ぐらいあるのです。これだけの企業が永続している国は日本がダントツで世界一です。続いている理由は明確には分かっていませんが、私なりの解釈は、長く続いている企業は皆理念・価値観をしっかり持ち、それを家族が繋ぎ、社員も共有する仕組みができています。

また、私の経験からなのですが、ファミリービジネスで成功している企業にはひとつの共通点があります。自分達がオーナーのファミリー企業は、儲かっていれば配当を吸い上げようと思えばいくらでもできるという特権を持っていますよね。でも自分たち株主の金銭的利益を一番に考えるのでなく、社員、顧客、取引先、地域といった第三者の利益、幸せを第一に考える。その結果巡り巡って自分たちにも利益が還ってくるという「利他の精神」が強い企業が長生きしていると思います。

もちろん利益を上げないことには会社は存続しません。でも、利益第一主義に陥ってしまうと、本来の理念を忘れて暴走し失敗するケースが多いことも事実です。利益最大化、株主価値最大化が企業の唯一の目標としてきた米国のビジネススクールでも、リーマンショックの経験も踏まえ、最近では利益はあくまで生き残るための制約条件であって、より高次の目標をもって事業に取り組んでいる企業の方がパフォーマンスが高いという認識に変わってきています。

オーナーであるファミリーが自分たちが事業を行う意味を探りながら社会的意義や価値を作っていく。こうした概念が明確になっている会社はぶれず長生きしています。長寿企業は利益ももちろん上がっていますが、それを第一優先順位には置いてはおらず、その辺りが日本のファミリービジネスの良い面・特徴で、最近ではアメリカでも見直されてきているわけです。
ひとりひとり、社員の素質を活かす経営
江上: お話、響きますね。社長になったら株も支配権も所有するとなった時、自分の給料・親の給料・配当・社員の給料、どれだけ社会に還元するも全部決める訳です。正解は誰かがくれるわけでもなく個人的な感情も入って大変悩みました。でも自分の中でこれだけは中心に置こうと決めたのは、社員の素質を大切にしようということです。

100点の教習をするという才能を持っている人間もいれば、新しい企画をすることに才能がある人間、人事の制度を作ることに才能のある人等々、多種多様です。もちろん長短ありますが、‘長’の部分をきちんと見つけて合うポジションでそれを伸ばしてあげて最大限力を発揮させるということを中心にしていくと。決めて実践していくと、少しずつ仕事がいいものになってきて、お客様も喜び社員も笑顔で働いていくようになって。結果的にお客さんも増えて利益が上がっていい循環で回るようになっていったんですね。それは誰に言われるでもなく、自分の内から湧き出てきたものなので真意をもってやれるんです。

大澤: 事業と家族のバランスを自分で見つけることは非常に大事ですが、それをきちんと見つけられたんだと思います。そこが経営者としての最も重要なところですが、同時にそれは孤独です、自分で決めざるを得ないので。

江上: 会社で働く一番の喜びって自己表現だと思うので、素質を発揮して社会貢献をしているということを表現して世の中に承認される事が一番の喜びだと思っています。生活の為の仕事という方もいますが、こういう才能があり努力をしているのだから大きな仕事をチャレンジしてもっと表現していったら面白いんじゃない?ということを提案して。もちろんプロセスで苦労もしますが、どんどん伸びていって影響力が出てくると凄くいい顔になるんですよ。

大澤: 社員の方々のモチベーションとして、お客様、生徒さん、同僚、社長から感謝される、あるいは地域からこの会社ってすごい会社だよね、と思われればそこで働いていること自体が楽しく、誇りを持てることになり、結果としてその人たちの生産性が上がる、という好循環になっていくのだと思います。
‘家族’と‘事業’のバランス、「パラレルプランニング」
Q: 日本の事業承継において、まだ未熟と感じるところはどんなところですか。

大澤: 事業承継税制は、国際的に見ても遜色ない制度にはなりましたが、残念ながら日本のファミリービジネスの多くは、永続のために何が一番重要なのかということをあまりご存知ない方が多いのも事実です。欧米では、家族と事業という2つをバランスよく運営していくことを「パラレルプランニング」と言います。家族を社内で積極的に活用するという家族重視の考え方はどのファミリービジネスでも見られますが、資質が伴わなかったり家族偏重が行き過ぎると、会社の人たちのモティベーションが大きく下がってしまいます。一方で事業だけしかみていないと、株主、後継者として事業をサポートしてくれる家族から支持が得られません。

江上: バランスと言うのか・・・。私は父に感謝しつつも父のアドバイスは絶対に受け入れずにやっていったんです。SNSでの口コミが生まれる仕組み、エンターテイメント的要素を取り入れることも反対を押し切って断行したんです。‘何を引き継いで何を変えるべきか’という境目はどう見極めたら良いでしょうか。

大澤: 既に見極められてやっていらっしゃいますよね。継がせてもらったということは、教習所も60年間かけておじいさまの代からご苦労されてこられたインフラや社会的な信認もあって、資産を活用しながら事業をされています。戦略面ではお父様と違ってもそれをやらせてもらっているということに対して感謝する気持ちを忘れなければうまくいくのかと。得てして、親子関係が崩れたりファミリー問題が表面化するというのは関係を蔑ろにしたことから始まっているかと。
 

江上: これも耳が痛いです、笑。

大澤: 意見を聞いてあげるだけで良いと思うんです。大塚家具さんがあれだけ揉めてしまったというのは、父子2人の間のコミュニケーションがうまくいかなかったことが一番の原因だったのではないかと推察しています。お嬢さんはお父さんの事業戦略はすでに時代遅れだと頭から否定しました。でも少し譲って、まず一部の店舗だけに自分の戦略でチャレンジしてみたいがどうか、と相談することもできたのではなかったのか。結果がでれば横展開すればよいはずです。相談しながら歩み寄っていくやり方はあるはずです。それが前の世代に対するリスペクトであり、新たな戦略、実行性を担保することになりますよね。
先代をリスペクトすることからの信頼
大澤: こんなことが話もあります。5年ほど広島のオタフクソースさんのアドバイザーをしていますが、そのご家族は現在第四世代が会社に入り始めていますが、皆仲がよくて地元でも有名な家族です。それでも当時の社長が叔父さんである会長から社長ポストを譲り受けた直後には、考え方の違いや社内での距離のとり方に相当悩まれたそうです。でもそこで対立するのでなく、毎朝必ず会長より早く出て、会長が来たら立ち上がって「おはようございます」と挨拶を始めたらしいのです。それから関係がとてもよくなり、会長が社長に任せようという気になっていったらしいのです。やはり人間と人間なので、こいつは任せるに足る人間だと認めてもらうことは大事で、ほんの小さなことかもしれませんが、少し頭をひねれば無用な対立を防げることもあるのです。

自分が譲り受けて、もう世代の違うお父さんたちとは違うんだとただ突っ走ってしまうと孤立してしまいます。新しい挑戦には失敗も伴います。そんな時、『ほら見ろ、何も相談しないからだ』と後ろ指をさされ、最悪のケースでは家族から放逐されることもあるのです。皆が同意したもとでこうした方が良いと言う事を事前に十分説明して、我々も賛成した、となれば、逆に支持を得てより自由にできるはずです。

江上: 現代は特に技術革新のスピードが速い。若い子がどんなSNSを使ってどういう風に遊んでいるということも親には全く通じず、戦略の部分の会話の共通言語が全くなくなってしまう、そうなると戦略論ではないリスペクトの部分を大事にしていかないと立ち行かなくなるかと。

大澤: 戦略論は違っていいでのす。違いがあって、築いていくものなので。大事なのはそれを認めたくなるような雰囲気をつくることです。例えば先代の想いや苦労話を家族や社員で共有する場を作るといったことも大事です。一人ひとりの人間としての尊厳を踏まえることは、特にファミリービジネスでは重要なことだと思います。

江上: 私も突っ走っていた時期、いきなりカメの格好をして『チャオ』とか言い出した日には、父親に驚愕して勘当されるんじゃないかというくらい怒られました。他にも、あの時に親に謝らなかったら、会社が終わってしまっていたのだろうと思ったこともあります。
事業承継、そのタイミングは?
大澤: 継がれる年齢も重要です。父親がもう90歳近くで社長、息子は70歳近くになってもまだ専務という会社もあります。江上さんのように若くしていきなり社長を任されるケースもありますが、取締役として重要な部門を幾つか経験させたのちに早めに社長に就任させることもあります。江上さんの場合は新しいことにどんどんチャレンジしていける年齢だったのでとても良かったのではないでしょうか。50代まで待たされたら、「カメライダー」になれなかったですよね(笑)。

江上: 絶対ないですね(笑)。新しいことに抵抗がない柔軟な若いうちに実権を与えた方がいい、ということはあるかもしれませんね。
大澤 真
株式会社フィーモ代表取締役

1981年 慶應義塾大学経済学部卒
1981年 日本銀行入行。
国際通貨基金(IMF)出向、ロンドン事務所次長、金融市場局金融市場課長、那覇支店長等を歴任
2006年 プライスウォーターハウスクーパース入社。ファミリービジネス、事業再生担当パートナーを務める
2012年より現職 金融庁金融機能強化審査委員会委員等公職も多数歴任。

主要著書 「金融市場における公共政策」(中村慎助、小澤太郎、グレーヴァ香子編「公共経済学の理論と実践」所蔵、2003年4月、東洋経済新報社)
「市場インフラとしての決済システム」(岩村充編「金融システムの将来展望」所蔵(2002年3月、金融財政事情研究会

株式会社フィーモ
HP:http://www.fe-mo.jp/company.html  
江上 喜朗
実業家
株式会社南福岡自動車学校代表取締役社長

1981年福岡県生まれ。東京理科大学理工学部卒。グループ企業の事故なき社会株式会社、株式会社つなぐっとの代表取締役社長も兼任する。大学卒業後、リクルートグループのネクスウェイ(旧株式会社リクルートFNX Div.)に入社、新規事業企画及び採用に携わり、4年3カ月の在籍で計15回以上の表彰を受賞。インターネットベンチャーの取締役を経て、南福岡自動車学校に2010年に入社、翌年同社代表取締役社長に就任。

株式会社南福岡自動車学校
HP:https://www.mfds.co.jp/  
撮影:井澤 一憲/取材:2018年4月
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2018/05/16


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