■ MANAGEMENT #08

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■ MANAGEMENT #08

ニッポンの未来、‘事業承継’の今とこれから vol.1

ニッポンの未来、‘事業承継’の今とこれから

事業承継問題。現在、国や自治体、地方の金融機関も力を入れる等で注目されており、事業承継をめぐる税制も大きな節目を迎えています。今回のプロフェッショナル談は、自動車学校を3代目で継いだ南福岡自動車学校の江上喜朗さんと、元日本銀行で、ファミリービジネスに特化した会社を経営されている株式会社フィーモの大澤真さんを招き、事業承継についての今とこれからをお話し頂きました。
税制面でも大きな節目を迎える事業承継問題
Q: 現在、注目されている事業継承について、現在の状況と問題点をお聞かせ下さい。

大澤: 日本全体でみると、今後10年の間に70歳を超える経営者の方が245万人になります。平均的な引退年齢を70歳として、そのうち半分の後継者が決まっていないという状態で、事業が続けられず廃業する際には650万人ぐらいの職が失われるとも言われており、日本経済全体にとっても非常に大きな損失です。

また、地域を支えるファミリー企業は本拠地を地方においている会社が多いので、承継できず大企業が地方のファミリー企業を買収してもうまくいかなければすぐ売ってしまったら地域の空洞化が起こり得ます。後継者が見つからないこと、承継がうまくいかずに廃業に追い込まれるのは地域経済にとって大きな損失という意識を政府も持っていています。今は承継について潜在的なニーズがすごく高まっており、日本は非常に厳しい税制を取っていましたが、180度方向転換というぐらいの税制改正が起こり、大きな節目を迎えています。例えば非上場で事業承継する親子の場合、株に対して税金がかかります。貰った方は事業を続けられても、株は売ることができず、貰っても自分に全くキャッシュは入ってこないのに税金だけかかるのは、世界でも日本と韓国以外ないと言われてきました。平成30年度の税制改正で相当緩和し、実質的に100%株承継しても相続税の支払いを猶予される新しい税制ができたのです。
‘ファミリービジネス’という観点
江上: 大澤さんはファミリービジネスに特化された会社をされていますが、珍しいですよね。

大澤: 私は元々日銀に勤務していて、金融政策や金融市場、金融監督を担当していました。2003年に那覇の支店長に赴任した時、名護市の金融特区活性化に携わった際に、欧米ではファミリービジネスの研究が大変進んでいることを知りました。また、こうした研究機関でファミリービジネスの後継者やこれを支援する専門家が学べる仕組みが出来上がっています。米国ではビジネススクールの中にファミリービジネス学科があるのは80校以上に及びます。日本は残念ながらゼロです。日銀にいるかぎりは、自分が実際に改革に関わることができないので、那覇から戻るときに日銀を辞め、最初は4大監査法人の一つのコンサルティング部門に転職してファミリービジネスへの支援方法を海外の同僚たちから学び、それから独立しました。

大澤: 江上さんは福岡にある自動車学校の3代目ですが、家業を継がれたきっかけは?

江上: 継ぐ前にはベンチャーの経営をしていまして。リクルートグループに4年半いたんですが、自分がいた事業部が分社独立して他の会社に売られることが起きまして。その時の先輩と一緒に会社をつくりました。例えば老舗のスポーツクラブの企業のお客様でしたが、チラシをまいて宣伝するという発想よりなく、ネットを活用して新しいものを取り入れて効果的に販促をする、そんな仕事をしていました。そんな矢先に心筋梗塞になってしまい、倒れまして。
事業承継した自動車学校三代目の大胆改革
大澤: 仕事のし過ぎですね。

江上: 入院してカテーテル手術をして。父が福岡から出てきて、僕の車椅子を引き看病してくれたのですが『お前、逆だろうが』と言われまして(笑)。当時29歳でしたが、一旦は療養が必要ということで、福岡に帰り父の会社も手伝っていまして、その流れです。もちろん小さい頃から継いでくれという話はありました。

大澤: 継ぐことを受け入れることに抵抗はありませんでしたか?

江上: それもありましたが、逆にわくわく感もありました。自分のやりたいことを100%できないにせよ、事業の基盤を受け継ぐので、ステージとしてはゼロからではない、三段、四段から始められることにもなりますので。

大澤: 今では県下NO.1になった訳ですが、継いでみて一番苦労したところは何ですか?

江上: 変革についていけなかった社員の「退職ドミノ」ですね。従業員の半数に退職届を出されまして。教習って、教官が厳しく叩きながら教えるようなイメージですよね。

大澤: 教習所行くの、嫌いでした(笑)。

江上: そうですよね(笑)、でも今の若い子たちは、就職活動や親に言われてという理由で免許を取るモチベーションが低い子が殆どです。しかも学校で厳しく教師から叩かれながら教える時代ではないので、厳しくするとモチベーションを落として退学・退校も多発してしまうのです。価値観が変わり、かい離していると。そのかい離を埋めるためにエンターテイメント形の教材を作ったり、指導員には「褒める達人検定」を取ってもらっています。‘愛あるおせっかい’と言っていますが、生徒さんの心のドアを開いてからこそ正しい教育ができるという理念で、生徒さんのことに気づいて、話をちゃんと聞く、できたことは褒める等、コミュニケーションに力を入れています。

ところが当時の社員にとっては苦痛だったようで。確かに、彼らは20年30年ずっと道交法を勉強してそれを厳しくきっちり教えてばいい、という梯子を上ってきている。それが訳の分からない私のような若造が来て、登った梯子を降りてこっちに登ってくれと言っているわけなので。でも、変化しなければ生き残れないと断行していきました。

大澤: お父様へ誰かが告げ口をする等ということも起こり得ると思いますが、一切口を出されなかったんですか?

江上: 一切と言うことはないんですが、父がすごいなと思ったのは、家で仕事を手伝っている時、突然呼ばれて代表印や金庫の鍵をポンと渡されて『もうお前が社長をやれ、若い世代が相手の教育業であり商売なので60歳を過ぎた私ではもうビジョンを作れない』と伝えられ、その数ヶ月後に社長になり全権渡されました。
事業継承、家族事情あれこれ
Q:色々なお客様がいるとは思うのですが、事業承継はスムースにいくものなのでしょうか。

大澤: 計画通りになるのは極めてまれだと思います。江上さんのように継ぐ意思があったのはまだ良い方で、全く継ぐ気がなかった人が継ぐ場合もあります。例えば業務用の無人ヘリコプターで世界一のシェアを持つ会社があるのですが、ご長男はお坊さんになって家に戻る気はなかった方が、病気になったお父様から説得され最後の最後で継ぐことになったのですが、就任された時は丸坊主だったということもありました。(笑)

江上: お坊さんからヘリコプターですか。

大澤: 他にも一人娘のお嬢さんに会社を継がせようとして、海外留学や他の会社で帝王学を学ばせ継ぐ準備万端だったのにつまずいたケースもあります。お嬢さんが会社に戻りいよいよ承継準備の最終段階という段になって、お嬢さんの選んだ結婚相手をお父様が気に入らず、『こいつと結婚するなら継がせない』ということになってしまったのです。どのファミリー企業でも程度の違いこそあれ、困難をどう乗り越えていくかは継ぐ人と継がせる人との間の関係で決まっていくんですね。継がせる側はやっぱり全部託すつもりでないと。心配で戻ってくるケースもありますが、それだと従業員も経営方針が改革路線だったのがまた元に戻るのか等と混乱します。
海外の‘日本流教習’への期待
大澤: 江上さんは、これからカンボジアとウガンダへも進出されるとのことですね。

江上: ウガンダはこれからのことが多いのですが、カンボジアはもうライセンス取得というところまできています。半年以上現地に人を置いており、口頭内示の状況です。3月にプノンペンで一番大きい日本学校のイベントに参加したのですが「日本流の自動車学校作ります」というチラシをまいたら凄い勢いで殺到し、申し込みは200数十を超えている状態です。免許取得マーケットが盛り上がっていて、‘メイドインジャパン’ということでも注目されています。

大澤: 日本の市場自体が小さくなっていくのは人口学的に見て間違いなく、海外、しかも成長の著しくもまだインフラが整ってないアジアは最も注目すべき市場だと思います。

江上: 日本は今後マーケットが縮小していくことが課題ですよね、継承後のことを悩んでいるお客様も多いのですか。

大澤: 守って続けられるところまで続ける、という考え方もあります。でも100年200年と続けていくには、‘承継’という単に次の人へ同じ形のものを渡すのではなく、‘事業永続’という考えが必要になります。企業の強みや守るべき伝統、といった変えてはいけない点と、新しい発想や新しいサービス、マーケット展開等の変えるべき点を整理し、革新や第二創業のような形で新しい分野に出ていかないと。

江上: 教習所では、18歳人口の減、免許取得率減という波が来ています。しかしこれは小波で、20年後にはすごい大津波に自動運転が迫っていて待ったなし状態です。自動運転なんて来ないという人もいますが、今までのテクノロジーの進化の歴史を紐解いても、マーケットニーズがあって、効率化される技術があった場合、必ず時代は塗り替えられてきているので、‘来る’という前提でビジョンを作っていくことが大事だと思います。
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2018/05/16


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