■ BRANDING #03

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■ BRANDING #03

グローバル・マーケティングとブランド戦略 日本企業の10年 vol.3

新たなプラットフォームのニーズと展望
大石氏:ブランド戦略研究所は社団法人化されて、どういう形で企業をサポートされていくんですか?

陶山氏:これまでのコンサルティング会社やシンクタンクというのは、ワンウェイでナレッジを提供したり、情報を発信することが中心だったんですが、今回このブランド戦略研究所を社団法人化するにあたっては「経営とマーケティングと知財」の三位一体化を掲げています。

また当研究所の会員企業同士がフラットかつオープンに、ブランド戦略の立案と実践やマネジメントを共創していくことが一つの大きなビジョンでありミッションとなります。

巨大企業だけでなく、ブランド戦略にそれほど関心のなかった中小企業や地域に対しても、研究所がプラットホームになってサポートできる体制をとれたらと良いのではと思っています。

本部事務局は関西・大阪ですから、アジアに向けてのグローバル・ブランドの展開に立地面で有利ではないでしょうか。関西からブランドの風を、日本全国やアジア、世界に吹かそうという強い意気込みですよ(笑)

大石氏:なるほどね。そのプラット化、オープン化、参加型というのはホームページに載せておられるけれども、社団法人として存続するためには対価が必要になりますね。

通常のシンクタンクなんかだとレポート発行しますとか、講演会を開催しますということになるんだろうけど、それだけじゃつまんないというのが陶山さんの考えでしょ?

陶山氏:定期的に定例研究会や講演会、フォーラムなど開催するだけでなく、今後はいろんな情報やデータといった会員向けコンテンツをHPやブログ、また出版物を用いて提供していこうと思ってるんですね。

同時に、ブランド戦略研究所というプラットフォームを使って、会員企業同士でプロジェクトを立ち上げ、お互い連携しながら調査・研究をしていく。その中で生まれた情報や様々なデータを会員にフィードバックしようと思っています。

たとえば、あるメーカーと一緒にプライベートブランドの調査をします。欧米の企業をみるとメーカーと流通との関係はかなり大きくて変わってきてるし、アジアも変わってきてるいます。そういう現状をふまえながら、メーカーは今後自社のナショナルブランドをどう強化していくのか、またその中でメーカーと流通企業がどういうスタンスをとっていけば良いのかを研究しています。

もう一つは地域ブランディングの観点から、九州のある公共の宿を活性化する目的で、観光と集客についての調査をやっています。さらに食事や設備やサービスなどを改善して、どうやればうまく経営的にも採算を改善していけるかという受託研究もやっています。

また、これも行政からの依頼なんですが、食育。これを都市や地域のブランディングという視点から進められないかという調査の依頼もきています。

これまでも、小売業の東アジア進出をどう考えれば良いのか、昨年の東日本大震災以降、消費者や生活者のライフスタイルはどう変わったのか、それに対応して企業はブランディングをどう考え、いかなるコミュニケーションを組み立てていけば良いかなどの調査を広告代理店と一緒にやっていったりしています。これらのプロジェクトは、会員企業や研究員と一緒に考えて進めています。

大石氏: なるほど。でもそういったプロジェクトが増えてくると、選任のスタッフというか、かなり研究者レベルの人が必要なのでは?

陶山氏:そこは大石先生やお弟子さんの応援も期待しているんですけど(笑)

大石氏: 専門的な仕事になると、経験や知識をきちんとまとめてレコードしなければならないので、かなり大変ですね(笑)

陶山氏:当研究所ではいろんな方が会員になっておられご協力いただいています。調査ということになると、一方で欧米の動向がどうなってるかとか、学会の最新動向の理論をふまえることも必要になるんですね。

理論的なバックグラウンドがない調査研究は、やっぱり「これってどんな意味があるの?」と不安になりますね。そこをきちんとすること。調査そのものについても、それなりのスキルや全体のナレッジがないとやはり難しい。グループインタビューをやったりネット調査もするんですが、定性専門の調査会社も当研究所の会員になっておられ、ご協力いただいています。

ブランド戦略研究所というプラットフォームの下でいろんな調査研究を行いながら、それを実務に活かしていく。さらに知財・特許の面においては、どうやって商標や意匠として登録していくのか、から実際に自社のブランドをどう守るかまであります。

最近は海外のいろんな特許侵害の問題があるので、これからは防衛的だけでなくアクティブな知財戦略を考えていかなければいけない。それらを具体的な調査研究活動と会員とのコラボレーションの中でできればと思っています。

大石氏:企業のブランド戦略や知財戦略をサポートするということですが、それは企業からの依頼があってからやるものですか?それともなんらかの情報発信をしながら、会員の皆さんにこういうサービスがありますよとアナウンスするのですか?

陶山氏: 両方ありますね。知財分野の方というのは、法務や総務などの部門ですから、あまりマーケティングや営業の経験をされていない方が多い。実際に商品開発の場面で、どういうネーミングをしたらいいかとなったときに、いくつか使えるネームがあったとして、最終的にどれを選ぶかというのはマーケティングの仕事、または商品開発の仕事だということになるんですね。

でもそこに知財分野の方も、自身がマーケティングマインドとブランドマインドをもう少し持っていただくことが必要かなと思いますね。こちらのほうからはマーケティングの情報やコンサルティングを提供して、知財分野の先生方からも、いろんな問題定義をしていただくと面白いんじゃないかと思っています。

大石氏: 大企業の場合は、自社に法務・知財部門があるから知財戦略を組み立てられますが、中小企業となるといろんな面で難しいでしょうね。

特許や商標・実用新案などを実際出すにあたっても、特に今みたいに先願主義が世界的に主流になってくると、中国なんかがどんどん先願してブロックするといった問題も出てきますからね。

陶山氏:中小企業で法務関係に十分な経営資源をかけられない場合には、当研究所が知財専門の方を紹介するなどのサポートの業務をしていこうと考えています。

さらにそこから、マーケティングや経営についても、当研究所の会員ネットワークを通じて繋ぎ合わせていけたら良いですね。

知財というのは大企業だってうまくいかないこともありますし、中小企業でも成功されているケースもある。先日研究所の定例会でお話いただいた金属工具メーカーの社長は、ご自身が特許関係の資格をとっておられます。

ただ、なかなかそこまでする方は多くないので、そこを当研究所がサポートできればと考えています。

大石氏:知財というのは国内でも大変ですが、グローバルにはもっと大変。僕の研究会でも以前、中国人の弁護士の方に報告していただいたんだけど、僕らの想像もつかない別世界で、専門家でなければとてもじゃないけど対応できないと思いましたね(笑)

陶山氏:知財って発想が全然違いますからね(笑)

大石氏:だけどそれを知った上でマーケティングはやらなくちゃいけない。基本は僕はマーケティングだと思うんです。ブランド志向のマーケティング。それを法務的にサポートすることが大変重要だと思うんです。

偽モノが次から次に出てくるから、徹底的に叩かないかぎり一気に広がってしまう。「もぐらたたき」と同じでコストもすごくかかる。でもそれをやらないと自分のブランドが海外で使えないといった大きな問題が起ってきます。今はもう中国だけじゃないですからね。インドネシアでもインドでもベトナムでも同じようなことが起っています。またそうした実情を知らないと大変なことになる。みんなそんなところで戦っているわけです。

だけど、このブランド戦略研究所が今後、委託研究なり会員の方々とのコラボで成果を出していけば、日本企業のひとつの指針になるのではないかと思います。
大石 芳裕
明治大学経営学部教授
 
1952年 佐賀県生まれ。九州大学大学院経済学研究科 博士後期課程。研究分野:グローバル・マーケティング複合化問題/グローバル・ブランド管理/グローバルSCM。グローバル・マーケティングの観点から、日本企業の国際競争力構築を研究・教育している。日本マーケティング協会、日本生産性本部、日経ビジネススクール、日経BP等での講演のほか、いくつかの企業の社内研修も引き受けている。
[学会・研究会活動] 日本流通学会 理事(前会長)/多国籍企業学会 理事/国際ビジネス研究学会 常任理事/異文化経営学会 理事/日本経営学会 アリア・エディター/日本商業学会 アリア・エディター/国際経済学会/グローバル・マーケティング研究会 代表世話人/流通経済研究会 世話人/一般社団法人 ブランド戦略研究所 顧問

[主な著書・論文] 『国際マーケティング体系』(共編著・ミネルヴァ書房・1996年)/『グローバル・ブランド管理』(白桃書房・2004年)編著/『日本企業のグローバル・マーケティング』(白桃書房・2009年)編著/『日本企業の国際化』(文眞堂・2009年)編著

明治大学大学院 経営学研究科 大石研究室
http://ooishi-lab.com/

グローバル・マーケティング研究会
http://gumaken.org/
陶山 計介
関西大学商学部教授

1950年 岡山県生まれ。京都大学大学院経済学研究科 博士後期課程単位取得。博士(経済学)。研究分野:ブランド・マーケティング。常に現場に目を据え、トヨタ、リクルート、JH、ハウス食品、イズミヤ、大阪府等多数の企業、各種団体の幹部研修も行い、産学交流を推進している。 文科省、経産省等の専門委員や大阪ブランドコミッティ・プロデューサー等、学外活動多数。英国エジンバラ大学マネジメントスクール 客員教授(2002年)
[学会・研究会活動] 日本商業学会前会長/日本広告学会元理事/日本広報学会元理事/一般社団法人 ブランド戦略研究所理事長

[主な著書・訳書] 『ブランド・エクイティ戦略』(共訳 ダイヤモンド社 1994年)/『ブランド優位の戦略』(共訳 ダイヤモンド社 1997年)/『バリュースペース戦略』(共訳 ダイヤモンド社 2004年)/『マーケティング戦略と需給斉合』(中央経済社 1993年)/『日本型ブランド優位戦略』(共訳 ダイヤモンド社 2000年)/『マーケティング・ネットワーク論』(共編著 有斐閣 2002年)/『大阪ブランド・ルネッサンス』(共著 ミネルヴァ書房 2006年)等

関西大学 陶山研究室
http://www2.itc.kansai-u.ac.jp/~suyama/

一般社団法人 ブランド戦略研究所
http://www.brand-si.com/
取材協力:一般社団法人 ブランド戦略研究所
取材:山部 香織/撮影:菅野 勝男/2012年7月

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