■ BRANDING #03

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■ BRANDING #03

グローバル・マーケティングとブランド戦略 日本企業の10年 (interview)

―――お二人は企業のブランド戦略室やマーケティング部署の方々に、実際に実施された戦略の手法や成功事例の内部ロジックといった、いわば企業秘密にされるような内容のお話を、競合企業も含めた他企業の方々に「伝える」という場を提供されています。これは、これからはブランドやマーケティングの考え方や視点を内外のコミュニケーションとして学んで欲しいという狙いがあって行っておられるのでしょうか。
大石氏: 私のグローバル・マーケティング研究会でいうと、2種類のタイプがあります。

一つのタイプは企業内で現役でバリバリ活躍されている方々で、自分たちのやっていること、悩んでいることをシェアし、仲間と一緒に考えていこうと考えていただく方々です。毎月の例会に150人くらい集まりますから、いろいろな意見が飛び交います。60分間の質疑応答が報告者にも参加者にも、大いに有益になっていると認識していただいているようです。

もう一つのタイプは大手企業の元社長や元経営陣の方々で、今の日本の企業に対する危機感を持っておられます。今の日本企業をみても、自分達の会社をみてもまだまだだと。これを啓蒙したいという思いをお持ちなんです。だから学生やほかの企業人の為に無料でも良いから話しますよと仰るんです。問題を皆で一緒に考えようと。そういうお気持ちですから、クローズにしないでオープンに話していただけるんです。 

まあ、全部が全部じゃないですけどね。「やっぱりそういうところで話すのはちょっと・・」という企業さんもいますから。でも以前に比べたら随分オープンになってきたと思います。 僕らがグローバル・マーケティング研究会を作ったのは1999年、陶山さんがブランド研究会を作られたのとほぼ同じ頃なんですね。

当時はホントに少人数で、「え?グローバル?」「グローバル・マーケティングって何?」って感じだったんです。これが数年続くんです。でもこの数年間でガラリと変わりましたね。
陶山氏: その頃は、企業が海外進出やグローバル展開をする中で、欧米企業のように歴史や伝統といった長年にわたって蓄積されたものがあるわけではないので、自分たちのビジネススタイルや考え方が正しいのかどうかを客観視できなかったんですね。社内での各部門間も結構閉鎖的で、異業種交流的な要素がほとんどなかった。

それをぶち壊して外に出してみようという動きが出てきたんですね。とはいえ企業秘密はある程度ブラックボックス化するけれど、できるだけ客観化していくことで、自分達の評価を考えようとした。もう一つはそのプロセスの中で、いわゆる暗黙知になっているものを形式知化すること。メンタルトレーニングじゃいないけど、今まで思いも付かなかった発想やアイデアが出てくる。実はそうだったのかといい気づきや発見があるんですね。
大石氏: ビジネスの世界には2種類のナレッジがあって、一つは暗黙知でなかなか外の人には判り難いもので、もう一つは形式知で、何をやらなければいけないかは判っているけど、なかなか「模倣」ができないもの。つまり、聞いたところで自分でやろうとしてもなかなかできないものです。 

前者は外に出したくても出せないんですけれど、後者は出しても他ではなかなかマネできない。 たとえばトヨタの「かんばん方式」はこうですよと、トヨタはそのしくみをオープンにして広めていますね。でも聞くほうは、それが良いと判っていても、全部それをマネしたところで、トヨタにはなれないんです。

マーケティングとかブランドというのは、暗黙知的なところがあって、一般には「アートとサイエンス」とかって言うんだけど、ほんとにアートの世界なんですよ。

アートの世界ですから、こういう形で花王がやりました、資生堂はこんな手法でやりましたと聞いても、他の企業はなかなかマネはできないんです。でも知らなかったこともたくさんありますから、「ああ、そういうことか」、「そのエッセンスはこうか」ということには気付くわけです。

欧米企業と何が違うかというと、欧米企業はベンチマークを徹底してやっているんですね。日本の企業はベンチマークなんてやったって新しいものなんかできないというんですが、違うんですよ。 ベンチマークをやることで、他社の良いところのエッセンスを知り、それを自分たちの中で改変していって、そこから新しいものを作り出す作業が必要なんです。 だから僕らがやってることというのは、その気付きやエッセンスを見つけてもらうことなんです。

僕は企業経営において、ブランドは「目的であり、結果である」と考えています。自社のブランド構築を目的として経営を行い、さまざまな取り組みの結果、ブランドが構築される。大小を問わず、日本企業がブランド志向になることを心から願っています。
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