■ BRANDING #06

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■ BRANDING #06

製品ブランドが形成するグローバルブランド vol.1

製品ブランドが形成するグローバルブランド

今回のブランディング対談は、一般社団法人 ブランド戦略研究所 理事長、関西大学の陶山計介教授と、ハウス食品株式会社 取締役専務執行役員であり、国際事業本部長の広浦康勝氏との対談です。ハウス食品は日本食としてポピュラーなカレーライスを、中国をはじめとする海外の一般家庭の食卓へとまさにグローバル展開を図っておられます。グローバルブランド企業に必要なのは、コーポレートブランドか、製品ブランドか。同社のお考えをお話いただきました。
製品への満足と信頼が基本
陶山氏:先ず、ハウス食品とはどんな会社かをお教えいただければと思います。

広浦氏:来年おかげさまで、創業100周年を迎える予定です。創業からの歴史を少し説明しますと、ハウス食品は1913年に創業者・浦上靖介が大阪に薬種化学原料店「浦上商店」を創業したことに始まります。

創業後程なくして、本格的にカレーの製造・販売をはじめ、1928年に「ハウスカレー」を発売、「日本中の家庭が幸福であり、そこにはいつも温かい家庭の味ハウスがある」という願いを込め、当時取得した商標には「IN EVERY HOUSE」(すべての家庭に)という言葉を記しました。

この言葉は私どもの社名の由来でもあり、この想いは連綿と受けつがれ、現在の企業理念である「食を通じて家庭の幸せに役立つ」のなかでもしっかりと謳われております。

1963年に発売しました「バーモントカレー」は、来年で発売50周年を迎えることになります。以降も、「フルーチェ」「とんがりコーン」「こくまろカレー」「北海道シチュー」「ウコンの力」等の製品が強いブランドとして、お客様のご支持を得ております。

陶山氏:この4月より国際事業本部長になられて、ハウス食品のグローバルブランディングの最先頭に立っていらっしゃいますが、今のお立場から見て御社のグローバルブランドのパワーをどうお考えになりますか?

広浦氏:ハウス食品の海外展開は、アメリカでは「豆腐」、中国では「カレー」、今年に入りタイで「機能性飲料」の事業を展開しております。まさに、これからが海外事業展開をもう一段シフトアップするステージに来ています。

「ハウス食品」のグローバルブランドという点においては、認知はまだまだ低く、製品ブランドを重視した事業展開がベースであると考えています。

お客様にお買い上げいただいて、満足していただくことによって、その製品に対する信頼を得る。そこから製品ブランドが形成され、その結果として、強い製品ブランドを提供する企業の姿勢を認識していただける。むしろそういったステップを考えるべきではないかと思っています。

今我々の海外におけるブランド戦略も、目的と手段を混同してはいけないと考えていまして、やはり基本は製品への満足と信頼、そこからコーポレートブランドにつなげていく図式が重要だと考えています。満足のレベルも、記憶に残る、ダントツの満足でなければなりません。

陶山氏:欧米の場合、P&Gやユニリーバといったコーポレートブランドはほとんど後景に退いていますね。たとえば、洗剤や食品など個別のプロダクトが表に出て、あとからそれをサポートするような形でコーポレートブランドが来るというスタイルが比較的多いようです。

これに対して日本の場合、コーポレートのアンブレラ効果が強く、それへの消費者の信頼や安心がないとなかなかプロダクトに対してロイヤルティが形成されません。

しかも次から次へと商品開発が行われるので、まずコーポレートがしっかりと信頼と安心を担保することが前提になっています。

例えばアタックという洗剤も、当初は「花王」という企業名と「アタック」という製品名がセットになっていました。

その後プロダクトが自立するようになると、「アタック」が先に出て、「花王」は最後に回るというように変わってきました。今の話からするとハウス食品の場合はどちらかというと欧米流のスタイルですね。

広浦氏:ASEANでの展開で考えると、日本ブランドであるということが既に信頼に繋がっています。しかし、出身が日本かどうかではなく、それぞれの国において、信頼され、なくてはならない製品、ブランドになっているかどうかがポイントです。

陶山氏:私のところの大学院生の修士論文で原産国効果を研究したものがありまして、欧米の場合昔からP&Gやユニリーバがあまり前面に出てこなかったように、日本とアメリカ、ヨーロッパ、中国、韓国の5カ国で、TVやTVゲーム、PC等の原産国に対して中国・瀋陽の大学院生がどんなイメージを持っているかを調査したんですね。

日本はどちらかというとネガティブなイメージを持たれているんですが、製品の原産国やコーポレート、プロダクトになると良いイメージになるんです。PCではソニーや東芝等がありますし、TVゲームでは任天堂がそうです。

メイドインジャパンという原産国効果もありますが、一番良いブランドイメージを持たれているのはプロダクト、次いでコーポレートでした。

食品の場合は、国や地域によって違いがあってかなり嗜好性の占める比重が高い。特に中国だとエリアによってもかなりテイストが違うので、それぞれのエリアで支持されるかどうかが一番大きなところですね。そこでは社名を出してもあまり効果がないということなんでしょうね。

広浦氏:それともうひとつ課題がありまして、今後の海外への展開においてハウスの創業精神でもあるファミリーのイメージ、親が子を思う気持ちや、家族を大切にといったハウスの企業理念を伝えていく手段を、もう一度考えていく時期にあるとも思っています。

陶山氏:2008年に松下がパナソニックへと社名を変えましたね。パナは「汎」、ソニックは音という意味を持つある種のレンジブランド名ですが、そういった音やビジュアルなどの、新しい先進的な姿というものをコーポレートでもプロダクトでストレートに打ち出したいということでしょうね。

広浦氏:グローバル企業としての考え方を起点に置いたのでしょうね。

陶山氏:ええ。それと旧社名の松下「Matsushita」という発音が、「Mitsubishi」と間違えられるということもあったみたいですね。

三菱のスリーダイヤのマークが海外では結構ポピュラーになっていて、創業家の個人名でもある松下が、発音的にもインパクトも弱く、むしろ世界的に通用しているパナソニックに変えようということになったと聞いています。

以前に学生にパナソニックと松下とどっちが良いイメージを持っているかと調査したのですが、圧倒的にパナソニックが強く出ました。ナショナルは白物のイメージが強く、若い世代には受けませんでした。

パナソニックの製品を使っている若者が、30代、40代になれば、自然とそのトーンの延長で冷蔵庫や洗濯機を買ってくれるだろう、そこには先進性というイメージもちゃんと入ってるんじゃないかと思いますね。

ハウス食品さんも原点に戻って、外での仕事や学校などが終わって、帰ってくるわが家というイメージ、それをロゴとかシンボルを用いてもっと訴求していかれたらいいのではと思います。

広浦氏:そうですね。この「h」のロゴにも、ある意味を込めています。

陶山氏:そのマークはいつごろから使われていますか?

広浦氏:1980年からです。この「h」のロゴにはhumanity(人間性)、 health(健康)、happiness(幸福)の3つの意味がこめられているのですが、当時の思考としては、創業の精神というよりむしろ企業としてあるべき姿を示すというウエイトが強かったんですね。

そうした将来のビジョンを設定した上で企業理念やロゴマークが決まっていきました。来年で100周年ですから、もう一度原点に戻るというステップに来ているのかとも思います。

陶山氏:パナソニックの子会社になって今はなくなりましたけど、三洋電機のコーポレートマークSANYOでNの上に伸びる5本線は「あるべき姿」、下に伸びる5本線は「行動基準」をあらわしているということだったのですが、でもその意味が社員の皆さんにはきちんと伝わっていなかったという話を聞いたことがありました。

毎日襟に社章をつけているんだけど、自分の会社がどういうビジョンやミッションを持っているかが伝わっていない、いわゆるインナーブランディングがなされてなかったということでしょうね。どういうミッションをかかげて自分たちが仕事をしているのかということが、日常的に必ずしも意識されていなかった。 今思うとそうした「CI」というところからやらなくてはいけなかったのではと思いますね。

広浦氏:社内でインナーブランドという言葉は使っていませんが、やはり「マーケティングが追求する価値って何だ」という論議をくりかえして来ました。つまり我々が働くことの喜びは、最終的には何かという論議と理解をきちんとしないといけないと思います。

うまくいった製品とか、むしろそうでなかった製品のレビューをして思うことは、やはり目的が何かによって判断するときの甘さなり優先の違いになると思います。 あくまでもどういう価値をお客様にお届けするのか、そこからお客様の満足と評価を得て、それが我々の目標なり喜びに戻ってくるような考え方と思考。そこが最も重要だと思いますね。

 


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