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■ CREATIVE #12

京都の経済を培う文化の厚みとは vol.1

京都の経済を培う文化の厚みとは

今回は経済評論家の岩本沙弓氏と、京都 清水焼を専門とされる巧芸陶舗「東哉」店主の山田東哉さんです。「東哉」さんは大正8年(1919)初代陶哉、洛東清水音羽山麓において創窯され以来90年の老舗。歴代の歌舞伎役者の方々からも贔屓にされ、また日本の映画史に残る小津監督の作品にも数多く作品が登場しています。山田氏のお父様である初代店主 山田隼生氏は小津監督の映画作りに貢献、芸術、工芸など日本文化のアドバイスを務められました。地方経済を語る中でも独特の世界を保つ「京都」について、山田さんにお話をいただきました。
岩本氏: 東哉さんは小津安二郎監督の映画にずっと携わってこられたそうですね。先日(2013年12月12日付)の京都新聞にも大きく取上げられていました。

山田氏: 昨年(2013年)が小津監督の生誕110年ということで取材いただきました。僕はもちろん年代が違うのでお会いしたこともありませんから父の話ですが。

岩本氏: 小津監督のファンは今もかなりおられるのでしょうね。

山田氏: 全国規模のファンクラブがあるそうですし、また毎年蓼科高原で映画祭もされているそうです。そこに関わっておられるヒラサワ陶器さんから、映画に使われた作品を貸して欲しいとご依頼いただいたこともあります。

岩本氏: 小津監督ゆかりのものですものね。

山田氏: ええ。この部屋の竹製の電気傘もそうなんですよ。

岩本氏: これも映画でお使いになったのですか?

山田氏: 小津さんの映画を見ていると出てきますよ。どこかの料理屋さんのシーンとか(笑)僕は全然知らなくて、小津監督の生誕100年のときの取材で知りました(笑)

岩本氏: 気が付けば映画に備品が(笑)
山田氏: あれこれ載るようになってからずいぶん反響をいただきました。同じものは売ってないのですか?とよく聞かれましてね。

それで作るようになったんですけど、一生懸命売ろうと思って作るより、お客さまの方から欲しいと言われて作ったものの方が良い気がしますね。そんなものかなと思います。これもそうです。

岩本氏: 干支の置物ですね。

山田氏: 干支も4周りぐらいしていますからひとつの干支で4~5種類のデザインがたまってきました。毎回少しずつデザインを変えているので、それが頭痛の種になりますけど(笑)最初は銀座で12月に商品をお買い上げいただいた方に、ちょっとお印で差し上げてたんです。

京都で作られた土鈴を父が買ってきて。でも干支ですから毎年変わるでしょ。だんだんお客さまから毎年欲しいと言われて、そのうちにもっと数が欲しいから買いたいとなって。

岩本氏: 一つ集めると欲しくなってきますよね。

山田氏: 干支ですから十二支揃えたくなるんですね。たまたま始めたものだけど、売るなら自分とこで作ろうとなって。

最初は土鈴ですから紐がついていたんですが、そこは父らしく置物でいこうということで紐を取りました。小津さんのものと同じで、売ろうとして作ったものじゃなく、求められて自然に続いてきたという感じです。
岩本氏: 今年の干支は馬ですね。

山田氏: 「左り馬」ね。

岩本氏: 「左り馬」の由来を教えていただけますか?

山田氏: 諸説あるようですが、一応、尾が向かって左で頭が右に向いて飾るというのが「左り馬」だそうです。

どういうように縁起が良いのかはいろんな業界で色々と意見があるようですけど、「左り馬」が縁起の良いことは京都の人なら誰でも知ってはります。

岩本氏: 一説によると、という感じですか。

山田氏: いえ、京都は右と左はうるさいですから。お雛さんも反対、じゃなくて他が反対なんですけどね(笑)あれは京都だけではなく日本全国そうだったんです。

それが明治天皇の御真影が出たとき、天皇は向かって左側で皇后が右側のお写真が出回ったんです。つまり西洋式に立たはったんです。そこからお雛さんも全国津々浦々そうなってしまったんです。

「君子南面す」で南に向かって左が上席。左大臣の方が右大臣より位は上ですからね。反対になっていると絶対に許せないんです(笑)

岩本氏: 京都の方は特に?

山田氏: 本当の飾り方というものがありますから。古い時代の絵も全部そうなっています。滋賀県でもお雛さんをたくさん段飾りで見せてはりますが、ちゃんとしてはりますね。
岩本氏: 我々は全く気が付いてませんが、細部にわたり独特のこだわりがある。

山田氏: こだわりには意味があることなので、それは大事にしていかなければいけないですから。

岩本氏: 私自身、自分の出産祝いを頂戴した時のお返しから始まって、贈り物を選ぶ際には毎回いろいろ山田さんに相談させていただいて、京都では水引であればこういうしきたりがあるんですよと教えていただいたり。

こうしてお店に伺って店主の方とあれこれ相談しながらというのがものを買う本来の姿なのではないかと思うのです。実際に伺わなければお聞きできないこともたくさんありますから。

ものを手に入れるというだけではなくて、ものを買うプロセスにも充実感があるというのはとても心地よいなと思うんです。

山田氏: 以前ネットショップのお客様で、お祝いにされるのに選ばれた水引が銀帯だったんです。画面での選択を間違われたのかなと思って直接お電話すると「銀色がカッコ良かったから」と仰るんです。

岩本氏: 全く逆ですね(笑)

山田氏: びっくりでしょ。銀帯は仏事ですよというと、えー知らなかったと。こちらの常識で思っていることが意外とご存じないことも結構あるんですね。

でも今私は65歳ですが、うちの父が65歳の頃だったらもっといろんなことを知っていただろうなと思います。

同年代の友達からは「いろいろ知ってるなあ、そういう仕事やもんな」と言われますけど、父の頃を考えたら全然お恥ずかしいです。おやじが生きていたら「何を偉そうに」と言うでしょうね。
山田氏: 着物の染めやデザインをされている方に聞いた話ですが、弟子入りすると本業の勉強の他に、まずお謡を覚えんならんそうです。

まずお謡を習って、そこそこできるようになったらお座敷行って、またいろんなことを覚えるんですね。何のためかというと、お謡の中には日本文化のいろいろなものが凝縮されてるわけです。

ある程度の年代になって、お客さんに「こういう場に合う着物を作って欲しい」と言われた時、何がどうなのかわからないといけませんから。

岩本氏: イメージができないということですね。

山田氏: ええ。何もわからない弟子入りしたての時からとにかくお謡を習わされたそうです。

岩本氏: 着物とは全然関係ないようにも思いますけれど実はとても意味があるのですね。

山田氏: ええ。お謡を習うのはお金かかりますが、それを師匠がさせてくれるということが素晴らしいことだと思います。

岩本氏: そこまでされて、文化というものが出来上がってくるのですね。

山田氏: やはり着物の業界は贅沢やなと思いますね(笑)

岩本氏: そういうことがとても大事で、そうやって伝統や文化の深みが着物には出てくるのですね。

2014/01/19


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