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京都の経済を培う文化の厚みとは vol.3

山田氏: よく清水焼と言われますけど僕らは京焼と言います。京焼に対して他のものは国焼と言うんです。別に見下してるわけじゃないんですよ。

岩本氏: はい、差別をしているわけではなく、区別をつけてるんですね。

山田氏: 備前でも萩でも国焼はその地場で土が出るので発展したやきものです。京都はほとんど土がなくて、何百年前から土を各産地から取り寄せているんです。

やはり都ですから腕に自信のある人たちが一旗上げたいと各産地から来るんですね。そしてお客様として公家をはじめ大きな神社やお寺があった。

つまり、鑑識眼の高い多い人達が育ててきた。そうして材料が集まり人が集まり技術が集まってといった「都会型」のやきものなんです。

仁清にしても金森宗和という大名茶人がパトロンであり客でしたから。そうした文化や文化人の好みを当て込んでデザインしてきたんです。

国焼は自分とこの土で作ったものを気に入った人が買うということですが、お客様の好みに合わせて作るのが京焼。やきものだけでなく着物も同じ。そういう産業なんですね。

岩本氏: 人が集まりお金が集まるところに芸術が生まれたということですね。そして、そこにはお客様の好みに合わせて、というエッセンスが入っている。
山田氏: 京焼だから何でも良いかと言われるとそうでもないんです。武蔵美の時に先生に言われて覚えてるんですけど、「好き嫌い」と「良い悪い」をはっきり分けられる人がプロだと。

つまり素人さんが見て「わあ、かわいい。私これ好き」と言っているのは、「良い」ということと同義語になってしまっているんですね。

岩本氏: なるほど、「好き嫌い」で判断する部分と、それが「良い悪い」ということとはまた別の視点を持つわけですね。私なども何もわからないまま好きか嫌いでかしか判断してないと思います。

山田氏: そこで「嫌い」と言われたらおしまいでね。「いい仕事してますね」という種類の良い悪いの話と、好き嫌いの話とを分けないと、お客さんと同じレベルになってしまうんです。

岩本氏: 何でもそうですね。好き嫌いだけだとすごく狭い範疇になりますけれど、良い悪いとなるとずっと広がりますね。

山田氏: 父はこの京都の店を改装するのに反対だったんです。「ここでは観光客も京都の人間も買わへんで」って。

観光客はパッと来てこれ1万円?って感じで買わないし、京都の人も友達や親戚に窯屋さんや問屋さんを誰か知っていますから、千円のものをそのまま千円で買わないんです。

僕らだって着物を買うとなると誰か知り合いがいますから。そういうことが京都ならみんなあるんです。

岩本氏: 皆さん、京都の中ではどこかで繋がっているんですね。

山田氏: だから京都でやきもの並べて千円のものを千円で売るなんて、そんなもん絶対売れないというのが父だったんです。ですが身体を悪くして東京で入院している間に改装しようと(笑)

岩本氏: その間にされたのですね(笑)
山田氏: 今となるともっと前からやれば良かったと思っています。東京の人たちはこういう雰囲気が好きですから。

岩本氏: そうですね。やはり私も東京に居ました頃はこちらのお店に来ると、京都に来たという気持ちになりましたから。

山田氏: 逆に銀座店のイメージが良くなりましたね。京都に来られて銀座にもあるんですよって言うと、このイメージを持ったまま銀座店に行っていただけるのですごく役立ってると思います。ギャラリーみたいな感じでしょうね。

ここ京都でバンバン売れるということはありませんから。冬だったら寒いままでしょ(笑)火鉢一個置いてあるだけだし、夏は暑いし蚊はくるし(笑)

岩本氏: 置かれている火鉢1つを取ってみても、とても雰囲気がありますので、それだけで京都の伝統文化に触れられるようで、私もここにお邪魔することがとても楽しみになっています。

山田氏: まあ伝統と言っても、京都はなんせ100年でも大した事ないですからね。まだまだうちなんかお祖父さんの頃からいうてもギリギリ100年いくかいかないかですから。300年400年というもっと上がゾロゾロいはりますから。

岩本氏: 京都は何百年と続いてるところが本当にたくさんありますね。よく聞かれる質問ではあると思うのですが、京都にお店を構えている方として、なぜそこまで長く続いてこられたと思われますか。

山田氏: やはりかつて都だったからでしょう。運よく先の戦争では焼けませんでしたが、京都は大昔から焼けてばっかりなんです。でもやはり天皇がおられた都だからと再建されてきたんです。

岩本氏: 今は天皇も東京へ移られてしまわれましたが、それでも尚ここは独特の経済が存在しています。観光客の方がお金を落していくことも大きいとは思いますが、京都のそうした千数百年の文化的な背景から、使う時には使うといったところでうまくお金が循環しているように感じます。

山田氏: 昔の遺産で生きてるようですが、京都には僕らでも知らないものがまだまだたくさんあります。いろんなルーツが京都にありますからそこが面白いところでしょうね。
岩本氏: 京都は観光地ですから積極的によその人を受け入れようというスタンスがある一方で、自分たちとよそから来た方とは全く違うという線引きがしっかりありますよね。あなたは観光客だから。あなたは東京出身の人だからと。

でも逆にいうと、自分の立ち位置がはっきりしているということは、私なんかは案外心地良いのです。変に馴染んでいこうとしないほうが、京都では過ごし易いのかなと思っています。

山田氏: うちの家内も栃木出身ですから今だに変な京都弁で(笑)

岩本氏: 誰かが話したことをそのままリピート(繰り返して)真似することはできても、自発的に京都弁を話せるかというと、ここに7年以上いますけれど、全く駄目です。私もだんだん京都弁を喋れるようになるものなのでしょうか?

山田氏: イントネーションは抜けないでしょうね。

岩本氏: そうですね、だとすると無理そうですね(笑)

山田氏: クモ(雲)とかクモ(蜘蛛)とかもう意味わからないでしょ(笑)

岩本氏: はい(笑)。2代続くとようやく馴染んできますかしら。

山田氏: 3代かもしれません(笑)

岩本氏: 自分だけの世代で解決しようとする発想が京都的にあらず、貧相で短絡的でした。おばあちゃんになる頃に3世代を通じて順応する、それぐらいの時間軸でいきたいと思います(笑)
山田 東哉(悦央)
株式会社 東哉
代表取締役社長
陶芸家
 
1948年 京都生まれ。武蔵野美術大学インダストリアルデザイン科卒。デンマーク国立美術大学(クンスト・ハンド・ヴェアク・スコーレン)陶芸科に留学。1971年 当大学の教授で、有名な陶芸家であったフィン・リュンゴード氏に誘われて、製作助手となり、スウェーデン、その他での彼の個展を手伝う。その後世界各国の美術系学生を対象としたデンマーク・サマー・デザイン・スクールでフィン教授について、陶芸科の講師を務める。初代陶哉が1919年に清水音羽山麗にて創窯し、先代が1936年銀座に店舗開設した「東哉」を受け継ぐ。伝統的な京都の“雅”に、東京の“粋”を取り入れた「粋上品」の器物を創出する。ミラノトリエンナーレ金賞受賞(1953)、ブリュッセル万国博覧会グランプリ受賞(1958)、第二回日本グッドデザイン選定(1958)。茶の湯の稽古は祖父以来関係の深かった武者小路千家と定め、先代有隣斎宗匠の下に入門。直門官和会会員として現在に至る。
 
東京銀座本店(金春(こんぱる)通り)
〒104-0061 東京都中央区銀座8丁目8番19号東哉ビル1F
TEL:03-3572-1031
営業時間:11:00~18:30
定休日:日曜・月曜・祝祭日
※土曜日は午後18時まで

京都清水売舗(茶わん坂)
〒605-0846
京都府京都市東山区五条橋東6丁目 539-26
TEL:075(561)4120
営業時間:10:00~17:00
定休日:火曜日

株式会社 東哉
HP: http://www.to-sai.com/
岩本 沙弓
金融コンサルタント・経済評論家
大阪経済大学経営学部客員教授
 
青山学院大学大学院 国際政治経済学科修士課修了。1991年より日・米・加・豪の金融機関にてヴァイス・プレジデントとしてトレーディング業務に従事。 日本経済新聞社発行のニューズレターに7年間、為替見通しを執筆。金融機関専門誌『ユーロマネー』誌のアンケートで為替予測部門の優秀ディーラーに選出。現在、為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、英語を中心に私立高校、及び専門学校にて講師業に従事。政権政策会議などの講師に招かれる。主な著作に『円高円安でわかる世界のお金の大原則』(翔泳社)、『新・マネー敗戦』(文春新書)、『マネーの動きで見抜く国際情勢』(PHPビジネス新書)、『為替占領』(ヒカルランド)他。Office 『W・I・S・H』代表
 

HP: http://www.sayumi-iwamoto.com/
FB: sayumi.iwamoto
取材:2014年1月

2014/01/19


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