■ CREATIVE #06

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■ CREATIVE #06

時代の潮流をつかむ視点 vol.3

「情報と先見性」そして仲間
佐野氏:社長が僕の年の頃はものすごく活躍されてましたね。

佐戸川氏:その頃は世の中が進化していく過程だったから、いわゆる論理的なオリジナリティというんじゃなくて、「新しいこと」をやっていた時代なんだ。

僕はいつも「情報と先見性」ということが頭にあるんだ。情報をたくさん集めなければを先を読めない。先を読もうとしたら情報が要る。

僕らは常に360度人から見られてるという意識を持って、背筋を常にピシッとしてなければいけない。そうして自分の身繕いから言動、行動を全部正していく。

そういう自意識を持つことが自分の職業的なポジションであって、その中から新しいものを生み出して行かなければ存在意味がない。それがクリエーターの宿命なんだね。

佐野氏:常に新しいデザインとかね。

佐戸川氏:そう。今までと同じことや他の人と同じことをやっても、誰も感動しないし買ってくれない。消費者って実利的な要素だけじゃなくて、「これを買おう」と思う感動がないと買わない。その感動は何かって見抜くためには、常に「新しい」ことが重要なんだ。

でも、その「新しい」ことを見つけるためには、常に世界がどう動いているのか、何が一番新しいのか、その情報を一番最初に身につけることが必要なんだ。その情報があるからこそ、他にない違うものができる。それが僕の生き様のベースだね。

佐野氏: そういう情報を吸収した上で作るから間違いがないんですね。

佐戸川氏:今は昔と違って情報っていくらでもあるんですよ。新聞だ、雑誌だ、テレビだ、ネットだって。で、その情報をどの視点で捉えて、どう感性処理して自分のものにするか、または表現することができるか、そこが一番大事なんだよ。

佐野氏: 解りやすく人に発表する?

佐戸川氏:人に発表するだけでなく、自分自身の方向を決めるってことね。僕たちは常にビジョンを作ってそこに向かって動かないといけない。

例えばボールを遠くまでポーンと投げる。投げたボールの糸を手繰って行く。たどり着いたらまた、さらに遠くへボールを投げる。そしてまた手繰っていく。それが僕の仕事のやり方なんだね。

で、ボールを手の届かないところに投げるんだから、そこにたどり着くためには周辺を巻き込んでいくエネルギーが要る。ぼくのエネルギー源はそこなんだよ。

佐野氏:自分だけじゃなく回りも巻き込んでね。

佐戸川氏:そう。でも重要なのはどこに投げるか。どんなに情報がたくさんあっても「待てよ。」と思うわけね。つまりその情報を読み切った上でその先へ投げるという作業をしなければいけない。

そしたら周りの人が見て「よし、あいつがやるなら一緒にやろう」って集まって来る。集まってくるんだよ、これが。

最近判ったことがね、ものづくりでもプロダクトデザインとして、椅子をひとつ作るとするよね。僕が勉強した時代って、1個の作品を作るのに、最初にまず発想があるんだ。それも、こんなものを作ろうっていう発想。

でもそれって自分が座りたい椅子なんだね。つまり発想の元が自分。で、それから材料を選んで加工を考える。でもそれって良く考えてみたら30年50年も前に取得した技術なんだよ。

佐野氏: 若い頃の?

佐戸川氏:そう。若い頃ってなんでもできるっていう傲慢な自信があるからね。で、椅子のデザインをした、スケッチもした。ところが最近はね、コンピューターではじめから完成品のような画ができちゃう。

こういう造詣にするには技術的に可能か不可能かという画までできちゃう。ぼくは腹の中でそんなの絶対できるわけないと思ってるんだよ、やれるならやってみろと思ってる。でも「出来る」って返ってくるんだよ。それでびっくりしちゃう。

佐野氏: 技術は進歩してますからね。

佐戸川氏:そう。もう一人のデザイナーがさ、30年前の技術の感覚で「できねえだろ」って思ってもできちゃうんだね。今は宇宙に行けちゃう時代なんだからさ。

それでもう、俺の知識だけじゃどうにもならないなと思ったわけ。考えてみたら、ひとつのモノを作るのに、若い時なら失敗も許される。でも今の経済背景を考えたら、僕の使命として失敗は許されないわけよ。多大な投資をメーカーにさせて、商品をつくらせて、それを売って稼がないといけないわけだから。

年代的にも許されないし、社会的にも許されない。企業的にもそんな余裕はない。絶対成功しなくちゃいけない。これは自分のわがままだけでモノを作ってしまったら絶対にいけないと思ったね。

そこで何をやったかというと、まず出口を最初に考える。こういう需要があるのかないのか、最終カスタマーはそれを望んでいるのかどうか。営業から、小売店の店頭から、いろんなところから情報集めてもらう。で、これはいけるかもしれないとなると次は作れるかどうかって話。

作れるとなると、じゃあそれはどのくらいの難易度でできるのか、はたしてコストに見合うものなのか。世の中にフィットする価格が出るのかどうか、それにどんな技術を使えるのか。しかも俺ができないだろうってタカをくくってたのに「できる」っていう根拠は何なのか。で、出来上がったとして、扱ってくれる小売店がどう考えるのか。

昔は小売店だけだったけど、今は住宅メーカーも家具を売ったりするから、いろんなところが出口になる。それら出口が最後にNOと言ったらもうだめだから。で、いまさらながらやっぱりこれは連携が必要だな。いろんな人と総合的に交流してモノを作らなければ成功するわけないなと思ったね。

そうやってできた商品が「CONDE HOUSE(カンディハウス)(北海道旭川の家具メーカー」の“WING LUX”って商品なんだよ。

佐野氏: モノの良し悪しも重要ですけど、企画から出口までを一環して見るから実際に売れるということになるんですね。

佐戸川氏:僕は最初建築家になりたかったのね。バードアイ(鳥の目)で見るっていう、つまり鳥が空を飛んで上から見ると、ここに山があって、たんぼがあって、野原があるな、道路があるなってわかる。

そこでここにこういう建物があるといいなというのが見えるんですよ。いわゆるランドスケープね。そういう目を若い時に養った。

で、建築が面白いのは、柱一本欠けても、ドア1枚無くても完成品じゃない。それには建築家だけじゃなくインテリアデザイナーも必要で、そこで生活するモノを選ぶ人も必要で、それぞれの連携が必要になる。

そうするとバードアイの上のほうからスーっと下へ降りると針の穴のようなものも見えてきて、ここの出来が悪いぞとか、ここが良いなとかがわかる。つまり、両方を見る目を持たなくちゃいけない。

そこでなにが大事って周辺にいるブレーンが大事だね。ブレーンの最たるものが社員なんだからね。佐野ちゃんも、このスタジオが完成するまではいろいろみんな陰でやってくれてたよね。

けして高額な給料払ってるわけじゃないと思う。だけどこの仕事が好きだっていう人があなたの周辺にいるから今ができてるんだよ。人は宝だよ。

佐野氏: 本当にそうですね。ここのオープンもみんなこだわって、けんかしながら毎日遅くまでいろいろやってくれましたね。

佐戸川氏:経験あるかもしれないけど、会社が大きくなったり小さくなったり、仕事が増えたり減ったりした時って人を切りますよね、まあダメなヤツは切っても良いとおもうけど。でもやっぱりあの辛さあるじゃないじゃない? 

最近判ったんだけど、リストラクションっていう人的な価値を失うってことは何なのかって。どんな人にしろ一応出会いがあって触れ合って、会社に入ってきた、または周辺にいた。人を切れば血が流れるって言うけど、その人をバッサリ切ったときに知識の「知」が流れるってことが判った。

その「知」の価値ってのは、どんなにダメだと思ってても、どんなに役に立たないと思っても、その人間を切ったときにはじめて、ああ、こいつが持ってる知識が流れたな、取り返しのつかないことになったなと、僕はリストラした時にすごくそう感じたね。今は何が大事かって、人こそ大事なものはないと思うね。

佐野氏: いやー。そのとおりですね。

佐戸川氏:佐野ちゃんもそうだろ?さまざまな専門家があつまって連携して、その専門家の上にモノが成り立ってる。会社もさまざまな役割りを持った社員が集まってこそ、初めて体面が保てて組織が動く。できるだけ大事にしなくちゃね。

まあ、結論としては、そうやってみんなの上前ハネて、美味しく飲むことが楽しみだね(笑)

佐野氏:え、それは内緒にしていただいて(笑)

佐戸川氏:いやいや、俺は社員にバンバン働いてもらって、その代わりに充分な給料を与えて、有り余る利益をどうやって使うかって考えながら、毎晩銀座で飲むのが夢だな(笑)。佐野ちゃんの夢は何?

佐野氏:ぼくも毎晩シャンパンをガンガン開けたいなとおもってますが、今はまだちびちびと。

佐戸川氏:あー。ずっと夢で終わるなそれは。そう世の中甘くない(笑)

佐野氏:そうですか(笑)

佐戸川氏:やっぱりね、経営って楽しい。さまざまな人の出会いがあって、さまざまな環境との出会いがあって。

なによりも自分の世代や仕事の領域を超えた人と知り合って仕事ができる。

その中で有り余るというのは冗談だけど、報酬をみんなで分かち合えて自分も楽しい思いができる。

そんな本当に身の丈のビジネスができればね、僕の世代としてはそれで正解かなと思うんだよね。

佐野氏:ぼくはまだ61歳ですから、もっと自分の殻を打ち破って大きく成長したいですね。まだまだここで終わりたくない。僕の夢はいわゆる成金でしょうね(笑)

佐戸川氏:(笑)まあ成金ってのは、1945年に日本が第二次世界大戦に敗れて、この国を建て直すんだって、焼け野原の中で体を張ってがんばった人たちが沢山いたんだよ。

多少のクセもあったかもしれないけど、がむしゃらに頑張った。それで金を稼いでうんと贅沢をしたんだ。豪邸に住んで、夢のような車を買って、周りに人をはべらして遊びたい放題やった。それをジェットセット世代っていうんだよ。成金の走りだな。

40年代後半から60年代、70年代くらいまでで、東京オリンピックがいつも話題になるけど、そこまで頑張るだけ頑張り続けて果てていった人たちもいるわけだよ。戦後の日本を構築してきて、それを楽しんできた人たちもいた。

そういう見本がないとね。その世代がそういうの見せてくれなかったら、「俺だってああいうふうになりたい」と思わなかっただろうね。まあ「あんな苦労はしたくない」ってのもあったけど。

それを見てた俺たちは、第二世代としてあの人たちを超えるようなことをやらなくちゃいけないと思って、しゃにむに頑張ってきたんだ。今は高齢者だからお前ら要らないって言われるけど(笑)。

でもこれが面白いんだ。まだまだ生きる能力を持っててね。その能力っていうのが、さんざんに溜め込んだ知識をどんどん惜しみも無く若い人に分けてあげることだと思うんだよ。それでもし、余禄があれば自分の好き勝手すれば良いと思ってるんだ。

でもさ、やっぱりかみさんほど大事なものはない。今はできるだけ一緒にいる時間を作ろうと思ってるね。

佐野氏:僕は未だに家にはあまり帰れてないです。

佐戸川氏:そうか。まあ、オヤジが元気ならいいよ(笑)
佐戸川 清
インテリアデザイナー/プロデューサー
株式会社ゼロファーストデザイン
 
1941年東京生まれ。1981年 (株)ゼロファーストデザインを設立。国内外における環境デザイン、工芸工業、プロダクトデザイン、インテリアデザイン及び商業空間、百貨店、ライフスタイルショップ、家具専門店の企画・VMD・イベントプロデュース等を手がける。東京国際家具見本市(IFFT)、メゾンエオブジェ(仏)、アンビアンテ(独)、KUKA(中国)など数々の国際的インテリア見本市において、自治体等の企画展示プロデュースに実績多数。社団法人国際家具産業振興会 理事/社団法人インテリア産業協会 理事/社団法人日本インテリアデザイナー協会 理事/社団法人日本インテリア学会 理事 [著書] インテリアトレンドビジョン/―世界のインテリア情報発信(トーソー出版)

株式会社ゼロファーストデザイン
HP: http://zerofirst.co.jp/
佐野 真士
ビジュアルソリューションプロデューサー
有限会社 スタジオテック
 
大阪生まれ。1975年 株式会社サンパブリシティーに入社。1980年 ファニーカンパニー(山名良忠)に師事。1984年 シンクススタジオにカメラマンとして参加。1987年 佐野スタジオを経て有限会社スタジオテックを設立

有限会社 スタジオテック
HP: http://www.studiotec.co.jp/
撮影:菅野 勝男/取材:2012年7月

2012/07/04


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