■ BRANDING #07

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■ BRANDING #07

ブランディングの先にあるもの vol.1

ブランディングの先にあるもの

今回のブランド対談は、一般社団法人 ブランド戦略研究所 理事長、関西大学の陶山計介教授と、株式会社スターフライヤー CS推進室長 川路利嘉氏との対談です。 川路氏は、創業時より同社のブランド戦略の基盤創りに携わり、コミュニケーション&ブランド戦略部長、東京支店長を経て、現在は顧客視点でのCS推進業務に従事されています。

スタイリッシュで先進的なブランド戦略で知られるスターフライヤー社。今期からは「LCC」という表現を取りやめ『ハイブリッド・エアライン』として第2ステージへと進化した事業展開への方針を示されました。業界未踏のハイブリッドエアラインとは何か、そのブランディングの先にあるものについて語っていただきました。
「ハイブリッド」のポジショニング
陶山氏:御社は今期、ハイブリッドLCCからハイブリッドエアラインへの転換を発表されました。

川路氏:弊社は2002年12月に創立後、2006年に初就航しましてから6年になりますが、我々はもともとLCCが出てこられる前からハイブリッドエアラインという業界のカテゴリーとして、LCCと一線を画す、またレガシーキャリアとも違う展開でのポジショニングからスタートしております。

レガシーキャリアは少し高価なお値段でフルサービスを提供するといった事業展開をされていますし、逆にサービスをできるだけ削いで安い価格を提供するといった両極の展開をされているのがLCCになります。

弊社では「ハイブリッド」というところをポイントに、高品質なサービスを提供するという軸と、できるだけコストパフォーマンスに合う価格を提供しておりますので、レガシーキャリアとLCCのちょうど中間点にあるプライスゾーンですね。

陶山氏:通常、詳しい商品知識ときめの細かいサービスをお客様に提供し、比較的高いお買い物をしていただく百貨店等の高価格・高品質のサービスと、スーパーマーケットのようなロープライスロークオリティといったサービスの2タイプがありまして、価格と品質との関係はおよそ45度線を描くんですが、そこでの「中間」というのは、ポジショニングとしては難しいところではありますね。

川路氏:ええ、確かにそうですし、非常に難しいポイントでもあります。

陶山氏:商品やサービスの二極化、あるいはビジネスモデルの二極化などが昨今言われる中、その「中間」にはどのようなお客様がおられて、どのようなビヘイビアを育てる心理的な価格構造があるのか、あるいはそれに対してどのようなブランド戦略をするのかという点についてお聞かせいただけますか。

川路氏:就航する前に「感動ある航空会社になりたい」という事業理念を掲げ、それを実現するためには、お客様の不満がどこにあるのかをきちんと感じ取り、そこをベースにした事業を組んでいかないといけないと、徹底した不満足調査を出発点にしております。またその事が弊社の業界での差別化の基点になっています。飛行機を利用する際に、お客様が一番不満に思ってらっしゃることは、とにかく窮屈であると。

時間と距離が長くなればなるほど、窮屈さを感じていらっしゃる。あと、移動の時間を有効に使えないというお声も多く、ほとんどのお客様が移動に不快感を感じていらっしゃるし、機内の環境にご不満をお持ちだということがございました。

陶山氏:確かに。エコノミー症候群になるのもわかりますね。仰る通り、如何に快適な空の旅をお客様に実感していただくかというのは、おそらく航空サービスの非常に需要なテーマだと思います。

川路氏:ええ。快適さの提供を基点にして、何ができるかと社内で検討しまして、まずは座席をゆっくり設けて、くつろいでいただくということが弊社の希望的ベネフィットの最大のポイントになります。

通常A320ですと座席数は170席から180席くらいあるんですが、それを144席もしくは150席にしまして、シートピッチも他社さんより15,6センチ広くなっています。

その他に、そのゆったりした空間で、快適に1時間や1時間半を過ごしていただくための一つの機能として、映像や音楽などを楽しんでいただくといった周辺のコンテンツをご用意しています。

あと、搭乗されてコートやジャケットを脱ぎたいと思っても、シートベルトのサインがついていると立てないということがございますから、座席のそばにコートフックも作ったり、ドリンクサービスでも、実際にテーブルに置かれて少し揺れたりすると、こぼしてしまうお客様も少なくないことから、カップホルダーをおつけしたり。

また、夕方になると仕事疲れもあって、ゆっくり足を延ばしたいという方のために、足ふみマッサージ機能のついたフットレストもございます。

陶山氏:それは素晴らしい(笑) 至れり尽くせりですね。

川路氏:そういった機内での細かい部分も、お客様が感じるいろんな不満を徹底して洗い出して逆に強みにしていこうとしたんです。そこをレガシーキャリアと今後出てくるであろうLCCとの差を先につけていったことが出発点でもあります。

陶山氏:御社の場合は比較的短距離になりますね。最長は1時間半くらい?

川路氏:そうですね。2時間弱くらいです。

陶山氏:2時間弱の空の旅をそこまで快適にしてしまって良いのかという気がしますが(笑)

川路氏:当初はお客様にも非常に好評を頂きまして、「良いね」「良いね」と仰っていただいていたんですが、6年経ちますとお客様もだんだん慣れてこられてしまって、次は何?と待っておられるといった状況でもあり、プレッシャーも感じております(笑)

陶山氏:なるほど。お客様の要望が高まってくるんですね(笑)

川路氏:ええ。どんどん希望が高くなってくるんです(笑)

陶山氏:レガシーキャリアとLCCと比べると、今はどのくらいの価格差になってるんですか?

川路氏:どのレガシーキャリアよりも15%以上はお安い価格を設定しています。あと運賃割引に関しても、レガシーキャリアと同様、2ヶ月前からご予約頂ける運賃から、前日でもご予約頂ける運賃までありまして、その各運賃帯でもすべて15%お安くすることをプライス設定の機軸にしています。

その背景には、できるかぎりバックグラウンドでコストを抑えようと、機材もリース契約で常に新しい機材でシャトル運航しておりまして、機材を購入して時間が経てば経つほどメンテナンスに費用がかかるという、通常で考えた際のコストをかなり圧縮できることが一つあります。

陶山氏:なるほど。

川路氏:そこは非常に就航率にも影響する部分で、コストダウンというポイントがもあるのですが、やはりきちんと飛行機が飛んでいることです。

陶山氏:定時に離発着することですね。少し遅れてくると、あとからどんどん遅れてきますからね。御社の場合着陸して次に離陸するのは40分くらいですか?

川路氏:40分から45分くらいですね。

陶山氏:その間に客室乗務員の方も清掃作業をされてるんですよね。それでも40-45分くらいで離発着は充分できるものなんですか?

川路氏:逆に定時を守るためのギリギリの時間でやってるということですね。

陶山氏:なるほど。ではレガシーだとどのくらいの余裕があるんですか?

川路氏:おそらく40~45分というのはほぼ同じかと思うのですが、清掃などのオペレーションもさることながら、運航する機材にゆとりがあるという事があります。

何かあって少しでも遅れそうだとか、メンテナンスに時間がかかりそうだとなると、すぐ代替機が飛ぶようになっています。そこに少し我々と違った余裕の展開はされていると思います。

陶山氏:もちろん安全運航という大きな課題がありますが。

川路氏: 弊社も、なんらかの事情で時間がかかりそうだとなれば、すぐにお客様に移動していただけるように来年には予備機の導入も検討しております。

陶山氏: 日本生産性本部協議会の日本版顧客満足度調査(JCSI)で、国内長距離でナンバーワンになられましたが、他社と比べてどのあたりで評価を得ていると思いますか?

川路氏:我々としてはまだまだ本物ではないと理解しています。といいますのは、3年連続で顧客満足1位になったとはいえ、当社をご利用する前には「お客様は当社にさほど期待していない」と考えています。

しかし、実際ご利用いただいた後の「意外と良かったね」といった感覚と価値が、最初の期待度とのギャップが大きいという部分で「評価が高い」という。

陶山氏: 期待が低ければ低いほど、「満足度が高い」となることもありますからね(笑)

川路氏: そうですね。評価いただくのは非常に有り難いことなんですが、やはり出発点の期待度をもっと高めたいですし、さらにそれを上回る満足度を高めたい。最後はやはりロイヤリティですね、ロイヤリティもそんなに低くはないんですが、逆に高くないですから、次に繋がるためには、お客様がまた次の搭乗を期待されるような、なんらかの施策を考えることが課題ですね。

陶山氏: ロイヤルティ、つまりお客様に継続的に利用いただくためには、例えばどの部分が一番キーになると思われますか?

川路氏: やはり今まで我々が、お客様のご不満に基づいてご提案させていただいたサービスが、6年経って少し、当たり前になってきているという課題がありますし、お客様の動線上に於いて当社にしか出来ないサービスを進化させることですね。そこがキーになるかと思います。

陶山氏: たとえばTDL(東京ディズニーランド)のように、お客様の期待を裏切らない、また期待以上の感動や喜び・驚きを与えたり、常に鮮度を保ちながら提供されているということが、お客様がリピートする大きなバックグラウンドにあります。他社よりもこちらにと、どんどん鮮度の高い新しいサービス、新しい感動や喜びをどう提供するかがキーにもなりますね。かといってコストをかけてしまうとレガシーと同じになるかと思いますけれど。

 


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