■ CREATIVE #03

HOME» ■ CREATIVE #03 »人の想いを創る商業建築 vol.1

■ CREATIVE #03

人の想いを創る商業建築 vol.1

人の想いを創る商業建築

今回は一級建築士の株式会社H&K建築事務所の亀井晋氏と、不動産再生などを主に手がけておられる不動産コンサルタントの株式会社タグボート西本真悟氏の対談です。今回の取材場所は、西本氏のオフィスがある「船場ビルディング」。大正14年に建築された登録有形文化財指定建物です。大阪・船場の近代建築の歴史を今に伝えつつ、現在ではたくさんのテナントで満室になるオフィスビルとして話題を呼んでいます。長く街に残る商業建築とはなにか。関わる人たちの想いやコンセプトをマネジメントし実現する熱意を語っていただきました。
面白いものとは何か
西本氏:最近、面白い建築が少ないですね。

亀井氏:普段仕事してる時には気づかないけど、海外から帰ってくるとちょっと悲しくなりますね。建物が街を作ってるとしたら、なんかこう、部分部分を切って貼ったような街並みというか。

西本氏:ここ数年、海外の有名建築家が設計した建物が増えて来てますけど、出来上がったものを見たらなぜか面白くない。。

これって何故なんだろうって考えたら、建築に関わっている他の人達の意識の方があまり変わってないんですよね。

亀井氏:一応キャスティングは一流どころが揃ってるんですけどね。

西本氏:そう。でも関わる人の意識も変わらないと、面白いものって出来てこないと思うんです。「都市」って「街並」が集まって出来ている。

またその「街並」って「建物」が集まって出来ているわけで、建物のレベルで何かを変えていかないと、都市自体も面白くならないと思いますね。

亀井氏:やっぱり文化を創ろうとする動きがないと、単に建物を作ろうとするだけでは、面白いものにならないんですね。作り手やプロデューサーが情熱注いで意見を出し合って、情熱を傾けて作るというシチュエーションが少ないのが現状です。

僕らのテーマとして、やっぱり誰と組むか、その人がどんな情熱を持ってるのかが重要だと思ってるんですね。僕ら建築家も、そこにどんな情熱を注げるだろうとワクワクしながらアイデアを出し合えるわけです。

そんな互いのキャッチボールの積み重ねが、良いものを作ろうとすることになるんじゃないかと思うんです。そういう意味で言うと、西本さんの仕事のやり方って、ボクにはとても新鮮。関わる人たちの情熱に耳を傾けてくれる。

西本氏:まあ実際、そこまでやってくれる建築家の方も少ないですけどね(笑)

正直言うと、僕自身この仕事を始めた頃は全ての作業を自分だけでやりたいと思ってたんです。

でもそんなの絶対不可能で、街に長く残るものを作りたいという自分の理想は、ただ単純に建物を建てるだけじゃ実現できないし、そういうものを作るには色々と目に見えない要素が必要になってくる。

結局、様々な能力を持つ人と組んで一つのものを作り上げていかないと無理だってことが判ったんですけど、同時にそれらの人達を第三者的な立場からバランスよくコーディネートするプロデューサー的な人間がいないと、良いものは作れないということも判ったんです。

亀井氏:これは施主側だけにプロデューサーがいるだけでは難しくて、建築デザインする作り手側にも、いままであたりまえのようにやってきた機能性の追求とかのスタンスから、すこし一歩飛び越えたところで、バランスを汲み取って、解り易く説明していかないといけないと思うんです。それが実は僕の一番目指すところでもありますね。

西本氏:そっか。亀井さんもどちらかというと、こちら側(プロデュース)の立場の人なんですね(笑)

亀井氏:そこまでじゃないんですが(笑) 僕らが不動産業務をしたいわけではなく、やっぱり良いものを残したいということですね。それは西本さんと一緒。

西本氏:うーん、僕も実は不動産業じゃないかも(笑)でも、その考え方って必要だと思いますよ。やっぱり今求められているのって、いろんな分野を横断した考え方のできる人だと思う。

まあ、誤解を恐れずに言うならば、技術だけを持ってる人っていうのは、もしかしたら自分じゃなくても良いのかもしれないんですよ。たぶん世間にはいくらでもいる。

でも、「自分が作りたいものはこれだ」と思えるものがあって、その感性に自信があるのであれば、技術だけのポジションに留まるのは駄目だと思うんです。

とはいえ、やっぱり技術がわかった上でコーディネートもできるというのが理想な訳で、同じするならそういう人と一緒に仕事をしたいと思いますね。

亀井氏:そうですね。
現状と障壁
西本氏:たとえば最近、町屋の再生って日本中で行われていますよね。古い民家や蔵として使われていた建物を再生してレストランにしたり。。

でも、不動産の観点から見るとそれがきちんとした商品になっているかっていうと、残念ながら全部が全部そうじゃない。

建築物ってやっぱり人間が使うものである限り、いろんな意味で絶対に守らなければならないルールってあると思うんです。

残念ながら、それを無視したものも少なくないですね。やっぱりそういうポイントを踏まえて再生していかないと、5年後10年後に、結局残っていなかったということになる。責任が取れるものを作るって重要だと思うんです。

そこで必要とされるのは、技術だったり知識であったり、プロの人間にしか判らないこともある訳です。

でも、建築の観点からだけでは駄目だし、不動産の観点からだけでも駄目。やっぱり両方を判った上で何を作るかだと思うんですね。

亀井氏:そうですね。僕らはたとえば昭和50年代に作られた建物が、どういう構造の考え方に基づいて建っているかがわかってるから、壊れ方が頭にある。再生・保存というのが重要なのはわかるんですが、僕らが不安な部分をカバーできるか、このテーマは大きいですね。

当たり前なことなんだけども、そこを見過ごしてしまうと危険。 たとえばこの建物(今回取材の場所)も昭和初期に建ってるわけですから、そこまで計算されているかは疑問。。だけど昭和50年代に建てられたものより頑丈にできてるんですね、実は。

それはルールがなかったから、こんなもんかなという匙加減で良いバランスを持ってる。それが「こういうルールでいきましょ」となってから、合理化を追求するあまり逆に動いてしまった。

西本氏:そういう状況の中で、日本の建築が面白くなるためには何が変わらなければならないか。。建築家の立場から見た話を聞きたいですね、僕としては。

亀井氏:やっぱり贅肉を取りすぎた部分って大きな問題ですね。たとえば一流の構造設計家が、ルールのない中でやれてたってことが一流の証しなんですね。思想に基づいてやってきた。

レギュレーション決めてそれのギリギリで計算してしまうから、年代によって強度の違うものができてしまって、僕らはその頃のものを触るのに抵抗がある。

でも、新しいものの中でも、失敗してるものもあるから、それをまず生き返らせる、新しいものを新しくすることも必要だと思いますね。

しかもだめなものはもう、勇気もってスクラップにする。それに見合う不動産としての価値の考え方を明確にしてもらうと良いんですけどね。

西本氏:ほら、やっぱりプロデューサーの考え方になってる(笑)建築家の考え方じゃないですよね、それは(笑)

亀井氏:いやいや、最終的には、そこに良いものを作って残さないといけないわけで(笑)

西本氏:そうなると、やっぱりソフトも重要になってくるんですよね。建築って構造や外観だけのものでなくて、どういう使われ方をしているのかで魅力を増すもの。

実は面白い建築になるために何が障壁かというと、建築基準法とか消防法とかだけじゃなくて、実は税制であったり、使い道に対する固定概念だったりする。

たとえば、ここみたいな古いビルを買いたいといっても銀行はお金を貸してくれないわけですよ。耐用年数を過ぎて償却が終わった建物には価値がないって。

だけど、僕らの立場から見ると、この雰囲気だから、周りのビルの倍の賃料を払っても入りたいという人が山ほどいる。でも実際じゃあ不動産商品として成り立たそうとすると障害がいっぱいある。

でもまあ、安全性は一番ですから、そこを技術でクリアできるのであれば、こうした100歳になるこの建物が、周りの新築のビルより収益を上げてるという事実があるわけで、このビルが街にあるっていう文化は、お金では買えないと思うんですけど。そういう価値感というか、見方を変えていかないと日本の建築は変わらないと思いますね。

亀井氏:そうなって欲しいですね。

2012/02/02


■ CREATIVE #03

powerdby