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■ FINANCIAL #01

経済の流れを読む「金融知力」_vol.2

リテラシー向上の重要性
上地氏:さきほど、お客様と金融機関の間に起こる利益相反の話がありましたが、そのひとつに従来型の証券会社だと、支店間で営業マンの移動がありますよね。

3年から5年で転勤する人が、お客様の10年後や20年後を見据えた提案って難しいと思うんですが、その点では御社はどういった形態でされるんですか?

仲川氏:基本的に転勤等の異動は無いですね。証券会社の社員も、転勤があるからお客様の将来を考えないこともないんですが、結果的に転勤になってしまうから、お客様との関係が断絶することもあるのは事実です。

弊社では地域に密着して、そこでお客様とずっと接していくことになります。そのために正社員だけでなく、全国の地域密着で活動しているフィナンシャルプランナーの方たちが、協力してくれる仲間として増えてきています。

上地氏:つまり、地元に定着して活躍されている方々を囲い込むという地域戦略ですか?

仲川氏:そうですね。まず自分の地元でずっとお客様と付き合っていくわけですから、ヘンな事はできない。そこに牽制機能も働きますしね。

上地氏:機会主義的な提案はし難いということになりますよね。

仲川氏:この業態転換は弊社が日本で初めてなんですが、これは金融のアンバンドリング戦略って言うんですね。バンドルとはすべて一つにまとめるという意味で、証券会社だと、注文を取れば書類を作って、お客様の口座を管理してと、全て自己完結しなければならない。

仲介業者である弊社では、フロント業務だけやって、あとは提携している楽天証券がサポートをするという役割分担ができていますから切り離せるんですね。これは今後のあるべき姿になっていくと思います。

上地氏:そこで思うんですが、お客様からすると、楽天証券でもネット取引で(株を)買えますし、御社からも買える。でも手数料は楽天証券のほうが安いですよね。そこはお客様の反応ってどうなんでしょうか。

仲川氏:今、個人投資家の70%がネット取引されていますから、自分で判断できる、つまり自己完結できる方は元々、対面営業の証券会社では買わないんです。対面営業の証券会社で買われる方は、売買手数料よりも担当者のアドバイスに付加価値を見出しておられるので、そのコストに関してのお客様からの反応は少ないですね。それに弊社は相続など、金融商品以外のコンサルができる機能がありますから。

上地氏:なるほど。今はお客様が求める情報が、変わってきてるのかもしれないですね。

昔は儲かる銘柄は何かとか、大手証券会社が推奨する銘柄は何かといったことでしたが、そういう情報よりもむしろ、フィナンシャルプランニングといった生涯資産設計に向いてると考えて良いんでしょうね。

仲川氏:そうですね。そうなると上地先生が今研究されている「行動経済学」の分野って非常に重要になると思うんです。金融商品を買う前に、投資教育が必要かと。つまり使い方。

本来、投資信託は売ったり買ったりするものでないにもかかわらず、残念ながら金融機関側の理論によって短期的に売買されることも多いように聞いています。せっかく長期的な果実を期待して商品を選択したはずなのに、結果的に期待とは異なった投資行動をとってしまうことが多いようです。

そういったリテラシーを上げることは非常に重要だと思うんですね。今先生は信州大学と甲南大学で「行動経済学」を研究されてるんですか?

上地氏:ええ。ちょっと難しいんですけど、要は人間というのは非合理的な行動をするんですが、その人間の行動によって、市場がどのように影響を受けるかという研究です。

ある国の市場の変化が、他の国にどのように波及していくのかという波及経路や、あるいはどういうファクターを変えると、その波及の力が変わってくるのか。それを人工知能モデルを使って実証していくんです。

つまりコンピューターの中に証券市場を作るんですね。そこでいろんな投資家を想定して設定する。バリュー投資家だったり、ノイズトレーダーといった短期売買する投資家だったり。

彼らは自分の利益を最大化するために、それぞれ良かれと思って行動するんですね。その結果マクロの市場でどういうことが起きるのか。つまりミクロの挙動がマクロの動きに対して、どのように影響し合うかということを実験しているんです。

仲川氏:うーん、難しいですね(笑)

上地氏:さっきの投資教育の話ですが、今はパソコンって誰でも使えますね。多分僕が学生の頃にはじめてパソコンが作られて、当時は当然だれも使えない。

パソコンメーカーはパソコンを売るために、まずユーザー教育としてソフトの使い方を教えることからやりましたね。そうやって結果的にパソコンが売れていったんです。そう考えると、日本の金融機関ってユーザー教育にもう少し力をそそぐ必要があったと思われますね。

仲川氏:仰るとおりなんです。それをすごく感じるのは、ヨドバシカメラの店員さん。彼らはものすごく勉強されてますよね。

いろんなメーカーのテレビが並んでて、シャープのアクオスはどう、ソニーのブラビアはどうって、特徴からいろんなことまで詳しく教えてくれます。

残念ながら金融機関って、自分が販売している金融商品、たとえば投資信託の分配金利回りが何%ですって言うんですが、じゃあその分配金のしくみだとか、その商品がどのようなスキームで作られているか、実はあまりよく解っていない人もいます。そんなところに最大の原因があるのかなと思いますね。

上地氏:解っていないんですか?それとも解っているけど教えないとか?

仲川氏:うーん、解ってない人もいるんじゃないでしょうか。もちろん解ってる人もいるんでしょうけど、知ってるということと、お客様にお伝えして理解させるのはまた別の話ですから。

そういうリスク商品を販売することに関して、自分が本当に理解していないとお客様には理解していただけないですから、そう考えるとお客様に理解していただけるような努力がもっと必要ですね。

上地氏:確かにそうですね。日本の証券会社は銀行も含めてだけど、投資信託の販売の仕方は顧客目線からちょっと乖離しているよね。

仲川氏:もっとも、お客様にも原因がある場合もあるんですけど、やっぱり販売する側の問題は大きいですね。

上地氏:情報の優位にある証券会社も、お客様には教えないでいたほうが都合がよかったこともあるんでしょうね。

仲川氏:そうですね。意外と営業側の言うこと聞かなかったほうが資産が増えていたりするんです。

良いスーパーの見分け方で、従業員が自分の勤めている店の生鮮食料品を買っている店が良いスーパーだという話がありますが、お客様に勧める金融商品を、自分の大事な友達や家族に勧めてるかというと、しないケースが多いんです。まあそれでも推して知るべしかなと思いますけど。

 

2012/07/04


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