■ ADV(アドボカシー)な人々 #02

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■ ADV(アドボカシー)な人々 #02

ウナギトラベル代表 東園絵 「いまのきもち」 vol.1

「Advocacy(アドボカシー)」とは、「擁護」や「支持」「唱道」などの意味を持つ言葉。最近では「政策提言」や「権利擁護」などの意味で用いられます。また「アドボカシー・マーケティング」とは、一時的には自社の利益に反しても、顧客にとっての最善を追求し、長期的な信頼を得ようというもの。

「ADV(アドボカシー)な人びと」をつなぐこのインタビュー企画、第2回目のゲストは、ぬいぐるみの「旅行代理店」を運営されている「ウナギトラベル」代表 東園絵さんです。外資系金融業界から一転、ユニークな事業で起業された東さんの「いまのきもち」をお伺いしました。
谷本氏: 東さんは、起業家というより「ウナギトラベル」の代表でいらっしゃるのですね。前回の横田さんとJ300というイベントもご一緒されていると伺いましたが。

東氏: はい。J300は立ち上げの時からご一緒させていただいています。J300に限らず、起業家精神を育むようなコンセプトのイベントにもいろいろ参加していまして、横田さんとはそのご縁でご一緒させていただいている経緯はありますが、今はいろんなことをやりながらも自分のパッションは今この「ウナギトラベル」にあります。

谷本氏: 必ず聞かれる思うんですけど、そもそもこの「ウナギトラベル」という名前も事業内容も、すごくユニークですよね。

東氏: ウナギという名前は、私がウナギを食べるのが好きで(笑)以前ウナギ釣りをしていたんですね。それで釣ったウナギに名前をつけていたというところから始まって。6年くらい前のある日、ウナギのぬいぐるみを作りまして(笑)

それを毎日持ち歩いて、今日は誰と会いましたという写真を撮ってブログに投稿していたんです。私は一切出ずにこのウナギのぬいぐるみだけが登場するという(笑)

ウナギというところにおもしろがってもらえましたし、文章で書くだけより情報が伝わるような気がして。なにより私自身が楽しくて、ひとつのコミュニケーションツールのように思っていました。

旅行に行くと必ず連れていって、写真を撮ってはブログに書く。それが友人知人に好評だったというところから始まっていますから、これがサービスになるという確信はほとんどありませんでした。その頃、知人がこんど出張でニューヨークに行くからって、このうなぎのぬいぐるみ「ウナーシャ」を連れていってくれたんです。
片岡氏: これがその「ウナーシャ」ですか。

東氏: これが本人です(笑)その「ウナーシャ」が私の手元を離れて、ニューヨークのエンパイアステートビルとかにいるわけなんですよ。写真が送られてきた時、東京に居ながら自分自身の世界観が広がったような気がしたんです。

健康である私がそう感じるのであれば、なんらかの事情によって物理的に旅をすることが困難な方にとっては、喜びや楽しみとして感じて頂けるのではないかと思ったのです。

谷本氏: お客さまにはどんな方が多いのですか?

東氏: いろんな方がいらっしゃいますが、今は、実はほとんどが海外の方です。

片岡氏: へえー。

東氏: もちろん日本の方もおられるのですが、海外メディアに取り上げていただいた影響もあるかと思います。海外でもアメリカの方が断トツに多くて、日本に興味があっていつか行ってみたいけれど、遠いしお金もかかる。まず自分の代わりにぬいぐるみを行かせて、日本を体験してきてもらいたいという方が多いですね。

他に、産まれてすぐの赤ちゃんの代わりに派遣されてきたぬいぐるみもいます。赤ちゃんが成長するにつれて、この子(ぬいぐるみ)はいろんなところに旅をして、こういう経験をしたんだよと伝えたいと仰るんですね。すごくクリエイティブな考え方だと思います。

また最近では、ニューメキシコ州の貧困地域に、低所得者層の家庭やブロークンファミリーといって、何らかの事情で家庭が崩壊しているようなお子さんたちが通う公立学校があって、そこには旅行どころか州の外にも出たことがないお子さんたちもたくさんいて、この子達にもっと世界を知ってもらいたいという先生の希望で、クラスからぬいぐるみが1体派遣されてきたんです。クラスの子供たちが見守る中、日本に派遣されて、これからどんなことをするんだろうってみんな楽しみにしてるんです。

というように、それぞれの(ぬいぐるみの持つ)ミッションは違うんですね。自分のためだったり、こどもたちのためだったり。時には癒しのためだったり。ぬいぐるみが好きな方の中には、いわゆる引きこもり気味の方もいらっしゃるのですが、これがきっかけで社会復帰できましたという方もいて、一歩踏み出す勇気が欲しい方が社会の接点を感じたり、自分の知らない世界を感じることもできるようです。
片岡氏: 本当は自分が行きたいんだけども、何らかの理由で行けないから代理で行ってもらうというパターンが多いということですね。

東氏: ええ。最初は、お客様ご自身が事情によって旅が出来なくて、これを通して人生がもっと前向きになれると良いなという気持ちで始めました。実際に障害をお持ちのお客様もいらっしゃったんですが、まさかこどもの教育のためにご利用いただけるとは思ってもみませんでした。

ある日本のお客様に6歳の息子さんがいて、男の子なのにずっとクマちゃんが大好きで、もうすぐ小学校に上がるのに一人でお買い物も行けないくらい自立できなくて。それで大好きなクマちゃんを旅に出して、立派に旅行している姿を息子さんに見せて、「あなたもしっかりしなさい」と自立を促せたいと仰るんです。そこまで私は全く想像していなかったので、こんなすばらしいぬいぐるみのツアーがあったんですねと言われて、日々驚かされることがあります。

海外の方のクリエイティビティといいますか、想像力にはビックリすることがあります。答えがたくさん出てくるんですね。日本人は教育の違いなのか、一つのパイを求めたがる。「結局は障害を持っている方のためなんですね」で落ち着くんです。理解できない人には全くわからない。答えや目的は一つじゃなく、ミッションはそれぞれあって全部正解なんだと思います。

彼女にプロポーズするために(ぬいぐるみを)派遣したり、クリスマスプレゼントにしたいとか。他に、お子さんが亡くなって、その子のぬいぐるみ見るたびに思い出して悲しくなってしまう。そこでぬいぐるみに旅をさせて、楽しい思い出に塗り替えてあげたいと仰るんですね。なんかすごく想像力があって、国によっての違いをすごく感じます。
谷本氏: そのそれぞれのミッションに応じて行く先々は違うのですか?

東氏: 予めツアーパッケージをご用意しています。東京ツアーや横浜ツアー、また行き先を明かさないミステリーツアーもあります。お申込みしていただいて届いたタイミングで5~6体を連れて行くというパターンなので、同じ申込みでも、みんな一緒に旅に出るわけではないです。

谷本氏: おもしろいですね。

片岡氏: おもしろいですよね。普通はそのぬいぐるみ売ろうと思うじゃないですか。でも売らないんですよね。ぬいぐるみは持ち込みなんですね。

東氏: はい、持ち込みだけです。

片岡氏: 連れていってあげるということですね。だから旅行代理店なんだ。

東氏: ウチの一番のリスクは(ぬいぐるみを)失くすことなので、だったらぬいぐるみに旅行券を付けて売るのもありかなと思ったんですが、やっぱり「この子」に行かせたいという思いがお客様のほうにあるんですね。

片岡氏: なんかそこにあるんですね。

東氏: 例えば富士山の写真を見た時、そこに全く関係性ないぬいぐるみがポンといるよりは、愛着のあるものがいたほうが、対象との距離感が縮まると思うんですね。そういう意味で新しいぬいぐるみじゃなくて、本人こだわりのぬいぐるみをお借りするということにしています。

片岡氏: 東さんも子供の頃、ぬいぐるみを抱っこしたりしたと思うんですけど、こういう仕事をするって思っていました?

東氏: 思ってないです(笑)

片岡氏: どこがきっかけなんですか?まあぬいぐるみは嫌いじゃなかったと思うんですけど。
東氏: ぬいぐるみはたしかに嫌いじゃなかったですけど、まさかこういうことをするとは思いませんでした。でもぬいぐるみはあくまで私にとってはツールなので、ぬいぐるみが大好きなお客様の気持ちは尊重しますけど、ぬいぐるみ業界で働きたいということではないので、あまり自分の中でギャップはないですね。ただ自分の中にストーリーがあって、これはツールになると思ったのがぬいぐるみだったということですね。

片岡氏: ぬいぐるみじゃなくてもいいんですか?

東氏: ぬいぐるみじゃなくてもいいです。

片岡氏: 例えば思い出の指輪を買ったお店でもう一回直して欲しいとか。

東氏: そういうのもありだと思います。

片岡氏: ありなんですか。

東氏: キーホルダーの参加ありましたね。ただ扱い難いですけど(笑)。

片岡氏: 写真撮るから手で持たなきゃいけないんだ。

東氏: そうなんです。

片岡氏: ぬいぐるみみたいに擬人化されてるほうがいいんですね。旅行代理店としては。

東氏: ええ。表情も出ますし動きもだしやすいので。

片岡氏: あんまり「モノ」になりすぎると物理感があるんですね。その人なりのエモーショナルな何かがあって初めて成立するという感じですね。

東氏: そうですね

2013/12/22


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