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■ INNOVATION #07

日本の経済構造・地方再生のカギ vol.4

柳下氏:ある京都の企業が3Dプリンターで心臓の模型を作ってらっしゃるんですが、一時シリコンバレーにも行かれていて、その時はもう、とにかく早く起業しなさいとすごく煽られたそうです。とても素晴らしいからどんどんやっていくべきだと。

ところが日本に帰ってくると、それは危ないんじゃないかと言われる。まず視点が全然違うんですね。「どういう問題があるかを考えることは必要ですが、経営者というのはまず何ができるかというところからスタートする。そのためには常に心をオープンにしていないといけないんです」というお話が印象的でした。

3Dプリンターが出てきた当初、日本では「こういう問題があるから、この程度しかできないだろう」という論文が多かったですから、視点が違うというのは大きいですね。

岩本氏:失敗しても大丈夫、とりあえずやってみようというのがアメリカの気質ですからね。私も最初、3Dプリンターは、何に使えるのか全くイメージできていませんでした。実は3Dプリンターは元々のアイデアは日本人が書いた論文だったということを最近知りました。

先ほどの話じゃないですけど、日本で認めてもらえなかったために、技術だけが向こうに行ってしまった。そういうことがたくさんあるようで、もったいないですね。

柳下氏: 3Dプリンター自体の競争は、アメリカの2社で7-8割方決まってしまっていますから、そこに入り込む余地は無いと思いますが、それよりもそれを使って何を作っていくかということに関しては、メーカーズという本にもあるように、非常に小さなレベルから、コストをかけずにスピーディにものを作っていけることが革命だと言われています。

工房レベルからスタートできて大きい価値を産むという経済スタイルと、そうした流れをどんどん生み出していくことが必要かと思います。
岩本氏:そうすると東京にこだわる必要もなくなりますね。地方にいて世界シェア7~8割の企業にも成り得ますね。

柳下氏:ニッチというのは市場が小さいので、逆に大企業がコストをかけてまで必死になるだけの旨味はありませんから。逆にライバルのいないところで、徹底して付加価値を上げていくしくみを作っていくことが、バリューの高い企業になるのだと思います。

岩本氏:株式投資について最後に少しお聞きしたいのですが、今なんだか、株式へ投資する際のアイデアが間違っている方が多くて。株価さえ上がれば良いんだという発想ですよね。

株を購入したその企業が何をやっているのか実際にご存知なんですか?とお聞きすると、会社案内も見たことがない、業務内容も実はよくわかっていらっしゃらない。それじゃあなぜ投資するのか、話にならないじゃないですか。

株式投資をするということは、その会社に賭けるわけですから、当然投資資金は無くなるかもしれない。プロの投資家は投資した資金が無駄にならないよう、リターンを出すよう、その企業が付加価値をどう生み出しているかをすごく分析し、探求しています。アベノミクスも株価さえ上がればといいといった方向ですが、それもおかしな話です。
柳下氏:株価に政治家が、それもトップが口を出すっていうのは、海外では有り得ないことなので、もうびっくりされますね(笑)

あなたの国は社会主義ですかと言われてしまう感じで、ドン引きされているんですよ。しかも「年金で買いますよ」なんて、政治家がそんなことを言ってしまう感覚が非常に問題です。

私の場合、バリュー投資、社会に価値を提供している企業に投資しましょうと言っているのですが、地域を含めたステークホルダー全てにWinWinの関係がないと、企業は価値を生み出せませんし、長期に存続することはできないと思うんですね。

バリュー投資は基本長期ですから、よく「我慢する投資」と言われますが、そうではなくて、生み出す価値の配分が、時間が経つとどんどん増えていくといったもの。

つまり本当の意味での高い価値を生み出し、十分な分け前をステークホルダーに配分してくれる企業に投資することが基本で、そういう企業は構えて言わずとも、結果的に社会貢献をしている真っ当な企業ということになるんです。

そのためにも、長期において継続的な価値を生み出せる事業であるか、競争優位性のある構造になっているかを、ある程度は勉強していただきたいですね。

岩本氏:そうした会社を見つけ出すのは簡単ではありませんからね。研究・勉強しなくてはいけません。
柳下氏:まず自分がプロである仕事をしてくださいと申し上げるんです。その上で自分が得意だと思える、または良く知っている分野があれば、長期に渡って事業に投資するという意識を持っていただければ間違いは無いですと言っています。

岩本氏:株価が上がるかもしれないという雰囲気だけの投資は非常に危険。やっぱりご存知の分野で、この経営者だから大丈夫という、そういうことも含めよくご自身で調べる、知ることが大事ですね。

柳下氏:以前「モノ言う株主」というのがありましたけれど、耳障りは良いですが、配当というのは企業価値の一部ですから、配当の出し方も高ければいいという問題でもありませんし、短期的に高い配当を得るというのは、企業価値の先食いになってしまい、他の方たちが貰うべき価値を奪ってしまうことになります。

法には触れませんが、やはり真っ当な形の投資のスタイルではない。企業は株主のものだという主張は間違いではないけれど、問題があることを解っていただきたいですね。

岩本氏:柳下さんの仰る「良い会社には良い株主が当然ついている」ということですね。真っ当な経済活動とはどういうものか、経済構造はどういうものかを考えていただくことが、実は日本の経済の再生につながる、ということになりますでしょうか。

柳下氏:輸出立国や借金が多いとか、日本にはたくさん神話がありますけれど、まずそこを「本当ですか」とちょっと見直していただきたいですね。今の日本の姿を正しく見ていただいて、そこからどうすれば良いかを考える発想になっていただきたい。

少子高齢化でマーケットが縮小する中で、国民が幸せになるような国づくりのグランドデザインを、どういう経済の下に創っていくべきかを考えていただきたいと思います。
柳下 裕紀
CFA協会認定証券アナリスト
株式会社 Aura Lotus
代表取締役/CEO
 
東京女子大学文理学部英米文学科卒。約15年間、株式ファンド・マネージャー及びアナリストとして米国や香港のヘッジファンド、日本の投信投資顧問会社など3カ国で現地の運用会社に勤務した他、証券会社で外国債券ストラテジストとして6年、投資銀行で企業再生とM&Aに計6年など、1987年以来、一貫して金融市場、企業分析投資の分野でキャリアを築く。独立後は、M&Aなど海外進出を前提に、中小企業を中心とした経営コンサルティング、及び、資産運用や企業価値分析に関する講師を中心とした投資コンサルティング、PE(プライベートエクイティ)案件に関わるデューデリジェンスなどを行うコンサルティング会社の代表を務める。

HP: http://ameblo.jp/yukiyagi7/
岩本 沙弓
金融コンサルタント・経済評論家
大阪経済大学経営学部客員教授
 
青山学院大学大学院 国際政治経済学科修士課修了。1991年より日・米・加・豪の金融機関にてヴァイス・プレジデントとしてトレーディング業務に従事。 日本経済新聞社発行のニューズレターに7年間、為替見通しを執筆。金融機関専門誌『ユーロマネー』誌のアンケートで為替予測部門の優秀ディーラーに選出。現在、為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、英語を中心に私立高校、及び専門学校にて講師業に従事。政権政策会議などの講師に招かれる。主な著作に『円高円安でわかる世界のお金の大原則』(翔泳社)、『新・マネー敗戦』(文春新書)、『マネーの動きで見抜く国際情勢』(PHPビジネス新書)、『為替占領』(ヒカルランド)他。Office 『W・I・S・H』代表
 

HP: http://www.sayumi-iwamoto.com/
FB: sayumi.iwamoto
取材:2014年7月

2014/07/04


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