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■ FINANCIAL #02
世界から俯瞰する日本の経済 vol.5
ペーパーマネー「通貨」の裏づけ

岩本氏: 通貨編成の歴史を考えると、30年から40年くらいで変わってきています。1971年にアメリカが金本位制を停止して、今2012年ですから40年。そろそろ変革が起っても良い頃ではないかと考えています。
その一つに、地域通貨のユーロが誕生したのも、ドルの1局体制だった通貨システムに一石を投じるような動きになっていますから、既に通貨の混乱期に入っていると思っています。
1999年にユーロが導入されて10以上になりますから、過去のプロセスから考えたタイムスパンで見ると、通貨の編成期に入り混乱期が30年続くとして、2030年頃に新しい通貨システムが誕生するんじゃないかなと考えます。
仲川氏: 2030年ということは。
岩本氏: あと20年弱ですかね。
仲川氏: ということは私もまだ60代だから、真剣に考えなければいけないですね(笑)
岩本氏:ひとつのシナリオですから、必ずそうなるということではなくて(笑)。
ただ、サブプライム危機で格差社会が広がってしまったアメリカでは、そもそもなぜ格差社会が生まれるのかという原因追究が行われていて、行き着くところやはり無尽蔵にペーパーマネーを発行したことが原因なんじゃないかという説があるんです。
先日、共和党のミット・ロムニー氏が、政策綱領の中に、金本位制への復帰を検討する委員会設置を盛り込んだことが話題になりましたけれど、共和党は元々金本位制の推進派の勢力があって、1980年代に金本位制の政策委員会、ゴールド委員会を作っています。
1978年当時から委員会設立の法案を出すといって、実際に委員会が立ち上がったのは80年代に入ってから。当時は金1オンスが850ドルにポンと跳ね上がりました。
その要因はソ連がアフガニスタンに侵攻したからだと言われていますが、実はその金本位制の委員会が発足するまでのプロセスと重なっているんです。
金(ゴールド)を求める意識は、潜在的に彼らの中に存在していていますし、今サブプライムで非常に疲弊していますから、金本位制に戻ったほうが良いという意見の人たちが増えつつあります。
まあ、今回はそういう人たちの票を取り込むためだけに言い出した可能性もありますが。

岩本氏:実際アメリカ人の金(ゴールド)に対する認識や憧れは、日本人が見聞きしている以上ですし、金(ゴールド)に戻ったほうが良いという動きはかなり強まっているかと思います。
仲川氏:金(ゴールド)といえば中国がかなり保有しているように思いますけど、世界の公的機関で一番保有している国ってどこですか
岩本氏: アメリカです。8000t近く保有しています。
仲川氏:よく世界で出回っている金は50メートルのプール3杯分しかないと言われていますけど、米国の金の保有量8000tって各国の公的機関が保有する金の比率でいえばどのくらいですか?
岩本氏: 約三分の一でしょうね。
仲川氏: そんなに持ってるんですか。
岩本氏: ええ。かつてはもっと保有していましたが、1960年代に随分アメリカから金が流出してしまったんです。それで8000tになってしまいました。中国もかなり増やしてきていますが、それでも約1000tですね。
仲川氏: そんなもんですか。ちなみに日本はどのくらい持ってるんですか?
岩本氏:公的保有の金は約750tくらいです。
仲川氏: 750tですか。よく国が衰退していく兆しとして金が流出すると言われますが、金本位性だったら、貿易で外貨を稼いで金(ゴールド)と交換してという流出になりますけど、数年前から金(ゴールド)が上昇して、日本人はどんどん売却していますね。750tしかないとなると、アメリカの十分の一しかないですね。
岩本氏: 先進国の中では非常に少ないです。外貨準備における金(ゴールド)の保有率では、ギリシャでさえ60%以上持っているに対して日本は3%。外貨に対する金(ゴールド)の比率は極めて低く、その一方で米国ドルにかたより過ぎているという状況はありますね。
仲川氏:金(ゴールド)の絶対量と比べて、ドルは遥かケタ違いに流通してますから、金本位制になるといっても100%は無理ですね。

仲川氏: そうなった瞬間に金(ゴールド)の価格って急騰しますね。
岩本氏: グリーンスパン氏も元々金本位主義者なんですね。今は変わりましたが。以前は講演料も金(ゴールド)で欲しいと言ったというエピソードもあるほどで、アメリカ国債も金(ゴールド)で裏付けると良いと言っていたそうです。いずれにせよ通貨の裏づけになるものを導き出す方向に進んでいると思われます。
そもそも何の裏付けもないペーパーマネーをお金だと認識していることにプラス、国として債券を発行すればいくらでも資金調達できてしまうという、こういう経済システムは、果たして正しいのかどうか、やがて限界が来るという考え方は私も財政破綻論を唱える方と認識を共有できる部分かと思っています。
ただし、ポイントはもし現在の経済システムが成り立たなくなったとすれば、他の国はもっと酷い状況になっているはず。日本は借金無しでも成り立つ経済ですから、破綻するとしたら他国のほうがよっぽど可能性が高い。そこが経済破綻論や財政破綻論、日本国債暴落説の方の論理展開に矛盾を感じてしまうところです。
現在の経済システムが抱えている問題はスケールの大きいものがあります。しかし、その上で、そうは言っても我々の経済システムは今、そういうペーパーマネーで成り立ってしまってるんですね。その中での比較論でいえば、日本は安全なのか、危ないのかといわれたら、安全だと。
仲川氏: 安全だと。海外の人は安全だと思って日本に逃げてくるのに、日本の我々は日本は危ないと海外に逃げようとしてる。そこは非常に不思議な現象ですね。ただ幸いなことに、個人金融資産の預貯金がなかなか動かないことは、まだ救いかもしれないし、本来は預貯金で眠っているものを、海外に限らず国内へも、リスクマネーとして供給していけば良いんですけど。
岩本氏: 震災もありましたから、実態経済に回り易い状況があります。新エネルギーの開発など複数の国内の可能性に投資して、そのうち一つでも実りがあればいいなというスタンスだと良いですね。
2012/09/24