■ FINANCIAL #02

HOME» ■ FINANCIAL #02 »世界から俯瞰する日本の経済 vol.2

■ FINANCIAL #02

世界から俯瞰する日本の経済 vol.2

デフレは原因か結果か。あるいは理由か。
仲川氏:経営戦略の要因と言えばすぐ頭に浮かぶのはバブルの時、ジャパン・アズ・ナンバーワンといって米国の代表的な不動産等の資産を日本企業が買い漁って、日本が米国を席巻する時代がありましたね。

例えば、三菱地所が米ロックフェラービルを買って「日本がアメリカの魂を買った」とか言われてたたかれたり、当時の円高を活用して、いろんなアメリカの資産を買いました。

ところがフタをあけてみると、その後の日本のバブル崩壊で全部売ってしまうことになる。結果的に、すっ高値で買って、どん安値で売ってしまった例などたくさんありました。

日本の企業は今、内部留保のお金がどんどん溜まっていますが、なかなか設備投資等には廻っていませんが、その分M&Aには結構積極的になっていますね。

岩本氏:やはり報道等で円高を悪だとすることが大きいと思いますが、実は企業の方はしたたかに柔軟に動いていて、きちんと円高を利用して海外でM&Aをされています。昔みたいに大々的ではなくてこっそりと、ですが(笑)。

仲川氏: ええ、こそこそと(笑)

岩本氏: こっそりされるのが良いと思います。円高を利用したM&Aの結果、次は海外から出る収益の面が期待できますね。こうした海外の支店が出す営業利益を考えると、日本に対してあまりネガティブの感覚が生まれてきません。

仲川氏:お話を伺っていると、円高というのは日本にとってそんなに悪くないという感覚を持てますね。今の置かれた状況をうまく活用しなくちゃいけないということですね。

岩本氏:表向きには出されないですけど、企業の方々はもう一足先にも二足先にも良く判っていらして、きちんと円高のメリットを利用されていますね。

ただ、そうした情報はあまり報道されなくて、円高はこういうデメリットがあるんだということだけが出る。実はそのほうが一部の大企業にとって、自分達にとって有利に使いやすいのではないでしょうか。

円高で営業収益が伸びないから今期の給料のベースアップをなくすとか、正規雇用の職員をカットする「理由」に使われているんじゃないかと危惧しています。

極論になるかもしれませんが、デフレの原因もそもそも給料がきちんと払われていないということが最大の原因ではないかと思います。

仲川氏: 「にわとりが先か、卵が先か」で、景気が悪くなったからモノが売れない。売れなくなったから業績が下がって給料が下がる。

給料が下がるから消費が増えない。どれが基点かというと難しいですが、やはり所得が増えないと当然、財布のひもは締めざるをえない。輸出立国でなく内需型であれば当然、国内の消費が必要ですからね。

岩本氏:たしかに90年代はバランスシートの調整に企業も大変だったと思います。

が、2000年以降はバランスシートの調整ももう済んで、内部留保もかなり増えているはずですから、シュリンクした状態をそのまま引きずらず、そろそろ気持ちを切り替えて雇用を増やすとか、もう少し給料のベースアップ等があれば雇用者も随分楽になると思いますが。

仲川氏: たまたま今朝の日経新聞にイトーヨーカドーがパート社員の比率を90%にすると出ていました。今は雇用も働き方もいろいろありますから、パートでも技術ややりがいを認められて、スキルに応じた報酬をもらえるといったものに変わってきていますね。

岩本氏: あとは失業保険などの法的な社会保障。日本経済が明るくなるのであれば、自国にとっては消して悪いことではないんですけれど。

仲川氏: そうですよね。デフレのフロントランナーになったのが日本ですけど、気がついたら出口に一番近いのは日本じゃないかと。やはりデフレよりも適度なインフレのほうが健全なのでしょうか。

岩本氏:デフレの定義もいろんな考え方がありますから、実ははっきりしていないんです。モノの値段が下がることをデフレといいますし、通貨価値が変わらないこともデフレと言います。

通貨価値が変わらない広義の意味でのデフレだと、円を持っていても今日も明日も価値はあまり変わりませんが、これがインフレだと1年後、円の価値は今日より下がってしまう。

仲川氏:実生活では、給料も上がらないし金利も増えないけれど、モノが安く買えるという点で見るとそんなに苦しくない。なんだかデフレも悪くないんじゃないかなという気になるのは「デフレぼけ」でしょうか(笑)

岩本氏:通貨価値が下がらないという点では、デフレは決して悪くないはずです。ただ、モノの値段がどんどん下がっていくと同時に給料が下がっていくこともデフレのせいにしてしまっている。

デフレだから給料が下がるのか、給料を下げる理由をデフレにしているのかというと、実は後者だと私は思うんですね。

インフレで通貨価値が下がることはデメリットですし、人件費を抑えようとする今の企業の論理からすると、インフレになっても給料が上がらないという「スタグフレーション」になる可能性があります。

仲川氏: 物価は落ち着いていますから、今はまだスタグフレーションではないですね。

岩本氏: まだですね。ですが今の企業マインドのまま円安による輸入インフレになってしまうと、スタグフレーションになる可能性は大きいので、望ましくないと思っています。

仲川氏:ということは、円高によって物価を抑えているので、まだ日本はうまく経済がまわっている。ところが円安になっていくと、物価は上昇するけど所得は変わらない。となるといよいよスタグフレーションになりやすい。

岩本氏: そうです。過度な円安は輸出が伸びることよりも、スタグフレーションになるほうが、一般国民に及ぼす影響は大きいです。

仲川氏:世界各国はきちんとした通貨戦略を持っているのに反して、日本はそうした通貨戦略というものを具体的に持っていないんでしょうか?

岩本氏:表に出していないのかもしれませんが、通貨戦略の一環としてドルを買うというスタンスかもしれないです。

日米同盟を否定するつもりはないですし、むしろどこの国と同盟を結べば良いかと言われると、アメリカと組むことが一番良いと思っていますが、ただ同盟国だからとなんでも言いなりではなくて、やはり言うべきことは言ってもいいと思うんです。

その上で「アメリカ経済が疲弊しているから融通資金を出す」のであれば良いですが、なんだかよくわからないけれど、アメリカの国債をどんどん買って、それが日本国の負担になっていると。そこをディスクローズされず一方的に1千兆円の借金が増えてしまった、さあたいへんだ。というのもおかしい。

どうして1千兆円になったのか、どうしてそんなに外貨を持つのかということが明確じゃない。例えば海外なら為替介入の管理は議会が厳しく追求するので、広く監視の目が行き届いていますが、日本の場合、曖昧になっていることが問題だと思います。

 

2012/09/23


■ FINANCIAL #02

powerdby