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■ FINANCIAL #02

世界から俯瞰する日本の経済 vol.1

世界から俯瞰する日本の経済

今回のフィナンシャル対談は、ひびきフィナンシャルアドバイザー株式会社 代表取締役副社長の仲川康彦氏と、日米加豪の金融機関のヴァイス・プレジデントとしてトレーディング業務に従事された後、現在は金融コンサルタント・経済評論家・大阪経済大学経営学部客員教授として活躍され、多数の為替・国際金融関連の著書を執筆されている岩本 沙弓氏との対談です。「『世界恐慌への序章 最後のバブルがやってくる~それでも日本が生き残る理由~』と、発売1か月で3万部を突破したベストセラー『世界のお金は日本を目指す』の2つの最新書から、世界から見た日本経済の実情と近い将来への警告を語っていただきました。
日本の円高を考える。
仲川氏:今、日本のあらゆるマスメディアでは「円高はダメだ。もっと円安にすべきだ」という意見がマジョリティになっています。

岩本氏:円が強くなるということはつまり経済基盤が強いということですから、経済が強くなればその国の通貨は高くなるという宿命があります。

日本は戦後から着々と経済成長を目指して、それこそ爪に灯をともすようにして先進国の仲間入りを果たしてきたのですから、円高は悪だと言ってしまうことは、それを全否定してしまうようなものだと思うんですね。円高がダメだというよりもむしろ、その円高をどう活かしていくかだと思います。

仲川氏:いま新聞などマスコミでは「円高悪玉論」が多く出ていて、日本の経済自体に対して自虐的な印象も受けます。

でもこれってデジャブ(既視感)な感じで、数年前の経済危機の際も、新聞を開けば、やたら経済崩壊とか日本崩壊とかの広告記事が乱立してましたが、危機的な表題の広告が極まれる頃ってだいたい景気が良くなってくるような感があるんですけど、今の状態もそれに近いような気もするんですね。

そこで岩本さんの本を読ませていただいて、これはちょっと見方を変えていかないといけないのかなと感じましたね。結論から言うと円高は悪いことじゃないと。しかしこれは世間の多数意見とは対極にあるかと思うんですが。

岩本氏:そうですね。日本の場合どうしてもエネルギーを輸入に頼らざるを得ない経済構造になっていますから、元々輸入のための輸出だったのが、いつのまにか輸出が主流になっていたというのが今の状態です。

エネルギー、つまり石油を海外から輸入するために外貨を稼ぎ、それを輸入に充てていた。遡れば第二次世界大戦の時のABCD包囲網といった、補給線を全部塞がれてしまったゆえに、ああいう結果(第二次世界大戦への突入)になってしまった。

そうなると死活問題になります。いまだに輸入しなければいけない状況が続いていて、そんな中でも石油が安い価格で手に入るようになっていることは、それはもう円高の何よりのメリットのはずなんです。

たとえば1ドル200円、300円といった円安が良いという意見も、もちろん承知しています。でも今の日本経済で1ドル200円となれば、もはや「輸出産業企業が儲かってよかったね」という状況ではないですね。

今すでに1ドル78円の段階でガソリン価格は1リッター140-150円ですから、1ドル200円になれば、ガソリンはいったいいくらになるんですかということになります。

上がるときは急激に上がりますから、輸入産業にも影響しますし、なにより国内の流通コストにしわ寄せがきてしまう。

国民経済が疲弊するのはまさにそこで、やはり一方的に円高が良い悪いというより、メリットとデメリットがあるということなんです。

仲川氏: そうですね。我々も消費する側の目線の立場で考えれば、ある意味デフレを謳歌している部分もありますからね。例えば、東京の新橋や大阪のミナミ界隈の飲食店では非常にリーズナブルな価格で食事ができますし、100円ショップに代表されるように、そこそこ良いクオリティのものが安く買える。これはデフレの恩恵ですから。

世の中不景気だから給料が上がらない、預貯金金利がつかないって言っても、実質的なお金の価値は上がっているということにもなります。反面、輸出企業の目線になると、円高で収益が圧迫される、どんどん企業が海外に出ていってしまって産業の空洞化になるとか。

これって1995年の超円高の時も同じことを言ってましたね。もっと前、1985年のプラザ合意の時も。円高不況だ、経済崩壊だ、とずっと同じことを言ってますけど、じゃあそれで今日本がそんなにおかしくなってしまったかというと、そうでもない。

岩本氏:プラザ合意の時は中小企業はかなり大変だったと思いますが、あれだけ急激な円高を一方的に受け入れてしまうのは、やはり日本の政策のミスだと思います。

中国は今、当時のことを非常によく研究していて、為替レートの変異に対して毎日0.数パーセントという限りなく小さな推移で政策を打ってきました。

やはりあのプラザ合意の影響が大きかったことを判っているからだと思います。

残念なことに日本は産業の空洞化が起きてしまいましたが、1995年から2000年を経て現在、いまさら本格的に海外に出て行くところは少ないと思いますし、企業もリスクヘッジのしかたなどの為替マネジメントの知識も以前に比べれば格段に増してこられています。

為替も決して100%ドルとか100%外貨というわけでもなく、海外との貿易比率を見てみると輸出は5割弱円建てにされていますし、輸入のほうは70%ドル建てという統計がでています。

企業というのは非常に合理的な動きをしますから、実質的には新聞等で言われているよりも、円高の影響は少ないと思います。

仲川氏:日本は「輸出立国型」の国だと思っている方が多いですが、実は日本は輸出立国ではないと書いておられますね。具体的にはどういうことなんでしょう。

岩本氏:日本の輸出産業の裾野の広がりや影響力の大きさを否定するつもりは全くないですが、今のマスコミの報道を見ていると、日本の経済成長の8-9割を輸出で稼いでいるかのようなイメージですね。でも実際の比率はそこまで高くなく、GDPにおける輸出比率は約10数%です。

仲川氏:そんなもんなんですか。

岩本氏:ええ。非常に少ないです。これはつまり日本は内需の国だと言えます。

仲川氏:それは普通、我々の認識とかなり違いますね。

岩本氏:もちろん輸出産業企業が経済に及ぼす影響は大きいですが、実は皆さんが考えておられるよりも少なめで、過大評価されすぎではないでしょうか。

仲川氏: 日本と似ていると言われるドイツはどうですか。

岩本氏:ドイツは約33%あります。

仲川氏:そんなにあるんですか。

岩本氏:ええ。ドイツの場合は日本の3倍なので輸出立国と言っても良いですね。ですから昨今の欧州危機で、ヨーロッパ全体が疲弊しているように思われがちですが、ドイツ経済は非常に絶好調なんです。

最近になってようやく日本にも報道されてきましたが、ドイツは20年来の絶好調を保っていて、東西ドイツ統一バブルが発生していた頃と同じような経済成長率で、ここ数年3%を超えています。

仲川氏:すごい成長率ですね。先進国で3%は考えられない。

岩本氏:ええ。考えられないですね。各国おしなべて約1%程度の経済成長という中で、ドイツだけが3%というのは突出しています。

ドイツはやっぱりユーロ安の恩恵をかなり受けていると考えられますが、日本は輸出立国ではありませんから、円高であっても今年の企業業績は実はそんなに悪くなかったですよね。

仲川氏:ええ、意外と。悪い悪いと言っても、全ての企業の業績が悪いかというとそうでもなくて、相当数の企業が史上最高益を出しています。業績の良い会社の株価は上がっていますからね。

岩本氏:そうなんですよね。積極的に報道されていないだけであって、かなりしっかりされてる個別銘柄もありますから。去年の震災があって、タイの洪水があって、欧州の債務危機があって、さらにサブプライムをまだ引きずっているところに、プラス円高。

そんな外部環境の要因をいくらでも挙げていけばキリがないんですけれど、その最高益を出した企業とそうじゃなかった企業を比べると、実はそういう外部要因よりも経営戦略に要因があるほうが多いんじゃないかと思います。

 

2012/09/13


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